「カタカナ発音でも大丈夫。ハキハキ大きい声で話せばなんとかなるよ!」
こんなセリフを巷でよく耳にします。これ、本当なのでしょうか?
もしもあなたが観光客ならば、確かに発音など気にする必要はありません。
日本に来るインバウンドの外国人観光客がおかしな日本語を喋っても、誰も気にしないのと同じことです。
また、あなたが短期の海外出張者なら、やはりそれほど発音を気にする必要はありません。誰も外国人の発音になど期待していないからです。ジェスチャーでも翻訳ソフトでもフル活用して、なんとか乗り切りましょう。
ぶっちゃけ、あなたが一時的なお客さんなら向こうも我慢してくれるのです。だから「発音が悪くても大丈夫!」には、ある一定の真実が含まれています。
ただし、これが当てはまるのは、あくまでこちらが「お客さん」という立場で、なおかつ接触回数が極めて限られているとか、滞在が短期で済む場合の話です。そしてこのレベルの体験しかない人が、「発音なんて悪くても大丈夫!」と勘違いしてしまうのです。
関係が長期化すると?
しかし、関係が一時的なものでなくなると状況が一変します。
-「出張の時にはあんなに親切だった人が、毎週の電話会議で心なしか冷たい」
-「アメリカの大学に入学したけれど、つるんでいるのはいつまで経っても日本人ばかり……」
-「現地で働き出したけど、ランチにさえ誘ってもらえない……」
そんな話をよく耳にします。
何故でしょうか?
それは、向こうの人たちは発音が悪い人と話すのが苦痛だからです。たまにだったら楽しいことでも、それが、毎月、毎週、毎日となると話は別なのです。
もっとホントのことを言ってしまうと、短期間でも苦痛なものは苦痛です。僕自身がアップル本社で働いていた時にも、発音がひどい出張者が帰っていくと、みんなホッとしていました。あまり失礼にもできないしで、気を使うわけです。
実際のところ、発音が悪いとかなり損をします。「こいつ、こんなひどい英語でビジネスやるつもりかよ……」「もう少しマシな人材はいないのかよ……」。第1印象でそんなふうに思われると、それを挽回するのは容易ではありません。
しかも、日本という国はかつてのように重んじられていません。儲けになると思って我慢してくれていた人も、前ほど気長に我慢してくれないのです。
発音が悪いと、ランチやディナーに誘う側にも苦痛を感じさせますし、友達もなかなか増えません。観光地はさておき、それ以外のところでちょっと道を聞いたり、スーパーのレジで話しかけるだけで、露骨に嫌な顔をされることもしばしばあります。挙げ句の果てに、頭が悪いと思われてしまうことさえあるのが現実です。
リスニングにも、読書にも……
正しい発音ができないデメリットは、それだけにとどまりません。実は発音が正しくできないと、リスニングもなかなか上達しません。考えてみれば当たり前ですが、自分が正しく発することができない音は、やはりなかなか正確に聞き取れるようにならないのです。
また、発音が悪いとリスニングだけではなく、リーディングにも影響します。普段僕らが日本語の本を読んでいる時には、たとえ黙読していても頭の中で文字を音に置き換えています。ところが発音が正しくないまま洋書を読むと、頭の中で間違った音に置き換えてしまうため、著者がどのような響きや印象を意図しているのかを、感覚的に理解することができません。これではスムーズに読めるはずがないのです。
実際、私が経営している Brighture English Academyに来る生徒さんの中にも「正しく発音できるようになったら読むのが速くなった!」と報告してくれる人がいます。発音と読む能力はそのくらい関連があります。
発音は自動的に上手くなりません
何年も英語圏に住んでいるのに、発音は代わり映えしないまま時間だけが過ぎ、友達は日本人ばかり……そんな人は数え切れないほどいます。国際結婚した方でさえ、このパターンに陥ってしまうことがあります。家族が自分の発音に慣れてしまうため、家の中ではあまり困らないのです。しかし、一歩家を出ると途端に無口になってしまいます。もちろん友人関係は日本人に固定されたままです。
また、現地でネイティブに囲まれていれば発音を教えてもらえると思うかもしれませんが、ネイティブだからといって発音を的確に教えられるわけではありません。日本人の僕らだって外国人に、「小さな『っ』の発音を教えてくれ」などと言われても困ってしまいますが、それと同じことです。
では、大人になってから正しい発音を獲得するには、どうしたらいいのでしょうか?
