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世界報道写真展から

世界報道写真展から——/極度の緊張 しがみつく少女

[第11回]イボール・プリケット

写真家のイボール・プリケット

少女は、母親だろうか、黒い服装に身を包んだ女性にしがみつき、不安げに周りを見ていた。長年の抑圧状態から解放されるという興奮と不安、恐怖。「この少女の様子は、極度に緊張したこの場の空気を象徴している」。そう思ったアイルランド出身の写真家、イボール・プリケット(34)は、夢中でシャッターを切った。


2017年3月、イラク北部モスルの西部を防弾ガラスの車で移動していた。1週間前に過激派組織「イスラム国」(IS)の手からイラク軍が解放したばかり。従軍取材を許され、日が落ちるなか宿泊先の軍の拠点へと道を急いでいた。


だが、同乗のセキュリティー・アドバイザーの制止を振り切り、車を降りた。普段は出歩く人がほとんどいない場所に、突如、数百人の人波が現れたからだ。


人々が外に出ていたのは、解放後初めての食料配給を受けるためだった。イラク軍兵士がトラックの上で配る砂糖や缶詰などの食料品を、我先にとつかんでいた。1キロほど先ではいまだISとの戦闘が続き、砲撃の音が聞こえていた。ISの戦闘員や協力者は、食料配給場所を狙うとも言われていた。人々は、一時も早くここを立ち去りたい一心だった。


銃声が響いた。兵士が、牽制のために空に向かって銃を撃ったのだ。人々は諦めたように男女に分かれて列に並び始めた。長さは数百メートルに及んだ。


紛争地で撮影を続けてきた。中東は09年から。しかし、戦争に興味があるわけではない。「戦闘が終わった後、人々がどう生き延びるかを、記録に残したいんです」




モスル


イラクでは2011年の米軍の完全撤退後、宗派対立が激化し、スンニ派の過激派組織が台頭した。14年にイラク第2の都市モスルを占拠すると、ISに改称し、「カリフ制国家」の樹立を宣言した。


イラク軍は16年10月、モスルの奪還作戦を開始。17年1月までにモスル東部を制圧した。IS戦闘員が立てこもった西部の旧市街では、戦闘員が逃亡する市民を処刑したり、戦闘員の家族が軍に自爆攻撃を仕掛けたりするなど凄惨を極めた。米軍主導の有志連合による空爆に巻き込まれて多数の市民が犠牲になった。アバディ首相は7月、モスルの奪還を宣言した。


(GLOBE記者 高橋友佳理)


 ◇


世界報道写真展2018(世界報道写真財団、朝日新聞社主催)

18年の大賞はベネズエラのロナルド・シュミット氏の「ベネズエラ危機」に決まりました。写真展は6月9日から8月5日の東京都写真美術館から各地で。

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