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自立目指す元専業主婦

[第212回]泉京鹿 翻訳家

Photo: Nishida Hiroki


10月1日は中国の国慶節。毎年この時期には、中国共産党推奨の模範的人物や歴代指導者の伝記や発言集がベストセラーになるが、内容的にはプロパガンダで、多くが団体購入や義務感によるいわば組織票によるもの。今年も『習近平的七年知青歳月』などが平積みだ。


一方、ノンフィクションのベストセラーは季節を問わず、映画やテレビドラマの影響が大きい。『我的前半生』は、上海生まれ、5歳で香港に移住、後にカナダ国籍を取得した亦舒が1988年に発表した長編小説だ。30年ほど前に書かれた本書が注目されたのは7月に放映され大ヒットしたドラマの影響だが、このドラマ、大幅に改編されており、ほぼ別モノと言っていい。


本書の舞台は香港。8歳の息子と12歳の娘、医師の夫・涓生と暮らす子君は、家事や子供の送り迎えはメイドや運転手まかせ、エステで自分磨き、ブランドショップで贅沢なショッピング、女友達とランチの日々の優雅な専業主婦。ある日、突然夫から離婚を切り出され、子供たちとも離ればなれに。親友・唐晶のサポートで働くうちに自身を見つめなおし、新たな人生を切り開いてゆく。


一方、ドラマ版では舞台を現代上海に移したことにより、社会主義の中国では、本来ほとんど存在しなかった専業主婦というこの設定が生きた。


時代も時も超えて、小説もドラマも多くの女性たちの心をつかんだのは、プロパガンダやイデオロギーに縛られないさまざまな生き方や幸せの形があることを、もはや誰もが知っているからだ。

ただし、ドラマ版は家族構成や夫の職業も異なり、小説には登場しないオリジナルの人物も多く、キャラクターや暮らしぶりの演出も極端にデフォルメされている。また、小説では、子君に反発しつつもいつしか理解者となる娘や、ゲイである陶芸の師匠との関係が素敵なのに、ドラマにはいずれも登場しないのが残念。ただ、ドラマそのものはとても楽しめる。



(次ページへ続く)

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