「里親になってみたいけれど、どこに問い合わせればいいのかわからない」
「里親に興味があるから、手続き方法を知りたい」
そんな思いで、里親へ前向きな気持ちを持つ人たち。そういった人たちを支えてくれるのが「フォスタリング機関」です。
「フォスタリング機関」は、里親になることを検討する段階から、里親登録後まで、継続的にサポートする機関です。東京都江戸川区でフォスタリング機関を担う「二葉乳児院」の神田瑞季さんと、連携して里親を支援する江戸川区児童相談所「はあとポート」の髙橋研吾さんにお話を聞きました。
「顔の見える支援」を 「継続的」に
――最初に、フォスタリング機関とはどんなことをするところなのでしょうか。
髙橋:こどもにとってより良い里親養育がなされるために、さまざまな支援を行う機関です。具体的な活動としまして、里親を増やすための「リクルート」、里親登録前やお子さんを迎え入れた後の研修を行い、そのこどもに最も合う里親を条件や相性などを考慮して選び調整する「マッチング」、養育中の支援などがあります。一連の支援を行うので、「里親養育包括支援機関」ともいいます。
「里親になりたい」という問い合わせのときから、継続的にフォスタリング機関が関わらせていただくようになっています。
本来里親さんの支援は児童相談所の仕事ではありますが、現在は「里親養育包括支援(フォスタリング)事業」という制度があり、民間の機関に委託することができるようになっています。江戸川区は二葉乳児院さんに委託しており、民間ならではの視点から里親さん支援ができるというメリットがあります。
フォスタリング機関が関わることで得られる里親さんサイドのメリットは、支援担当者と「顔の見える関係」を継続的に築くことができることです。行政機関では人事異動などで担当者が代わってしまうこともありますが、民間フォスタリング機関ではなるべく同じメンバーがサポートを続けるので、継続的に悩み事、困り事を相談しやすい環境がつくれるようになっています。おのずと信頼関係もつくりやすくなるかと思います。
神田さんはじめ、二葉乳児院のフォスタリング機関担当者の方たちとは、「はあとポート」(江戸川区児童相談所)の中で机を並べて仕事をしていますので、里親さん関連のイベントや日常的なサポートのときなど、どうしたらよりよい支援ができるか、常に話し合うことができます。
――江戸川区のフォスタリング機関は、二葉乳児院が担っています。乳児院というところになじみがない人もいるかと思いますが、どんなところなのでしょうか。
神田:乳児院は親御さんの病気や虐待など、さまざまな事情によって実家庭と離れて暮らさざるを得ないお子さんが生活をする施設です。一般的には乳児が多いのですが、二葉乳児院では0歳から就学前のお子さんが生活をしています。また、二葉乳児院の2階には地域子育て支援センターが併設されており地域の開かれた施設として、妊娠中から子育て中までの親子の支援を行っています。ですから、里親さん家庭はもちろん、養子縁組家庭など地域の子育て家庭を広く支えさせていただいています。
「チームで育てる」 問い合わせ時からサポート 共働き家庭向けにオンライン対応も
――さまざまな家庭をサポートしているからこそ、里親家庭にも幅広い支援ができそうですね。具体的にはどういうかたちで支援をしているのでしょうか。
神田:江戸川区の場合、里親に関心を持たれた方にはまず、「はあとポート」(江戸川区児童相談所)にお問い合わせいただき、里親説明会にご参加いただいています。説明会はお電話でも、ネットでも申し込みができます。その時点から「里親リクルーター」という職員が担当として、質問に答えたり相談に乗ったりします。参加者の方たちからは「思っていたよりも話しやすい雰囲気でよかった」などの声をいただいています。
たとえば養育里親制度と養子縁組の違いがわかりにくいなどの声もいただきますので、両者の違い、養育里親制度は長期もあれば短期間の養育もあること、里親家庭への経済的支援があることなども、丁寧に説明します。
その後里親になりたいというお気持ちがある方にはまず、はあとポートに来ていただき、面談を行って、家族構成などご家庭の状況を聞くとともに、里親制度について詳しくご説明します。また里親になるための要件を満たしているかどうかについても、ここで確認させていただきます。
