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薬とカネ

[Part2]なぜ薬の値段は高騰するのか/佐藤健太郎(サイエンスライター)





この十数年で、薬の世界はすっかり様変わりしました。かつて大手製薬企業の売り上げを支えたのは、高血圧やぜんそくなど、多くの人がかかる病気が対象の「ブロックバスター」薬でした。分子量が数百程度の「低分子薬」で、化学工場で低コストで大量生産できます。


しかし、低分子薬の開発は行き詰まっています。かつてのブロックバスター薬の大半は、特許期限が切れて安価なジェネリック薬に市場を奪われ、新薬の治験も失敗続き。現在の売上高上位を占めるのは、分子量数十万のたんぱく質を薬として使う「バイオ医薬品」です。


低分子薬は体の隅々にまで行き渡りますが、バイオ医薬品は大きすぎて細胞の中には入れず、病気に関連する細胞表面のたんぱく質にくっついて作用します。対象となる病気は今のところ、特定のがんやリウマチなどに限られますが、時として劇的な薬効があり、副作用も少ないのが特徴です。2006年と16年の薬の売上高ランキング比較(06面参照)は、こうした「薬の主役」の変化を端的に表しています。


バイオ医薬品は遺伝子組み換えや細胞培養など高コスト技術で製造され、対象患者数も限られるため、薬価は低分子薬と比べ桁違いに高い。特許切れの後も後発薬が作りにくいのも特徴です。


リスクの大きいバイオ医薬品開発で主役となっているのが、小回りが利く米国のベンチャー企業=バイオベンチャーです。欧米の大手製薬企業は有力なバイオベンチャーを買収し、その成果を元に新薬を続々と送り出している。これに対し、低分子薬の開発に固執した日本企業は、完全に乗り遅れた。医薬品の貿易赤字は今や4兆円近くに膨れあがっています。


バイオ医薬品の流れに追いつくのか、何とか低分子薬で巻き返すのか。日本の製薬業界は正念場を迎えています。



(聞き手・太田啓之)




さとう・けんたろう

1970年生まれ。国内製薬企業での創薬研究を経て、2007年サイエンスライターに。著書『創薬科学入門』『医薬品クライシス』など。




「創薬の『生態系』最前線」に続く)




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