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ワインスタインが浮き彫りにしたハリウッドの偽善

ロサンゼルスでのアカデミー賞授賞式に妻と現れたハーヴェイ・ワインスタイン(左)=2014年3月、藤えりか撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#74] 藤えりか


米国の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(65)に端を発し、とどまるところを知らない性的暴行・強姦の大量告発の輪。女性の地位向上も唱えてきた人たちが目立つハリウッドが「震源」だけに、「リベラルの偽善」との批判もわき立つ。この状況、どう考えればよいのか。ハリウッドで長年仕事をしてきた東京在住のプロデューサー、ブルース・ナックバー(55)にインタビューした。

プロデューサーのブルース・ナックバー=東京、藤えりか撮影

まず、ワインスタイン問題についておさらいしよう。


最初に報じたのは現地時間10月5日の米紙ニューヨーク・タイムズ (NYT)と、同10日の米誌ニューヨーカーの電子版。NYTはワインスタインが少なくとも8人の女性と金銭的和解に至ったことなどを報じ、ニューヨーカーは被害を詳報。過去数十年の手口としてほぼ共通するのは、無名時代の女優や、女優志望またはスタッフの若い女性を、仕事と称してワインスタイン社の事務所やホテルの部屋に、複数人の会合やパーティーだと思わせて招き入れる点。ところが室内にはワインスタイン一人で、彼が裸になって性行為やマッサージを強要。巨体で知られるワインスタイン、女性が抵抗しても叶わなかったケースが目立つ。訴えればキャリアを台なしにされる恐れから沈黙していた、とする場合も多い。


ワインスタインは当初こそ、報じたNYTを提訴するとしていたが、アンジェリーナ・ジョリー(42)にグウィネス・パルトロウ(45)らも続々とかつての被害を公表し、アカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーが除名を決定。ロサンゼルス市警なども捜査に乗り出す中、ワインスタインは自身が創業したワインスタイン社の共同会長の職を解かれた。11月には米誌ニューヨーカーの続報で、ワインスタインが女性たちの告発を抑えるためイスラエルの民間スパイを送り込んでいたことも明るみに。女性たちは被害リストをグーグルドキュメントで公開、その数は100以上に達している。

俳優・監督のアンジェリーナ・ジョリー=2014年3月、ロサンゼルス、藤えりか撮影

触発されたかのように、俳優のケヴィン・スペイシー(58)にベン・アフレック(45)、ダスティン・ホフマン(80)、オリバー・ストーン監督(71)、ブレット・ラトナー監督(48)、アマゾン・スタジオのトップだったロイ・プライス(50)、『トイ・ストーリー』監督などで知られるピクサー・アニメーション・スタジオ共同創業者のジョン・ラセター(60)への告発も続く。ジャーナリストや著名アンカー、政治家と他の業界にも広がっている。


今回インタビューしたナックバーは、ピクサーでヒット映画『モンスターズ・インク』(2001年)の製作に携わったほか、米テレビシリーズの『Dr.HOUSE』(2004~12年)なども製作、マシュー・マコノヒー主演(48)の『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年)では製作総指揮を務めた。今は東京在住だが、ハリウッドに長く身を置いてきた。その目に、今の状況はどう映るのだろう。


「最近のワインスタインは、『有名にしてやる』『オスカーをとらせてやる』と言える力も、『言うことを聞かなければスターになれなくしてやるぞ』とおびやかす効果もなくなってきた。それでも女性たちは、声をあげたら業界からどんな反応が返ってくるか当初はわからなかっただろうし、とても勇気が要ることだっただろうけれども」。ナックバーは語った。


ワインスタイン社は今や破綻の危機が囁かれるが、実はすでにここ数年、売却話は米メディアで飛び交っていた。「彼らの映画事業はとても落ち込んでいる。テレビ事業はまだいいが、それだけではオスカーほどの名声にはつながりにくいからね」とナックバーは言う。


ワインスタインの力が陰りを見せてきた背景の一つに、ネットフリックスやアマゾンなどの動画配信サービスの躍進がある。定額の有料会員向けに幅広い品揃えをめざす彼らはこのところ、商業映画が敬遠するような冒険的なテーマのオリジナル作品を大予算で製作、会員数を急速に増やしている。彼らと仕事をした監督や俳優が口をそろえるように言うのは、「プロデューサーの意向に左右されず、自由に撮れる」。言い換えれば、ワインスタインのような人物の言いなりにならなくても、「出口」が多様になっているということだ。

俳優のケヴィン・スペイシー=2014年3月、ロサンゼルス、藤えりか撮影

被害公表が相次ぐ背景にはトランプ効果もある、とナックバーはみる。「女性蔑視発言をしたトランプが大統領になったことで、女性へのハラスメントに立ち向かう人たちが怒り、大きな力を得た。その力がトランプ以外に対しても強くなり、『こうしたことはもう認められない。戦うべし』となった」


米国では2016年、FOXニュースの最高経営責任者(CEO)だった故ロジャー・エイルズが、女性キャスターに性的関係を迫り、断られた末に解雇していたことが発覚、エイルズはCEOを辞任。今年4月には、FOXの人気司会者ビル・オライリー(68)もセクハラで番組降板となった。「これも女性たちにとって力になった。社会が訴えを真剣に取り上げて耳を傾けるようになったと感じ、恐れず名乗り出られる希望が出てきたのではないか。これを機に一般の人も、この問題を意識するようになるだろう」とナックバーはみる。


今回の問題がより深刻なのは、加害者とされる人たちの多くが、日頃は「少数者の権利」を唱えるリベラル派だった点だ。

米ハリウッドで11月にあった、性的暴行やセクハラに抗議するデモ行進。「#Me Too(私も)」という横断幕を掲げた女性たちが街を歩いた=AP

ワインスタインはオバマ前大統領(56)やクリントン夫妻ら民主党政治家らを資金面で長年支えてきた。AP通信によると、ワインスタインや一族による民主党や同党政治家らへの寄付総額は1992年以降で140万ドル以上。今年1月には、反トランプの流れで全米で起きたウィメンズマーチにワインスタインも参加した。女性監督の育成のための奨学金として、南カリフォルニア大学に500万ドルを寄付する予定にもなっていた。


これって矛盾しているのでは――。そう言うと、ナックバーは語った。「ワインスタインはきっと、自分自身はあくまでリベラルだと信じていることだろう。ウィメンズマーチへの参加と、彼が女性たちに性的な被害を及ぼしたことが矛盾するとは思っていないんだと思う」



(次ページへ続く)

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