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[No.180]杉江理/Sugie Satoshi



WHILLの電動車いすに乗って、記者も街を走ってみた。幅60センチのコンパクトな車体が体をほどよく包み込む。右レバーでの操作は直感的で、体の一部のように動かせる。


前輪は24個の小さなタイヤを組み合わせてできており、後輪を軸にその場で回転できるほど小回りが利く。四輪駆動で砂利道や7.5センチの段差も越えられる。何より、街行く人に見られると、胸を張りたくなるデザインが心地良い。


「昔、メガネは『ダサい』と思われてたけれど、今はおしゃれでポジティブなものになり、グーグルグラスのような最先端の製品も出てきた。そんな新しい価値を創造していきたい」。社員40人の会社を率いるデザイナー出身の杉江理(34)は言う。


1台約99万円。2014年秋に本格販売を始め、これまでに世界で約800台を売った。昨年はグッドデザイン大賞も受賞。「デザインで社会の課題を解決しようというクリエイターの志の高さ」などが評価された。大企業との提携も進む。パナソニックとは自動走行などの共同開発を進め、NTTドコモとはテーマパークや公共施設での導入拡大に向け手を組んだ。


米国・シリコンバレーでの仕事風景
(本人提供)

本社は米・シリコンバレーにある。杉江が日本にいるのは1年のうち1カ月半程度だ。開発拠点の日本、生産拠点の台湾は共同創業者の内藤淳平(33)と福岡宗明(33)に任せ、もっぱら米国で販売拡大や製品のコンセプト作り、人材確保に集中する。3月には、新モデルが米国で医療機器としての認可を得た。


欧州進出の準備も進めている。「このビジネスを本気でやるには、世界を見ないと。日本だけでは市場が小さすぎる」


自ら発信できる仕事に


小学校からの友人・北村佑三(34)は、杉江について思い出す光景がある。


小学校高学年になり、公道で自転車に乗れるようになる頃のこと。友人たちが子ども用自転車で集まる中、杉江は大人が乗るような紫色のロードバイクで現れた。「小学生はこういうもの、という枠にとらわれない。人に何を言われてもぶれない。自分が良いと思ったものを素直に選ぶやつだった」。そんなマイペースな杉江だが、周りには不思議と友達が集まり、自然とリーダーになっているような子だった。


高校時代、所属していたバスケットボール部の仲間が白血病で死んだ。やんちゃだった友人が、病院のベッドで「学校に行きたい」「体育館に戻りたい」と言っている姿が心に突き刺さった。


「人生に順番なんてない。いつ死ぬか分からない。僕は死ぬときに後悔しないだろうか」。やりたいことをやり、悔いのないように生きようと思った。


大学ではボクシングに熱中したが、卒業後に何がしたいかは定まらないまま就職活動の時期に突入。たまたまセミナーで聞いた日産自動車社員の話に感動した。ものづくりこそ「自ら発信できる仕事」だと感じ、就職浪人をして一からデザインを学び、デザイナーとして日産に入社した。


3年目に転機が訪れる。ペットボトルに別の飲み物を入れて再利用する母親の姿を見て、何度使っても開けやすいペットボトルのフタをデザインしたところ、ある雑貨メーカーが権利の買い取りを申し出てきた。だが、それは社内の副業規定に反することになる。


「大企業ではパーツとしての仕事しかできない。車のランプのデザインは変えられても、タイヤを三つにするのは難しい」。悩んだ末に日産を飛び出し、3日後には中国へ。南京で1年ほど日本語教師をしながら中国語を学んだ後、2年かけてボリビアやラオスなど世界を回った。


旅の中で、再びものづくりへの情熱がわきおこる。「ソニーやトヨタなど、日本製品の性能の高さが日本人への尊敬につながっていた」。ものづくりで世界に影響を与えたい、と改めて思った。


電動車いすにたどり着いたのは偶然だ。共同創業者でソニー出身の内藤、オリンパス出身の福岡らとは元々、課外活動としてものづくりをしていた。そこで開発に取り組んだ一つが車いすだった。


ユーザーとWHILLのテスト走行をする
(本人提供)

ユーザーの話を聞きに行き、「100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」という言葉に衝撃を受けた。砂利道や段差が越えられないという機能面に加え、周囲の視線が気になり、外出をためらうのだという。健常者でも乗ってみたくなるデザインと、機能性を兼ね備えた車いすを目指そうと決めた。


11年、試作機を東京モーターショーに出展すると大きな反響があった。望まれていることを実感。消費者に「製品」として届けるために会社をつくった。


創業から1年で米国進出を決めたとき、3人の創業者の中でリードしたのは杉江だった。製品についての話し合いでは、言葉で説明する前にスケッチを描く。「(無から有をつくる)ゼロイチが得意な人間」だと福岡は言う。




(次ページへ続く)

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