里親に関心をもち、実際にこどもを迎え入れるまでには、家族の理解を得ることがとても大切です。同居・別居にかかわらず、パートナーや実家の両親などにわかってもらうには、どのようなことが必要なのでしょうか? 自らも養育里親としてこどもを育てている里親研究者・三輪清子さんとともに、家族の理解を得ることについて考えました。
なぜ大事? 一緒に暮らしていなくても必要? 家族の理解を得る理由
「家族の理解を得ることは、こどものためであり、自分と家族・親族、双方のためでもあると思います」と、三輪さん。
「よく知らない子がやって来たら、家族もどう対応すれば良いかわからず、困ってしまいますよね。受託した子が過ごしやすいように協力してもらう意味でも、理解を得る努力は必要かな、と。里親とはどういうものか、一緒に暮らすのがどんな子で、どんな背景を背負っているのかといったことを事前にしっかり話しておけば、家族も対応の仕方を考えられます」
これは、家族の年齢にかかわらず必要なことではないかと、三輪さんは感じています。
「実子がまだ幼い場合でも、たとえば、『その子のお母さんがひとり親で、一緒に暮らすのが難しくなったからこの家に来るんだよ』などというように、ある程度の事情を説明しても良いと思います。そのうえで、友だちに『あの子、だあれ?』と聞かれたときにどう答えるのかを一緒に考えるなど、家族で話し合う時間をもつことが大事ではないでしょうか。
ただし、個人情報が関わってきますし、事情を詳しく言えないケースもあるので、どう伝えるかは児童相談所やフォスタリング機関※の方と相談するのが良いと思います」
※フォスタリング機関:里親の検討期から登録後まで、継続的に里親をサポートする機関。里親の研修や相談支援を行う。
また、理解を得ることが大切なのは、同じ屋根の下で暮らす家族だけでなく、別居している場合も同様なのだとか。
「こどもを預かってもらったり、一緒に買い物に行ってもらったりすることもあるでしょうから。また、こどもたちにとって、出会いはとても大事なもの。よく言われる“豊かな人間性と社会性”を養うには、里親さんを含むさまざまな大人がお手本となるので、親戚の方などにも理解を得たうえで会ってもらうと良いですね。そうすることで、こどもにも『自分も家族の一員として認められている』という気持ちが芽生えると思います」
一方で、三輪さんは「絶対に理解してもらわなくてはいけない、とは言い切れない」とも考えています。
「里親としてこうあるべき、とひとつの枠に収めるのは必ずしも良いことではないのかなって。自治体によっては、里親認定時に家族の理解を得ていることを重視するところもありますが、なかには、夫の両親に反対されたけれど熱意で里親になった、という方もいます。それでも役割をしっかりと担って素敵な里親さんになっていたりするので、絶対にダメ、とは言えないですね」
時間をかけて知ってもらえば、家族みんなのためになることも
現在、ご夫婦で里親として小学5年生のお子さんを育てている三輪さん。児童養護施設に勤めていたころに「こどもが家庭で育つことの大切さ」を実感し、その思いを聞いた実家の両親が先に里親となって、こどもを迎えはじめたそうです。
「実家はキリスト教の教会で、両親は社会福祉や里親にもともと関心がありました。ちょうど実子が大きく育ち、こどもの声が恋しくなってきたタイミングでもあったので、私の話をきっかけに里親登録をしたみたいです。私もずっと里親をやりたい気持ちはありましたが、夫は福祉とは特に関わりがなくて。でも、付き合っているころから、彼と一緒にうちの子(※実家で暮らしていた里子)を連れて遊園地に出かけたりしていました。いわゆる刷り込みですね(笑)」
さまざまなこどもたちと会っているうちに、夫は不意に「ライフワークとして里親をやりたい」と思いを漏らします。そこからさらに1年ほど時間をおいて、その決意が変わらないか確認した後、こどもを受け入れる準備を始めました。
「家族全員が里親に興味をもっているのでなければ、理解を得るには、やっぱり時間をかけて少しずつ知っていってもらうことが必要だと思います。わが家の場合、刷り込み期間から登録するまでにかかった時間は12〜13年ほど。
でも、今思えば、結婚してすぐの時期はふたりとも大人としての成熟度が足りなかったので、こどもにもっと厳しかったりしたかもしれません。時間をかけて始めたから良かったのかなと、いろいろな場面で思うこともありますね」