里親登録のための「認定前研修」に進んだら、「里親トレーナー」という職員が担当につきます。研修では座学が2日、実習が2日あり、お子さんの健康や心のケアについて学んだり、児童養護施設や乳児院で実習を受けたりします。
髙橋:江戸川区では里親登録への申請の前に研修を行います。想像していたことと実際の里親としての生活にはギャップがあるかと思いますが、実習などを経験することで養育の実態を直接確認していただき、そのうえで里親になりたいというお気持ちが変わらなければ、ぜひとも申請していただきたいと思います。
神田:もちろん「ちゃんと育てられるだろうか」などの不安は皆さんお持ちだと思います。そのようなときに寄り添って支えるのが、私たちフォスタリング機関の役割です。
申請後は「家庭調査」として、家庭訪問をさせていただきます。今後どのようにお子さんを育てたいかなどのお話を聞いたり、お子さんが使う予定のお部屋やリビング、お風呂場などを見せていただいたりします。たとえば小さなお子さんを受け入れる場合、「ここの角がちょっと危ないのでカバーをつけましょう」など、そういった安全面でのアドバイスもさせていただきます。
髙橋:こどもを養育するということを里親さんのみにお任せするのではなく、「はあとポート」、フォスタリング機関、里親、学校などの関係機関みんながチームとなって育てる「チーム養育」をめざしています。
家庭調査の後は学識経験者などからなる「児童福祉審議会」で認定が適当であるかどうかを審査し、認められた場合は登録にいたります。ケースバイケースですが、最初の相談から登録まではおおむね半年ほどかかります。
神田:最近の話ですと、やはり共働き家庭も増えてきていますので、説明会を土日に開催したり、平日夜にオンライン相談会を開いたりもしています。また私たち江戸川区の里親支援チームの名称である「江戸川区里親ステーション ふぉれすと」の公式LINE(https://lin.ee/NDlmOed )もできましたので、ぜひのぞいてみてほしいなと思います。
里親委託後はお電話や家庭訪問などで定期的に近況をうかがって相談に乗ったり、お子さんが通う学校など関係機関とも連携したりしながら、お子さんにとってどんな養育がいいのかということを里親さんと一緒に考えていきます。
また冠婚葬祭などで一時的に養育ができないときなどは、ほかの里親さんのところで必要な期間預かっていただくなどのサポートも手配します。
また、お子さんが里親家庭を巣立ったあとも、進学や就職などの相談に乗るなど、自立支援もしています。
フォスタリング機関を通じて知り合った里親さん同士の交流もあります。テーマを決めて勉強会を開くこともありますし、もう少しラフに、お話会をして相談しあったりアドバイスをもらったりなどもされています。
「こどもの幸せ」が一番の目標 「まずは問い合わせてみて」
――実の親と暮らせないなど「社会的養護」を必要とするこどもは、いまの日本で約4万2千人いるといいます。
髙橋:はい。東京都内では現在約4千人、江戸川区では約300人のこどもが社会的養護を必要としています。その中で実際に里親家庭に委託できているのは1割程度で、それ以外のこどもたちは児童養護施設や乳児院などで生活しているのが現状です。
里親としてお子さんをお預かりいただく期間は、自立までの十数年間の場合もあれば、数日、数カ月の場合もあります。里親さんには、いろいろなかたちでお子さんの助けになっていただくことができます。もしいま迷われている方にも、家庭の状況に応じて受け入れていただくこともできますので、まずは一歩踏み出して問い合わせていただければと思います。
神田:「こどもが幸せに暮らしていける」ということが一番の大切な目標ですので、チームの一員として、一緒にお子さんの幸せを考えてくださる方たちと養育していけたらと思います。
たかはし・けんご/江戸川区児童相談所「はあとポート」職員。援助課里親支援係長として、日々里親やこどもたちと向き合っている。
かんだ・みずき/「江戸川区フォスタリング機関 二葉乳児院」の里親リクルーター。里親を検討している人や、里親家庭をきめこまやかに支援している。