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火山災害の本質は「巨大」  井口正人・京大防災研究所教授

World Now 更新日: 公開日:

火山とどう向き合っていくかを考える上で、日本にとってインドネシアはとても参考になります。

まず、火山の地球科学的な位置づけが同じなのです。どちらも、プレートが沈み込んでいく地帯で火山が形成されています。マグマが単純ではなく、二つ以上のマグマが混ざるなど複雑な組成であることも共通しています。噴火の形態も一様でなはなく複雑です。ですから、インドネシアで起きたことは、日本でも起きるといえます。

もう一つの共通点は、人と火山の距離が近いということです。インドネシアの方が近さは上ですが、日本はそれに次いでいるといえます。たとえば鹿児島と桜島。あれほど都市と火山が近いところはほかにあまりありません。強いていえばイタリアのナポリぐらいでしょうか。

ロシアや米国も火山はありますが、火山と人の距離が遠いので、火山噴火に対する防災があまり大きな問題にはなりません。

火山のふもとは肥沃だし、一般に生活しやすいと言えます。インドネシアの場合は高地で涼しく、噴火でいったん人が逃げても、また戻ってくる。農業主体の産業構造のため、ほかで生きていくすべがないので戻ってくるという面もあります。これが現代の日本だと、農業の生産低下だけでなく第2次・第3次産業への影響がより大きくなります。桜島で、全島避難する規模の噴火が起こるときは,都市型災害の発生も同時に考えなくてはなりません。

日本では最近、噴火などが相次いでいることで、火山への関心が高まっています。ただ、まだ理解が十分だとは思いません。例えば、御嶽山の噴火は大勢が亡くなったので大きく報道されました。しかし、火口近くでの登山者のリスクに議論が矮小化されている気がしています。火山災害の本質は、もっと巨大なものです。巨大噴火のリスクも、やっと議論されるようにはなりましたが、原発への影響に論点が偏っているのが気になります。

巨大噴火といえども基本は避難が大事で、それが何人規模であっても避難できるような態勢をつくらなければなりません。人々を避難させるために、前兆現象をどううまくとらえて、噴火の規模を見定めるか。そのためにはまだまだ研究が必要です。

カルデラを形成するような巨大噴火は長期的には必ず起きますが、いつなのかは言えません。今はカルデラでない火山でそれが起きる可能性もあります。何年も前から前兆があっても、噴火がどのぐらいの規模になるのかの判断が難しい。規模が大きければ大きいほど、予測が困難なのです。

巨大噴火は、起こったときに使える対策を事前に考えておかないといけません。起きてからでは遅いのです。



いぐち・まさと 

専門は火山物理学で、桜島観測の第一人者。インドネシアの火山にも詳しい。


(聞き手・江渕崇)