「日本人は読み書きは得意だけど、話すのが苦手」なんてよく言われます。
これは一体本当なのでしょうか?
実は日本人が読み書きは得意だなんて、一種の都市伝説です。日本人は読むのも書くのも、聞くのも話すのもできません。残念ながら日本人の英語力の実態であって、それ以上でも以下でもありません。
実例を出しましょう。文科省が2015年度に実施した「英語教育改善のための英語力調査事業(高等学校)」という調査によれば、大半の高校3年生の英語力はCEFRでA1レベル程度という結果が出ています。CEFRとは Common European Framework of Reference の略で、欧州評議会が語学力を図る際の物差しとして定めたものです。そのA1レベルというのは英検だと3級から5級程度、TOEICだったら380点以下に相当する、要するに初心者レベルなのです。
ちなみに文科省が高校生に求める英語力は卒業時に英検準2級~2級程度とされていますから、実は高校生3年生の大半は、高校生レベルに達していなかったというなんともお粗末な結果だったのです。
なお、高校3年といえば受験を控えて人生の中で一番英語を勉強している時ではないかと思うのですが、それでもこの点数なのです。
さらににショッキングなのが、4技能(リスニング、リーディング、スピーキング、ライティング)の中で、ライティング(英作文)がスピーキングとともに大きく劣っているという点です。いったいどのくらい弱いのかというと、なんと被験者の8割がA1レベルだったのです。ちなみに、A1レベルで要求されているスキルは次のようなものです。
・ 住所・氏名・職業などの項目がある表を埋めることができる。
・自分について基本的な情報(名前、住所、家族など)を辞書を使えば短い句または文で書くことができる。
・簡単な語や基礎的な表現を用いて、身近なこと(好き嫌い、家族、学校生活など)について短い文章を書くことができる。
・簡単な語や基礎的な表現を用いて、メッセージカード(誕生日カードなど)や身近な事柄についての短いメモなどを書ける。
・自分の経験について、辞書を用いて、短い文章を書くことができる。
・ 趣味や好き嫌いについて複数の文を用いて、簡単な語や基礎的な表現を使って書くことができる。
この程度ならば、全くの初心者が3ヶ月以内に到達できるレベルです。僕が経営している Brighture English Academy にも時折超初心者の方がやって来ますが、最初の1〜3ヶ月程度で少なくともこのくらいのことはできるようになります。つまり中高6年も通って、3ヶ月程度の英語力しかつかないというのが現状の英語教育なのです。
さて、日本人はとにかく書けないことがわかりました。ちなみに前述のテストでは、リーディングではA1より上のレベルの生徒が、ライティングの2倍近くいます。それでもA1レベルの者が大半ですが、ライティングに比べれば、日本人はまだ読めるのです。
しかし、ここで問題があります。それは、仕事で英語を使う場合、もっとも使用頻度が高いのは実はこの「書く力」であるという事実です。
ビジネスシーンでは、書く機会が頻繁にあります。電子メール、チャット、レポート、プレゼン……。特にチャットなどは瞬時に返信しなければなりませんし、レポートやプレゼンに至っては正確さが重要なポイントとなります。
Google翻訳に頼ればいいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、実はGoogle翻訳の精度は、ビジネスの場での実用に耐えるほど高くはありません。特に正確さを期する報告書や契約書などでは、間違っても使ってはいけない代物です。
ここまで読んできて、途方に暮れてしまった人もいるのではないかと思います。
しかし、心配する必要はありません。実のところ、英会話にせよメールのやり取りにせよ、中学の英語がきちんとマスターできていれば大半のことはなんとかなるからです。問題はこの文科省の調査結果の通り、現役の高校3年生ですら中3までの内容がきちんと身についていないところにあります。
ですからまず最初に中学英語を復習しましょう。中学校の教科書に付属する音源を何度も聞き、真似をしながら繰り返し音読して、丸ごと暗記してしまうのです。今ではネットで中学校の教科書を購入することができますから、卒業後に年数が経ってしまった方でも大丈夫です。また、中学英語復習用の教材も各出版社から様々なモノが売られていますから、これらを一度最初から最後までやり直して、不明な点をなくしましょう。
そしたら次はライティング添削サービスなどを利用して、簡単な英作文の練習から始めることをお勧めします。この際、日本語で下書きしてから英訳したりせず、最初から英語で書くのがポイントです。日本語で下書きした文章というのは、どうしても珍妙になってしまいがちですし、これを続けていると「英語を英語のまま考える」という力がいつになっても付かないからです。
また、世の中には英作文の本もたくさん売られていますから、こうした書籍を参考にしてもいいでしょう。1度や2度書いただけでできたような気にならず、少なくとも50回くらいは実際に英作文をしてみて、中学英語をうまく使いこなし、書きたいことをすっかりと書けるようになりましょう。
なお、この英作文は中学英語のやり直しが終わる前に始めても一向に構いません。英語を身に付ける最短距離は、とにかく覚えた端から使っていくことです。間違えることもあるでしょうが、間違いを指摘されて書き直すことで、徐々に正しい書き方が定着していくのです。
ここまでできてたら、次はビジネス英語にチャレンジです、と言いたいのですが、その前に仮定法に慣れておきましょう。中学英語ではカバーされないのが、仮定法です。ここをしっかり押さえておくと、表現の幅がグッと広がります。ベストセラーになっているような文法書はどれもよく書かれていますから、こうした文法書を1冊買っておいても損はなありません。
それから、ビジネスレターの書き方に関する本を1冊買うか、ネットの例文集などを参考にビジネスレターを書いてみて、こちらの方もライティング添削サービスなどで見てもらいましょう。もしも要望が出せるようでしたら、文法だけではなく文章の構成などもしっかり見てもらってください。これを20〜30回くらい繰り返せば、Google翻訳なんかに頼らなくても、それなりの英文ビジネスメールが書けるようになります。
最後にもう一つ注意点です。ビジネスメールを書く際には、なるべく丁寧な文体を心がけてください。書き言葉は会話と違って、表情もゼスチャーも使えません。一度相手の信頼を傷つけてしまうと、挽回の手段はほとんどないのです。また、日本語のメールでも同様ですが、書いたものはずっと消えずに残りますから、相手が読み返して怒りを増幅させがちなのです。
また、細かい文法のミスなどにも気をつけましょう。あまりにも初歩的なミスを連発していると、こちらの知性を疑われてしまうからです。
以上、英語を書く力の重要性と、その鍛え方でした。前回の発音もそうですが、発音とライティングは、お金を払って習う価値があります。逆にリスニングとリーディングはネット利用でかなりコストが抑えられます。英語教育にお金を使う場合には、使う部分を賢く選ぶことをお勧めします。
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松井 博
米国にて大学卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、米国アップル本社に移籍。iPodやマッキントッシュなどの品質保証部のシニアマネジャーとして7年間勤務。2009年に同社退職。カリフォルニア州にて保育園を開業。15年フィリピン・セブ島にて Brighture English Academy を創設。著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」する』など。
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