1. HOME
  2. Learning
  3. 日本企業も、実践的な英語力を求め始めた

日本企業も、実践的な英語力を求め始めた

英語が拓く世界 更新日: 公開日:
様々な場面で実践的な英語が求められる=2011年、プロサッカーチームでの英会話授業

企業が従業員に求める英語力が、少しずつ変わってきました。

これまでずっと、「英語力」といえばTOEICの点数でした。もちろん今でもそうした企業は多いと思います。しかしその一方で、従業員に求める英語力がただ単にTOEICの点数に止まらなくなってきつつあるのも事実なのです。

具体的になってきた英語学習のゴール

より実践的な英語が求められる中、教育界も対応を急ぐ=2015年、文部科学省の研修 (以下、写真と本文に直接の関係はありません)

例えば、僕が代表を務めている Brighture English Academy でもいくつかの企業に講師を派遣させて頂いていますが、これらの企業が要求する英語力が、だんだん具体的なものに変わりつつあるのです。

ほんの少し前までは、ただ漫然と「会話力をあげてください」という感じでした。ところが、ここにきて「外国人部下をマネジメントするのに必要な英語力」であるとか「プレゼンテーションをしっかりとこなせるように」、あるいは「海外の開発拠点と協業を円滑に進められるように」などのように、要望がより具体的になってきたのです。

これは、ひとえに日本の人口が減少していることに起因しています。

いくつかの企業の幹部の方がお話しさせていただいた際にも、もう日本国内だけに止まっているのはヤバすぎる、と異口同音に口にしていたのが実に印象的でした。日本市場は人口が減少するに従って縮んでいくだけだから、現状維持のままでは売り上げが落ちていくだけと言うわけです。ですので、従業員の英語力は死活問題なのです。

そして、生き残りをかけて、多くの企業がTOEICの点数にとらわれず、実際に現場で通用する英語力を従業員に求め始めています。

現在ブライチャーが多数の受講生を受け入れているある企業では、年間20万円もの英語学習用の費用を会社が負担しています。またある企業では企業自身が語学研修を企画し、従業員をそこに送り出しています。企業が企画する語学研修をお手伝いさせていただくこともしばしばありますが、要求が具体的になったのもさることながら、実際に海外で長く働いていた僕のような者の忌憚のない意見に真剣に耳を貸していただけるようになったことも、大きな変化だと感じています。

TOEICで足切りをすべきか?

では企業は採用の際に、TOEICの点数で足切りをするのをやめてしまった方が良いのでしょうか?

僕の見解はこうです。まず第1に、英語力を最優先に合否を決めない方がよいでしょう。英語ができるからと言って、必ずしも仕事ができるとは限らないからです。実際、英語は後からでも必ず覚えられるし、英語力だけをあげることに夢中になってしまって、肝心の本業がおざなりになってしまう人もいるからです。

しかし、いくら後からでも覚えられるとは言っても、スタート地点が低ければそれだけ長い時間がかかります。英語がすぐに使えるようになることを求めるのであれば、何らかの方法で足切りするのは悪い方法ではないでしょう。

ではTOEICは即戦力性を測る上で、適切な物差しなのでしょうか?

結論から言えば、TOEICなんか受けさせるよりも、たとえ短くてもいいから英語面接を実施した方がずっといいです。現に外資系企業の多くでは面接時に英語での面接を実施しており、TOEICの点数など聞きさえもしません。本当に英語力があるかどうかは、ほんの5分も話せばわかるからです。また、TOEICが高得点なのに話せない、といった人はあまりにも多いのです。

英語面接のやり方については、社内に英語に堪能な人材がいるならそういった人を活用すればいいし、適材がいなければ、外部に委託してもいいと思います。

では、TOEICの点数がまるっきり当てにならないかと言うと、必ずしもそうとは言えません。まず第1に、TOEICが500点以下の人はごく基本的な中学生レベルの文法にわからないところがあることが多いのです。当然、そこから英語がものになるまでには、多くの時間がかかるでしょう。逆に、すでに700点前後に達していれば、そこから使えるレベルになるのはそれほど大変ではありません。

