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フィンランドでも台頭する排外・差別集団~『希望のかなた』

インタビューに答える主演シェルワン・ハジ=早坂元興撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#75] 藤えりか


フィンランドといえば、「教育や子育て支援に力をいれる高福祉国家」とのイメージが一般に強いが、そんな「いい国」にも難民排斥の差別主義集団がじわり台頭している。ベルリン国際映画祭で銀熊賞の2日公開フィンランド映画『希望のかなた』(原題: Toivon tuolla puolen/英題: The Other Side of Hope)(2017年)はそうした現実を突きつける。実生活でもシリアからフィンランドに移り住んだクルド人の主演俳優シェルワン・ハジ(32)に、東京でインタビューした。


『希望のかなた』は内戦が激しさを増すシリアを逃れた青年カーリド(シェルワン)がフィンランドにたどり着く場面で始まる。シリアの最大都市アレッポで親族も家も失ったカーリドは、トルコを経て船で命からがらギリシャへ渡り、ハンガリー国境で混乱に巻き込まれ、妹ミリアム(ニロズ・ハジ)と生き別れに。ヘルシンキでひとり難民申請をしながら、収容施設で仲よくなったイラク人マズダック(サイモン・フセイン・アルバズーン)に妹を探すための協力をあおぐ。だがカーリドは、「いい人によるいい国」だと聞いていたはずのフィンランドで難民申請を却下され、路上では「フィンランド解放軍」を名乗って排外主義を掲げる黒服の自警団に襲われる。打ちひしがれた彼に手を差し伸べたのは、人生を変えようとレストランオーナーになったヴィクストロム(サカリ・クオスマネン、61)。カーリドがレストランに匿われるようにして懸命に働くうち、やる気のなかった従業員たちも活気を増す。だが妹ミリアムをめぐり、事態はさらに動いてゆく――。

『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

今秋の国連UNHCR難民映画祭での上映に合わせて来日したシェルワンは、メソポタミア文明を育んだチグリス川にほど近いシリア北東部ダイリク(現マリキヤ)で生まれた少数民族クルド人。首都ダマスカスで難関のアートスクール「Higher Institute of Dramatic Arts」に進み、俳優としてテレビなどに出ていたが、2010年にフィンランドへ。ダマスカスのバーでフィンランド人女性と出会い、2年の交際を経てついに結婚に至ったのが移住のきっかけだ。当時はシリア内戦が起こる前。友人らからは「仕事もあるのに、移住なんてどうかしてる」と言われたそうだが、その後、故国は戦闘や空爆にさらされ、多くの友人が家を失い、難民となり、あるいは命を落とした。「シリアを出るのは僕にも大きな決断だったけど、今思えば必然だったんだろうと思う」とシェルワンは語る。

『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017Nine Cats LLC

実際、2014年にフィンランド国籍も得たからこそ、内戦勃発後にトルコに身を寄せていた両親も呼び寄せることができた。きょうだいはオランダで亡命申請をし、認められて住んでいる。おじは故国を出たがらず、アレッポに住み続けているそうだ。


だからこそシェルワンは今作の役作りにあたって、「いわゆる基礎的なリサーチをする必要はなかった」と話す。「シリア出国を強いられた友人がどうしているか、電話などを通じて知っているし、シリアからの移住がどんなものかについても、自分の日常の暮らしの中でわかっている。製作陣は僕の日々の経験を積み重ねる作業から始めた。僕がすべきことは、この問題をキャラクターで体現し、スクリーンを通して観客に届けることだった」

主演シェルワン・ハジ=早坂元興撮影

シェルワンは続けた。「親族や友人は残虐行為にさらされてきた。僕は時々目を閉じて、それがどんなものか想像をめぐらせる。それをこのキャラクターに注ぎ込もうとした。カーリドは架空の人物だけど、現実の無数の人たちを表している。カーリドはさらにカウリスマキ監督の手で、ニュースで報じられるような難民ではなく、違うバックグラウンドを持つ対等な人間として描かれている」


もし内戦前にシリアを出ていなかったら、どうなっていたと思いますか? そう聞くと、シェルワンは答えた。「どこかの難民になっていたかもしれないね。わからないが、少なくとも確実に言えるのは、戦闘に加わったりはしていない」



(次ページへ続く)

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