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陸上自衛隊水陸機動団は小型のアメリカ海兵隊ではない

軍事社会学者 北村淳 #26




先頃陸上自衛隊内で編成され発足した水陸機動団は、日本のメディアなどではしばしば「日本版海兵隊」と呼ばれている。この表現は「海兵隊=アメリカ海兵隊」という誤解に基づき、アメリカ海兵隊を「お手本」として自衛隊にアメリカ海兵隊の「小型版」が誕生したと錯覚しての呼称である。


日本版(アメリカ)海兵隊!?


たしかに、これまで侵略的行動という軍事的には誤った解釈に遠慮して自衛隊に保持させることをためらってきた水陸両用作戦能力を、水陸機動団は身につけることになり、陸上自衛隊では初めての部隊であるという点においては、水陸両用作戦能力を「お家芸」としているアメリカ海兵隊と類似していると考えることはできる。


また、10年ほど前から自衛隊に水陸両用作戦能力を構築させようと働きかけを始め、数年前からはアメリカ海兵隊が中心となってアメリカ側が本格的にプッシュしてきたため、日本側にアメリカ海兵隊の「小型版」あるいは「初歩的ステージ」との意識が生まれても無理からぬところかもしれない。


さらに、アメリカ海兵隊が半世紀以上にわたって使い続けてきているアメリカ海兵隊を特徴付ける装備の筆頭ともいえるAAV-7水陸両用強襲装甲車、そしてアメリカ海兵隊にとっては新鋭の航空移動手段であるMV-22"オスプレイ"ティルトローター中型輸送機、の調達を陸上自衛隊は開始した。そのため、ますます「日本版(アメリカ)海兵隊」という呼称が広まりかねない状況になりつつある。


アメリカ海兵隊のAAV-7(写真_筆者)


しかしながら、いくら日本のメディアなどが水陸機動団を「日本版(アメリカ)海兵隊」などと呼称しようが、実際にはアメリカ海兵隊の小型版にはなりようもない部隊と言うことができる。


海軍と一体化されている


第一に、アメリカ海兵隊は常にアメリカ海軍と行動をともにすることを大前提にして組織されている。


アメリカ海兵隊の主たる任務は地上での戦闘ではあるものの、やはり地上での戦闘を主たる任務にしているアメリカ陸軍とちがって、アメリカ海兵隊の主たる行動パターンは、海上から陸地に到達して地上での作戦に従事するという流れになっている。


そのため、アメリカ海兵隊は海軍の水陸両用戦隊と密接な連携を保ち、世界中の海を強襲揚陸艦や輸送揚陸艦に積載されて出動し、目的地沖合からはヘリコプター(海兵隊が運用)、オスプレイ(海兵隊が運用)、水陸両用強襲装甲車(海兵隊が運用)、上陸用舟艇(海軍が運用)、揚陸用ホバークラフト(海軍が運用)などによって陸地に殺到するのである。


このような行動パターンをとるため、アメリカ海兵隊とアメリカ海軍は、作戦立案はもとより装備や兵員の積み込み計画策定段階から実際の移動、作戦実施、とすべての場面を通して、密接な意思疎通と協力関係が維持されていなければならない。


また、すべての将兵が戦闘員という伝統を維持しているアメリカ海兵隊には独自の衛生兵が存在しない。そのため、海兵隊の作戦行動には海軍衛生兵が常に海兵隊員と共に各種作戦行動を共にすることになっている。


このように、アメリカ海兵隊とアメリカ海軍は一つのチームとして動いているのであり、海軍と陸軍による協力、あるいは海陸空の統合運用といった連携よりも密度の濃い一体化がなされているのである。


ところが、陸上自衛隊と海上自衛隊それに航空自衛隊の統合運用などはこれから造り上げていくべき大きな課題といったところであるし、そもそも陸上自衛隊の水陸機動団と一体化されて作戦行動に従事する海上自衛隊の組織は見あたらないのが現状である。


独立した軍種である


つぎに、「日本版(アメリカ)海兵隊」という呼称が実態とかけ離れているのは、水陸機動団が小型版のアメリカ海兵隊であるならば、水陸機動団は陸上自衛隊から独立させられねばならないという点である。


上記のように、アメリカ海兵隊はアメリカ海軍と密接な協働関係を維持している。そして行政的・予算的には海軍も海兵隊も共に海軍省に所属している。そのため、シビリアンコントロールの仕組みからは、アメリカ海軍軍人のトップである海軍作戦部長も、アメリカ海兵隊軍人のトップである海兵隊総司令官も、シビリアン(非現役軍人)のポストである海軍長官の指揮下に置かれている。しかしながらアメリカ海兵隊とアメリカ海軍は完全に独立した軍事組織であり、互いに指揮命令権や人事権などがオーバーラップすることはあり得ない。


