RSS

世界の書店から

[第157回]誰の生活もひとつの世界

泉京鹿 翻訳家





photo: Sako Kazuyoshi

フィクション、ノンフィクションを問わず、中国では翻訳物が売れている。


国家新聞出版広電総局の統計によれば、昨年1年間で中国が海外から輸入した図書の版権は1万6918項目で、輸出の1万171項目に対し1.66倍と輸入が輸出を大きく上回る。国家戦略として政府が推し進める『走出去(海外進出)』の一環として出版業界が輸出増加に力を注いできたこともあり、輸出入の不均衡は年々縮小傾向にあるものの、まだ輸入の方が多い。それは、ベストセラーリストにも表れている。


今回のベストテンのうち、実に半分が翻訳書。世界的ロングセラーあり、邦訳未刊の昨年の米国のベストセラーあり、東野圭吾あり……。海外の文芸を貪欲に知ろうというこの欲求こそ、世界で存在感を示す中国の勢い、さらなる発展、成熟を育むエネルギーの源なのではないか。




『平凡的世界』の主人公の一人・孫少平もまた、貧しい農民の子ながら高校に進み、日々飢餓に耐えながら外国文学を借りてきては、むさぼるように読む。卒業後も理想的な仕事にはつけず、工事現場や炭鉱で肉体労働を続けるが、抑え難い読書欲の満たされぬ歯がゆさが折々に顔を出す。1970年代半ばから80年代前半、黄土高原の農村・地方都市で生きる人々を丹念に描いた本書で若い男女を結びつけるのも、当時は貴重だった翻訳書である。


少平、そしてこの弟や妹たちのために進学を諦めた長兄・少安。本書はこの兄弟とその家族、彼らの愛情を中心に語られる。1200ページを超える長編ながら非常に読み易い、登場人物に寄り添うような平易な語り口で、エキサイティングな起承転結があるわけではないが、最後まで飽きさせない。



…続きを読む

この記事の続きをお読みいただくためには、購読手続きが必要です。
GLOBE総合ガイド
  • ログインする
  • ご購読申し込み

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

「朝日新聞デジタル(フルプラン)」を購読済みの方は、ご利用のログインID・パスワードでGLOBEデジタル版の全てのコンテンツをお楽しみいただけます。「ログイン」へお進みください。
朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Back number | バックナンバー

[第209回]美濃口坦 翻訳家、ライター 保守派が論じる「メルケルとは何か」@ミュンヘン

[第209回]美濃口坦 翻訳家、ライター
保守派が論じる「メルケルとは何か」@ミュンヘン

[第208回]戸田郁子 作家、翻訳家 女に我慢強いる社会@ソウル

[第208回]戸田郁子 作家、翻訳家
女に我慢強いる社会@ソウル

[第207回]宮家あゆみ ライター、翻訳者 タレント議員のユーモア@ニューヨーク

[第207回]宮家あゆみ ライター、翻訳者
タレント議員のユーモア@ニューヨーク

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示