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W杯抽選会でささやかれる「都市伝説」

スポーツ記者 稲垣康介 #14

朝日新聞欧州総局(ロンドン)駐在のスポーツ担当編集委員、稲垣康介が現場から届ける臨場感あふれるコラム。スポーツが映し出される欧州の社会の「いま」を切り取ります。


開催国ロシアのくじ運の良さの謎

12月1日にサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の組み合わせ抽選会が開かれて以来、私は勝手にサッカー日本代表の「偵察隊」を買って出ている。数日前には、ロンドンの自宅で香川真司が所属するドルトムントとバイエルン・ミュンヘンとのドイツのカップ戦をテレビで観戦。切れ味を取り戻しつつある香川を観察しながら、バイエルンに所属するポーランド代表レバンドフスキと、コロンビア代表のハメス・ロドリゲスの動きからも目が離せなかった。抽選会で日本と同じH組に入ったポーランドやコロンビア、セネガルというライバル国の主力の調子が、自然と気になる。


モスクワのクレムリンで行われた抽選会の取材にも出向いたが、実は、いまだに気になっていることがある。開催国ロシアの驚異的なくじ運の良さだ。


サッカーにさほど関心がない読者がいらっしゃるかもしれないので、一応説明を。抽選は出場32チームのうち、10月の世界ランキング上位7チームに開催国ロシアを加えた8チームを第1グループとし、以下、世界ラランキング順に8チームずつを、出身大陸を考慮しつつ、第4グループまで振り分ける。強豪ばかりがひしめく「死の組」をなるべく避ける狙いがある。

モスクワのクレムリンで談笑しながら抽選に臨むファビオ・カンナバロさん(中央)やディエゴ・マラドーナさん(左)ら=AP

世界ランク65位のロシアが入ったA組の対戦相手は63位のサウジアラビア、31位エジプト、21位ウルグアイ。単純に4カ国のランクを足して4で割ると「45」。開催国特権で第1グループに入った恩恵なのだが、7位ポーランド、13位コロンビア、23位セネガルと同居する55位の日本のH組だと「24.5」。世界ランクは実力を測る目安に過ぎないが、やはりうらやましい。


開幕戦のカードはロシア―サウジアラビア。出場チームの世界ランクでは下から2番目とビリの対戦だ。ロシアがサウジアラビアと同組になる確率は8分の1。そのほか、第2グループで最強の10年大会優勝国スペインとの同居も、無事に避けられている。


「冷蔵庫から出したてのボール」の伝説

実は、W杯の抽選には「都市伝説」がある。抽選するボールの中から特定のボールを、あらかじめ冷蔵庫に入れてから抽選会直前に出す。そうすれば、抽選役の人がボールに触って温度差を感じ、狙い通りのボールを選ぶことができるからだ。あくまでうわさレベルの話だ。

記者席から肉眼で抽選の細かな部分を確認するのは難しかった=稲垣康介撮影

今回、日本やサウジアラビアが入った第4グループの抽選役を担ったのは、06年W杯優勝メンバーの元イタリア代表、ファビオ・カンナバロさんだった。2階の記者席から肉眼で確かめるのは正直、無理だった。あとから映像で確認してみると、透明なケースの中で、カンナバロさんは手でボールをかきまぜている。そして、一番最初にサウジアラビアを引いたとき、目線がボールを見ていたかどうかは映っていなかった。なぜか、手の動きのアップだった。もちろん、温度差は確認できない。事実として8分の1の確率で、「最弱国」を引き当てた事実があるだけだ。


抽選会翌日、FIFA職員とランチに行った。聞いてみた。「ぶっちゃけたところ、細工ってあるんですか?」。イタリアンの前菜を口にしながら、彼は笑いながら言った。「それはわからないけれど、まあ、うまく引き当てたよね」。堅守イタリアの守りの要だったカンナバロさんだから、仮に細工があったとしても口を割るようなことはしないか。一緒に抽選をしたアルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナさんだったら、いつか口を滑らせてくれそうな期待感もあるのだが……。


まあ、02年日韓大会のとき、日本が同居したロシア、ベルギー、チュニジアも恵まれたグループで、日本は見事、史上初の1次リーグ突破を果たした。開催国が勝ち進まないW杯は大会として盛り上がらないのは、事実なわけで。

抽選会が終わり、クレムリンから出るときには雪が積もり始めていた=稲垣康介撮影



いながき・こうすけ


朝日新聞欧州総局(ロンドン)駐在のスポーツ担当編集委員。欧州で暮らすのは2001年から4年間のロンドン、アテネ駐在以来。著書に『ダウン・ザ・ライン 錦織圭』(朝日新聞出版)。世界のあらゆる情報が瞬時にインターネットで入手できる時代だからこそ、取材現場の臨場感が伝わるコラムをお届けできたらと思っています。



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