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弾道ミサイル防衛を再吟味しなければ国防が危殆(きたい)に瀕する

軍事社会学者 北村淳 #21





前回に引き続き、本質的な議論もされずにアメリカ側の言いなりになって弾道ミサイル防衛システムに防衛費をつぎ込もうとしている日本側の異様な姿勢について注意を喚起したい。


日本の弾道ミサイル防衛態勢はかなり強化される


地上配備型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」のアメリカからの輸入調達を積極的に推し進める歴代防衛大臣をはじめとする日本政府は「イージス・アショアを秋田県と山口県に配備することにより日本全域を弾道ミサイルから防御することになる」と説明している。確かにこれは(理論的には)事実といえよう。ただし、もう少し正確に説明しなければならない。


すなわち「日本が調達しようとしているイージス・アショアに装塡(そうてん)されることになっている弾道ミサイル迎撃用ミサイル「SM3ブロックIIA」が期待通りに完成して、イージス・アショアとともに日本に配備された暁には、これら2セットの弾道ミサイル防衛システムにより日本全域に飛来する弾道ミサイルを迎撃できる可能性が生ずる」というわけである。


現在、イージス・アショアの原型である軍艦搭載型イージスBMDシステムを搭載した駆逐艦(イージスBMD艦)を海上自衛隊は運用している。4隻の「こんごう」型駆逐艦(「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」)である。これらの海自イージスBMD艦には、イージス・アショアから発射される予定のSM3ブロックIIAより射程距離や射程高度がともに短いSM3ブロックIAという迎撃ミサイルが搭載されている。


これら4隻に加えて、2隻の「あたご」型ミサイル駆逐艦(「あたご」「あしがら」)にも弾道ミサイルを迎撃できる性能を付加する改装作業が進行中であり、近々これら2隻もイージスBMD駆逐艦へと生まれ変わる。「あたご」型BMD駆逐艦から発射される迎撃ミサイルはSM3ブロックIAを若干改良したSM3ブロック1Bである。

SM3ブロックIAを発射した「きりしま」(写真、米国防総省)


「こんごう」型4隻ならびに「あたご」型2隻のイージスBMD艦に加えて、現在建造中の「8200トン」型2隻には、イージス・アショアと同じSM3ブロックIIAが搭載されることになっている。ちなみに、「こんごう」型イージスBMD艦と「あたご」型イージスBMD艦には、新鋭SM3ブロックIIAを搭載することは(更なる改装作業なしには)できない。


このように、「8200トン」型二番艦が竣工する予定の2021年頃(アメリカ海軍関係者などには、「8200トン」型駆逐艦はイージス駆逐艦建造経験のないメーカーが手がけているため、計画通りに完成するかどうか危ぶむ声も存する)までには、海上自衛隊は合わせて8隻のイージスBMD艦を手にすることになる。


日本の弾道ミサイル防衛態勢強化により懐が潤うアメリカ


このような強力なイージスBMD艦の布陣に加えて、23年頃には陸上自衛隊が2セットのイージス・アショアを手にすることになるわけであるから、日本政府が胸を張るように、自衛隊が運用するイージス弾道ミサイル防衛戦力は極めて強力なキャパシティーを有することになると考えて差し支えない。繰り返すようだが、イージス・アショアに装填される現在開発中のSM3ブロックIIA迎撃ミサイルが予定通りに完成するのが大前提である。


ただし、「8200トン」型駆逐艦以上にSM3ブロックIIAの「予定通りの完成」は危ぶまれている。なぜならば、1月31日にアメリカ軍のカウアイ島試験施設(前回の本コラムで紹介した小野寺防衛大臣が訪問した施設)で実施されたイージス・アショアから開発中SM3ブロックIIAを発射して弾道ミサイルを迎撃するテストが失敗したからである。これにより、これまでイージス・アショアで3回実施された迎撃テストのうち2回が失敗したことになり、新型迎撃ミサイルの予定通りの完成は大いに危ぶまれているのだ。

ポーランドに配備される予定のSM3ブロックIIA(写真 レイセオン社)


いずれにせよ、日本がイージスBMD艦を建造し、イージス・アショアを輸入しただけでは弾道ミサイルを迎撃することはできない。それらのハードウェアを作動させるソフトウェア(パソコンを作動させるOSのようなもの)をアメリカから購入し続ける(断続的にアップデート、そしてバージョンアップが行われるため、ユーザーはアメリカ側から継続して供給してもらわなければならない仕組みとなっている)と共に、やはりアメリカからSM3ブロックIB、SM3ブロックIIAといった迎撃用ミサイルも輸入しなければならない。


つまり、日本が弾道ミサイル防衛態勢を強化すればするほど、アメリカに対する依存度がますます強化されると共に、アメリカ防衛産業とアメリカ政府の懐を潤すことになるのだ。


システムに加えて大量の迎撃用ミサイルが必要になる


日本国防当局が計画中のイージスBMD艦ならびにイージス・アショアによるミサイル防衛態勢は、上記のように、23年頃にはイージスBMD艦8隻ならびにイージス・アショア2セットという陣容になるのであるが、それらにどれだけの迎撃用ミサイルを装填することになるのか?という点も大きな問題である。


たとえば、現在運用中の4隻の「こんごう」型イージスBMD艦に搭載可能なSM3ブロックIAを海自は32発保有していて、それぞれの艦には最大8発、通常は4発、のSM3ブロックIAが装填されているものと推測される。イージスシステムに限らず弾道ミサイル防衛では、飛来する弾道ミサイル1発に対して少なくとも2発の迎撃用ミサイルが発射(戦闘情報処理システムにより自動的にコントロールされ発射されることになる)される。


