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薬とカネ

[Part2]ムダな抗がん剤治療とは?/勝俣範之(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科部長)

photo:Ohta Hiroyuki

オプジーボは確かに高価な薬ですが、臨床医としては、患者のためにベストを尽くすのが務め。患者さんの自己負担額を気遣うことがあっても、公的医療の財政に直接気を使うことはありません。


ですが、オプジーボのような高額薬を使える環境を整えるためにも、当然ムダな医療は慎むべき、と考えています。


現在、医学界で世界的話題となっているのが、米国発の「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」運動です。科学的根拠に乏しいムダな医療をなくし、本当に必要十分な薬や検査だけを患者に提供しよう、という趣旨です。


例えば、風邪に対する抗生物質の投与は医学的にまったく根拠がありません。風邪のウイルスには抗生物質は効果がないからです。


がん治療の領域でも無駄遣いは多い。早期乳がんの手術後にCTスキャンなどの検査をやり過ぎたり、抗がん剤の副作用で減った白血球を増加させる薬を、本来は不要な場合にまで投与してしまったり。


医療費だけではなく、患者の「生活の質」の面から見て大きな問題だと考えているのが、終末期のがん患者に対して過剰な抗がん剤治療を行ってしまうケースが多いことです。



緩和ケアの充実と最期の日々


一般論で言えば、亡くなる3カ月前には、抗がん剤治療は終わらせているべきです。しかし、NPO法人がまとめた「がん患者白書2016」によれば、亡くなる1カ月前でも、抗がん剤などの積極的治療を行っていた人が65%もいました。


抗がん剤治療では、初めはよく効いた抗がん剤も、次第にがんの側に耐性ができて効かなくなる。それで次々と抗がん剤を変えていくのですが、進行がん患者の場合、延命効果が期待できるのは、2番目に使う抗がん剤ぐらいまでです。


それが効かなくなった後も延々と抗がん剤治療を続けると、残された貴重な日々を副作用で苦しむばかりか、生存期間も短くなりかねない。


一方、緩和ケアには生活の質を高める効果と一部には延命効果もあることが、医学的に証明されています。抗がん剤の治療をやめ、緩和ケアを充実させることで、最期の日々の生活の質を大幅に引き上げられます。


確かに、回復の可能性を信じている患者に医者が「抗がん剤の使用をやめましょう」と勧めるのは難しい。だけど、患者とよく話し合い、適切なタイミングで抗がん剤治療を終わらせることは、がん専門医としての義務だと思います。




もう一つの大きな「ムダ」は、抗がん剤治療を入院して受けるケースが多いことです。


抗がん剤の最もつらい副作用である「吐き気」については、近年優れた吐き気止めが開発され、ほとんどの固形がんでは抗がん剤治療が外来通院でできるようになりました。米国ではすでに9割以上が通院です。にもかかわらず、日本では「初回の抗がん剤治療は入院治療」というのが慣習化している。抗がん剤の専門医が少なく、感染症など副作用への対応に自信がないのも一因でしょう。


一方で、「ムダではないのにムダ扱い」されようとしているのが、高齢者への抗がん剤治療です。一部で「高齢者への抗がん剤治療はムダ」という主張がありますが、これには医学的根拠が乏しい。


抗がん剤は副作用の大きな薬ですから、高齢者には特に慎重に用いるのが当然です。だけど、実年齢ではなく、治療時点の患者の実際の体力がどの程度かという「生理的年齢」で判断するのが国際的な常識です。人間は高齢になるほど、同年齢でも身体状態のばらつきが激しいからです。


抗がん剤使用について年齢で一律に制限すれば、多くの患者から治癒や延命の可能性を奪いかねない。


高齢者の場合、積極的な治療を希望するかどうかという、本人の意向を確認することも大切ですが、ムダかどうかの判断は、まずは医学的根拠に基づいて行うことが大切です。


(聞き手・太田啓之)


かつまた・のりゆき 

1963年生まれ。国立がん研究センター中央病院などを経て2011年日本医科大武蔵小杉病院腫瘍内科教授。著書『「抗がん剤は効かない」の罪』『医療否定本の嘘』など。



「リアルに、クールに薬とつきあう」に続く)


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