でも、もしも僕が人事部の部長なら、やはり英語面接のみとすると思います。そして、どうしてもテストで足切りをするなら、TOEICではなくて、TOFELやIELTSなどを採用するでしょう。TOEICは「読む、聞く」しかなく、英語の総合的な実力を判定するのに適したテストとは言えないからです。TOFELなら65以上、IELTSなら6以上あたりを目安にすると思います。

業務をする上で必要な英語力って何だろう?

大学でも職員への英語研修が広がる=2016年、北里大

では、業務をする上で必要な英語力とはいったいどのようなものでしょうか?

これは実は、かなり会社の規模や職務内容、あるいはポジションによって大きく異なります。小さな会社だったら予算だって小さいし、人員だって少ないですから、たとえ社長だって自力で何とかするしかありませんが、大きな会社の重役なら通訳をつけてもらえる可能性も高いでしょう。

まず担当者レベルならば、比較的英語力が低くてもどうにかなります。とりあえず業務内容をなんとかして伝達できれば、ギリギリ任務は遂行できるからです。相手にもよりますが、TOEIC700点程度あれば、ジェスチャーを交えつつなんとかやっていけるでしょう。このレベルでは会話よりも、むしろ読み書きの力を養った方が業務上で役に立つことが多いと思います。

高い英語力が必要とされるのはやはり中間管理職です。部下の育成から予算の申請、はたまた専門分野での交渉や一般業務など、やることの幅が広いからです。会話能力も、また文章能力も両方要求されます。

また海外とのテレカンファレンスなどをそつなくこなすには、相当高い英語力と、会話にグイグイ割り込める勢いとの両方が必要となります。日頃から、しっかりと読んで聴いて底力を上げつつ、専門の講師を見つけて発音と書く力をしっかりとあげておきましょう。

この層に必要とされる英語力は、少しくらいのスカイプ英会話程度ではどうにもなりませんから、少なくとも1〜2年程度はがっつりと腰を据えて、1日3時間程度は英語学習に使うことをオススメします。頭の中でいちいち日本語を噛ませなくても話せるだけの会話力と、メールでのやりとりを苦痛に感じない程度の英語力が身につけば、ほぼ困ることはなありませんし、一生の宝になります。

さらに上のポジションになってくると、また少し要求されるスキルが変わってきます。段々と読む、書くからは解放されていきますが、実際に面と向かって交渉する機会が俄然増えてくるからです。読み書きはある程度下の者に任せて、会話能力を伸ばすことに特化してもよいと思います。

相手の目を見て、自信に満ち溢れた表情でしっかりと交渉する。求められるのはそんな英語力です。ソフトバンクの孫正義氏などをモデルに会話力アップを図ってもよいのではないでしょうか。

ビジネス英語は決して難しくない

「英語で仕事」というと何だか難しく感じる人も多いでしょうが、実はそれほど難しくはありません。

何しろ内容が「仕事」に限定されているのです。実際、仕事の場では何とかなるが、そのあとのパーティや会食の方がよほど辛いと言うビジネスパーソンも多くいます。タクシーで移動中の沈黙も耐えられない、などと言う話もよく耳にします。日常会話というのは、昨夜の野球の試合から政治経済にいたるまで何かと話題が飛ぶので、実に難しいものなのです。

一方、ビジネス英語であれば、すでにその分野については予備知識がしっかりあるわけですから、ハードルはかなり下がります。無論、ビジネス分野でよく使われるイディオムを覚えたり、専門用語を覚えたりと行った必要はありますが、字幕なしで映画が見れるようになることをめざすよりも、ビジネス英語で基本的な業務をこなす方がよほどやさしいのです。

そんなわけでここで一発頑張ってみませんか? みなさまの一生の宝になりますから。