したがって(現実には99.9%あり得ないが)「こんごう」型イージスBMD艦4隻がそれぞれ8発のSM3ブロックIA迎撃ミサイルを装填して、迎撃にとってこのうえもなく理想的な位置に展開して迎撃態勢を固め、全てのシステムがパーフェクトに作動した、という奇跡的状況を想定した場合、合わせて16発の弾道ミサイルを撃墜できる望みが持てる。


しかしながら、日本政府が弾道ミサイル防衛態勢強化の口実としている北朝鮮は、日本を攻撃することができる弾道ミサイル(ノドン、スカッドERなど)を合わせて200発は保有していると言われている。ということは、イージスBMD艦そしてイージス・アショアには、最小でも400発の迎撃用ミサイルが装填されていなければならないことになる。


ただし、海自のイージスBMD艦や陸自のイージス・アショアが勢揃いする予定の2023年頃までには、北朝鮮の弾道ミサイル戦力は質・量ともに強化されていると考えるべきであろう。日本だけが軍事力を強化しようとしているわけではない。北朝鮮や中国は日本以上に軍事力を強化し続けているのだ。2023年頃には、400発では話にならず600発、800発が必要になっているかもしれないのである。


せいぜい原初的な北朝鮮弾道ミサイルにのみ有効


数の問題だけではない。迎撃用ミサイルの撃墜成功率は100%というわけにはいかない(たとえば、現在米海軍ならびに海上自衛隊に配備中のSM3ブロックIAとブロックIBのテストデータによると、迎撃成功率はおよそ85%程度となっている)。したがって、いくら400発、そして600発の各種SM3ミサイルをアメリカから購入して、超強力な迎撃態勢を確立したとしても、北朝鮮が大量に弾道ミサイルを発射してきた場合には数発、数十発の弾道ミサイルが日本領内に降り注いでくることは避けられない(北朝鮮が日本に弾道ミサイルを発射するのは、米軍による先制攻撃に対するアメリカの同盟国日本への報復攻撃の場合だけである。勝利を目指すのではない「報復攻撃」である以上、最大限多数の弾道ミサイルが日本に向けて発射されることになる)。


まして、北朝鮮とは違い、多弾頭型弾道ミサイルやステルス性の高い長距離巡航ミサイルを多数(日本攻撃用の弾道ミサイルは100発以上、長距離巡航ミサイルは少なくとも700発以上)取り揃えている中国のミサイル攻撃に対しては、日本が取り揃える努力を傾注している超高額弾道ミサイル防衛システムはほとんど役に立たない。中国軍の高性能弾道ミサイルを撃墜できる確率は、北朝鮮軍の単純な弾道ミサイルに対する迎撃率より、大幅に低いのだ。新型多弾頭型弾道ミサイルの場合、現存するそして現在開発中の迎撃用ミサイルでは、歯が立たないと言われている。そして、そもそも弾道ミサイル防衛システムは、飛来してくる弾道ミサイルを迎撃するシステムであり、全く原理が異なる巡航ミサイルを撃破することは想定していない。


要するに、日本政府が莫大(ばくだい)な税金を投入(その大半はアメリカに支払うことになる)して取り揃えようとしている弾道ミサイル防衛用兵器(イージス・アショア装置・施設、イージスBMD艦搭載用システム、それらのイージスシステム用ソフトウェア、SM3ブロックIB迎撃ミサイル、SM3ブロックIIA迎撃ミサイルなど)は、超高額兵器であるとは言っても、現在北朝鮮軍が運用中の対日攻撃用弾道ミサイル(ノドン、スカッドER)に対応可能な程度のものなのだ。このような弾道ミサイル防衛システムを自衛隊が手にしただけでは、とても抑止効果などは期待できない。


まして、日本に対して北朝鮮以上に強力な軍事的圧迫を加えている中国軍にとっては、さして気にすることがない防衛兵器に過ぎない。つまり、中国軍にとっては、日本ができるだけ多額の防衛費と自衛隊の人員とそして労力を、各種弾道ミサイル防衛システム構築に注ぎ込んでくれれば、ますます中国の海洋侵出戦略が実施しやすくなるのである。


今からでも遅くはない弾道ミサイル防衛に関する本質的議論


もし、弾道ミサイル防衛システムにより、日本に飛来するいかなる弾道ミサイルといえども百発百中で撃墜することができ、日本領内には一発の弾頭も着弾しないのならば、万難を排して弾道ミサイル防衛システムと大量の迎撃用ミサイルをアメリカから輸入調達しても、日本のために有益な投資ということができよう。


しかしながら現状の弾道ミサイル防衛システムは、そのようなパーフェクトなシステムとはほど遠い。現に、アメリカ自身も弾道ミサイル防衛システムだけで、弾道ミサイルの脅威から身を守ろうとしているわけではない。


イージス・アショアだけでなくイージスBMD艦やそれらに装填するSM3ミサイルの開発も含めて「弾道ミサイル防衛システムに多額の投資をすることにより、どのような防衛効果があるのか?」「アメリカ側の宣伝・売り込みに、言いくるめられているのが現状ではないのか?」「弾道ミサイル防衛システムを手にする以外にも、弾道ミサイルの脅威を減少させ、封じる方策はないのか?」といった類いの真剣な議論が国会などでなされることなく、「日米同盟の強化」などという名目を掲げて、アメリカから超高額弾道ミサイル防衛システムを購入し続けるのならば、近々日本の国防態勢そのものが破滅してしまうであろう。




(次回は2月21日に掲載する予定です)




1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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