一番手っ取り早いのはきちんと発音のトレーニングの訓練を受けた講師に習うことですが、ただ、すべての人がそうした機会に恵まれている訳ではないので、上達のコツをいくつか紹介したいと思います。
1. まずは使う
まずはどんなにブロークンでもいいので実際に英語を使ってみましょう。もしかするとまるで通じないかもしれませんが、この「通じない」という体験は、上達に欠かせない大切なステップです。どこが通じないのか把握すれば、おのずと工夫のしどころもわかってきます。
2. 日本語と英語の発音の違いを正確に知る
2つ目のポイントは、日本語と英語の発音は具体的にどこがどう違うのか、正確に知ることです。例えば、英語は閉音節言語と呼ばれる、語尾が子音で終わることの多い言語です。しかし、日本語は開音節言語と呼ばれる言語で、「っ」と「ん」を除けば語尾に必ず母音が入ります。ですから僕たちは英語を話すときも、つい語尾に母音を足したくなってしまうのです。
英語:子音で終わる単語がとても多い〜desk cake(最後のe は発音しない) street などなど
日本語:母音で終わる単語が大半。つくえ(Tsu-ku-e)お菓子(o-ka-shi)、通り(toori)
和製英語:デスク(desuku)、ケーキ(ke-ki)、ストリート(sutori-to)のように、語尾に母音を足してしまう。
これはほんの一例ですが、こうした違いを明確に知るだけでも、気をつけるべきポイントが明らかになってきます。
この他にも日本語と英語の発音の違いはたくさんありますが、僕らは皆、慣れ親しんだ日本語の「癖」に強い影響を受け、なかなかうまく英語の発音を身に付けることができません。ですが、こうした違いを明確に知るだけでも、気をつけるポイントが見えてきます。
なお、子供がわけもなく発音を覚えられるのに、大人になるとなかなか覚えられない原因はここにあります。大人になればなるほど母国語の癖が染み付いていますから、具体的に何がどう異なっているのか正確に把握し、一つずつこの「癖」を取り除いていくのが上達のポイントです。
3. 特定の人に通じているからと安心しない
普段、日本在住のネイティブと問題なく話ができていても、発音ができているとは限りません。なぜなら、そういう方は日本人の発音にすっかり慣れてしまっているからです。僕自身、1年ほどホームスティをしていたことがありましたが、ホストファミリーの方が僕のおかしな発音に慣れてしまったため、ホストファミリーには通じるのに、学校ではちっとも通じないなどという状況になってしまったことがあります。特定の相手に通じるからと言って、安心しすぎないようにしましょう。
4. きちんとダメ出しをしてもらう
同様のことが、英会話スクールの先生にもそのまま当てはまります。僕が経営している語学学校の先生たちも、超能力でも備わっているのかと思うほど、どんな滅茶苦茶な発音でもたちどころ理解してしまいます。
ですから、本当のことをはっきりと指摘してくれるネイティブスピーカーや英語講師は貴重な存在です。レッスンを受けるときには、発音のダメ出しをキチンとしてくれるように伝え、レッスンを最大限有効活用しましょう。
5. スマートフォンの音声認識機能を使う
このほか、人間のように融通の利かないスマートフォンの音声認識機能を使うのも一つの方法です。決して完璧ではありませんが、人間と違って気を利かせて間違った発音を理解したりはしてくれません。
6. 定着するまで繰り返す
単発で単語の発音練習をすると、かなり正確に発音できる人はそれなりにいますが、実際に喋るとなると何もかもできなくなってしまう人が多数います。こうした人は、つまるところ練習が足りていません。一つの音を最低100回くらいは繰り返して、いつでも正確に発することができるように訓練しましょう。
発音というのはつまるところ、筋肉運動です。つまり、テニスや水泳などを覚えるのとさほど変わりません。腕や足の使い方をマスターする代わりに、横隔膜や喉、頬や舌などの筋肉の使い方を正しくマスターするのです。
周囲にテニスや水泳が上手い人がいる環境は確かに有利ですが、正しいフォームを正確に模倣し、自分から積極的に練習しない限り自動的に上手くなることはありません。発音だって全く同じことです。
ITの発達に伴い、英語を独学でマスターすることも以前より格段にやりやすくなっています。発音も例外ではありません。ただ、おそらく現時点では、発音と英作文に関しては、お金を払って習ってしまうのが最短距離です。僕自身もこの二つはそうしました。英語学習にお金を投じるなら、この二つだけに焦点を絞ってもいいように思います。あとはだいたい独習可能です。