この点からも、陸上自衛隊の一部隊である水陸機動団を、アメリカ海兵隊の小型版、などとイメージするのは全くの見当違いと言える。


MAGTF


さらに、アメリカ海兵隊はMAGTF(マグタフ:海兵空陸任務部隊)という独自の戦闘組織構造を生み出し、それを最大限に活用してアメリカ陸軍との差異を決定づけてきた。


作戦目的地沖合までは海軍水陸両用戦隊に搬送してもらわなければならないアメリカ海兵隊といえども、海上から陸地に到達して作戦行動を実施する段階では、そのほとんどを「自前」で処理することになる。(上記のように、衛生兵、上陸用舟艇、揚陸用ホバークラフトは海軍側が提供し、作戦行動中の発進・支援基地も海軍艦艇が提供する。)


そのため、アメリカ海兵隊は地上での作戦に従事する陸上戦闘部隊(GCE)のほかに、自前でヘリコプターやオスプレイを運用して海兵隊員を移動させたり、戦闘攻撃機や戦闘ヘリコプターによって地上の友軍を支援したりする航空戦闘部隊(ACE)、それに作戦行動中の自部隊の補給活動をはじめとするロジスティックスを担当する兵站(へいたん)戦闘部隊(LCE)、そしてそれら三つの戦闘部隊(GCE、ACE、LCE)を統括して指揮統制する司令部部隊(CE)という四つの部隊を、様々な規模の作戦出動部隊編成における構成要素としている。


整備中の米海兵隊MV-22Bオスプレイ_写真_筆者



たとえば、300名程度の極めて小規模な部隊を編成する場合でも、3000名程度の本格的な戦闘部隊を編成する場合でも、イラク戦争のような大規模な戦争へ派遣する数万名規模の大部隊を編成する場合でも、部隊の基本編成はCE、GCE、ACE、LCEという構造を維持し、ただそれぞれの規模が自由自在に伸縮するという仕組みになっている。


この仕組みがMAGTFであり、2世紀も前にナポレオンが生み出して現在に至るまで世界各国の陸軍などで用いられてきている基本的部隊編成とは大きく異なっている。ようするに、MAGTFこそがアメリカ海兵隊とアメリカ陸軍をはじめとする世界各国の陸上軍事組織との組織論的相違を決定づける特徴なのである。


水陸機動団は、陸上自衛隊の一部隊であるため当然のことながらMAGTFといった組織編成を採用しているわけではなく、そもそも、自前でACEのような本格的航空戦力を手にするには、ほど遠い状況であるといえる。


アメリカ海兵隊だけが海兵隊ではない


以上のように、陸上自衛隊の水陸機動団をアメリカ海兵隊の小型バージョンとみなして「日本版(アメリカ)海兵隊」などと呼ぶことは全く見当違いであるのだが、このようなおかしな表現を日本のメディアの多くが用いるのは、「水陸両用作戦能力を持った軍事組織はなにもアメリカ海兵隊だけではない」という事実を忘れているからであろう。


水陸両用作戦とは「陸上作戦部隊が海洋から海上や上空を経由して陸地に到達し、地上での各種作戦を実施する」という軍事作戦である。(その逆に、地上から海上に非戦闘員や、地上戦闘部隊を撤収させる、という作戦も含む。)そして、このような作戦を主たる任務とする部隊は、「海兵隊」あるいは「海軍陸戦隊」などと呼ばれてきており、かつては日本海軍も保有していたし、現在においては、およそ60カ国にこの種の部隊が存在する。


そして水陸両用作戦は、それぞれの国によって「何のために必要か?」「どの程度の能力が必要か?」といった事情は様々であり、なにもアメリカ海兵隊を基準にして水陸両用作戦に従事する部隊を編成する必要はないのである。日本とアメリカは、その置かれている地形的環境も地政学的状況も異なる以上、水陸機動団が「日本版(アメリカ)海兵隊」である必要など毛頭ないのだ。


アメリカ側にプッシュされたから、あるいはアメリカ海兵隊と共通のAAV-7やオスプレイを手にするから、といってアメリカ海兵隊の小型版を目指す方向性はあまりに短絡的かつ自主性が欠落しているといえよう。「日本にとって必要な水陸両用作戦とは何か?」という戦略レベルでの問いに答える形で、水陸機動団を発達させていかねばならない。









(次回は5月2日に掲載する予定です)



きたむら・じゅん




1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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