家族にも少しずつ知ってもらい、里親のイメージを固めていく。もちろん、アプローチの仕方はさまざまですが、このプロセスが土台となって現在につながっているようです。
「里親に対する理解を深めるために、自治体などで開催している里親セミナーなどに参加するのも、ひとつの方法だと思います。里親をしている人から、きっかけやこどもが来てからの日常の変化、やりがいといったお話を聞くことは、とても参考になりますから。開催日などの情報は、“地域名+里親セミナー”のインターネット検索で見つけられます。また、フォスタリング機関の方ががんばっている地域なら、個別のオンライン相談会などを開いていたりするので、こういったものに参加するのも良いでしょう」
もうひとつ、なぜ里親をしたいのかを自分自身で掘り下げておくことも必要だとか。
「里親をすることは、仕事ではなく“人生”なんですよね。里親は社会的養護のお子さんを預かって、そのこどもの人生のために一緒に生活していくということ。それを自分の人生として選択していいのか、自分に問い掛けることはすごく大事です。里親になる人生もならない人生も、どちらも素敵だと思うので、自分がなぜその人生を選びたいのかを考えて、それを家族にも伝えらえるといいと思います」
周囲にも理解が広がれば、里親とこどもの負担も減らせる
ある日、家族が増えるとなれば、学校や近隣のコミュニティといった周囲の理解もいずれ必要となってきます。こどもを迎え入れたとき、周囲にはどのような説明があると良いでしょうか?
「わが家の場合、担任の先生に話を通したうえで、保護者会の席でお母さんたちに里親をやっていると自己紹介しました。近所では、両隣のお宅に伝えています。『里親を始めて、小学1年生のこどもが来ました。養子縁組ではないのでお母さんのところに帰ることもあります』といったことを事前に少し伝えてから、改めてこどもと一緒に挨拶に行きましたね」
もともと、両隣のお宅とは道で会ったら挨拶する程度のお付き合いだった三輪さんですが、顔見せをしておいたことで、困っていたこどもを助けてもらえた経験があります。
「夫が帰宅時間を間違えてしまったため、こどもが家に入れずに泣いていたそうなんです。そのとき、隣のお母さんがこどもを家に上げて、おやつをくださって。こどもと一緒に夫の帰りを待ってくれました」
こうしたアクシデントを考慮すると、可能な限り周囲にお知らせしておくのが良いようです。伝えるとき、三輪さんは「自分の中で言いやすいように整理しておいて、できるだけフラットに」を心がけていました。
「周囲に恵まれていたのかもしれませんが、学校でもご近所でも、皆さんの反応は『そうなんですね』といった感じで、すんなり受け入れられたように思います」
以前、実家で一緒に過ごした委託児童のなかには、家が里親であることを友だちに言わずに後ろめたい思いをしていた子もいたそうです。そうしたこどもたちと触れ合うなかで、三輪さんは、社会全体に里親制度への理解が広まってほしいと強く願うようになりました。
「当時は、今と比べて里親に対する理解が広まっていなかったので、もの珍しげに見られることもあったのだと思います。でも、私がアメリカでホームステイをしていたとき、その家には養子縁組の子が一人いましたし、実家が里親だと伝えても『ふーん』と過剰ではない反応だったりして、居心地の良さを感じることができました」
里親を普通のこととして受け止めてもらえれば、里親もこどもも負担が軽くなるはず。近年、地域によってもまだ差はあるものの、里親への理解は進んでいるそう。
「同じように地域差はありますが、里親の支援体制も広がっています。里親さんが悩んだときに相談し、支援を行うフォスタリング機関の数も増えてきました。家族の理解を得ることは大切ですが、里親になりたいと思ったら、こうした場所を利用しながら即行動、となっても私は良いと思います。里親はその子の人生のための制度。一番大事なのは社会的養護という点なので、それを理解したうえで、里親になるという選択もあるのではないでしょうか」
三輪 清子(みわ・きよこ)/明治学院大学 社会学部 社会福祉学科 准教授、社会福祉士。1998年から実家が里親家庭となり、7年間、委託されてきたこどもたちと生活。児童童養護施設に2年間、学童保育所に3年間勤務したのち、1年間の渡米を経て東京都立大学に入学。2008年に卒業後、首都大学東京大学院へ進学し、博士(社会福祉学)取得。立正大学 社会福祉学部 社会福祉学科 助教を経て現職、社会福祉士の養成に携わる。一貫して里親に関する研究を行っており、現在は東京都の養育里親として、1名のこどもを受託している。