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億万長者サッカー選手の社会貢献 ライバルもピッチ外で協力

Insight 世界のスポーツ 更新日: 公開日:
17年12月のレスター戦でゴールを決め、テレビカメラに向かって手を合わせるマタ(左) Photo: AP

鮮やかな左足のフリーキックがゴールネットを揺らす。マンチェスターUのフアン・マタは、ピッチ脇のテレビ中継用のカメラに向かって駆け出し、手のひらを合わせた。仲間との歓喜の輪がとけると、念を押すように再びカメラに向かい、もう一度手を合わせ、おじぎした。

昨年1223日、サッカーのイングランド・プレミアリーグ(1部)、岡崎慎司が所属するレスターとの一戦での一コマだった。このポーズには、特定の子どもたちへのメッセージがあった。

スペイン代表のミッドフィールダーとしてワールドカップ(W杯)、欧州選手権優勝に貢献してきたマタは昨年8月、社会貢献活動をスタートさせた。年俸の1%以上を恵まれない子どもたちに支援するプロジェクト。名称は「COMMON GOAL(コモンゴール=共通のゴール)」。「共通の目標」と訳した方が、意義が伝わるかもしれない。

昨秋、インド最大の都市ムンバイの貧困地区で暮らす子どもたちを英マンチェスターに招いたとき、ゴールを決めたらインド流のあいさつの作法「ナマステ」のポーズをすると約束していた。

29歳のマタはバレンシア(スペイン)、チェルシー(イングランド)で、チームメートが慈善活動に力を入れるのを見てきた。昨夏にムンバイを訪れ、子どもたちと触れあう機会があった。「いかに自分が恵まれた環境で暮らしてこられたかを実感したし、厳しい生活を強いられている人たちがいることにも改めて気づかされた」

香川真司も名を連ねる

サッカー教室などで社会貢献を行う「ストリートフットボール ワールド」という団体を知人から紹介され、その活動の一環としてプロジェクトを立ち上げた。

推定年俸は約730万ポンド(約11億円)とされるマタは力説する。「僕の年俸の1%なんて大した額ではない。究極の目標はサッカーに携わるすべての人々が関わってくれることなんだ」

インドのムンバイを訪れたときに現地の若者たちと写真を撮るマタ Photo: Common Goal

 監査法人デロイトの資料では、201516年シーズンのイングランド・プレミアリーグ全体の選手年俸は約30億ユーロ(約4080億円)に上る。つまり、プレミアリーグの全選手が1%を寄付すれば、約40億円がチャリティーに回ることになる。

賛同者は増え、昨年末時点でドイツ代表のマッツ・フンメルス(バイエルン・ミュンヘン)ら34人になった。

マタとマンチェスターUで一緒にプレーした香川真司(ドルトムント)も名を連ねる。「シンジとは同じクラブでプレーして性格も知っており、賛同してくれると思った。日本人第1号になってくれたことは、サッカーはもちろん、社会貢献に対する情熱、勇気がどれだけ大きいかを物語っている」とマタは言う。「日本のJリーグの選手たちも加わってくれたら大歓迎だ」とも。

 昨年暮れのレスター戦で2ゴールを決めたときに相手ゴールを守っていたデンマーク代表のカスパー・シュマイケルも加わった。彼は地元紙のインタビューで、その理由を語っている。「サッカーで目標を達成するために求められるのはチームワーク、団結力。それによって絆が深まるのがスポーツの素晴らしさだ」

ピッチでは敵味方としてしのぎを削るライバルたちが、ピッチの外では手を携える。「共通の目標」に向かって、その輪は広がっていく。(文中敬称略)