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映画が現実を動かした~『ドリーム』

ガーヴィー・マッキントッシュNASAアジア担当代表や前田真紀JAXAこうのとりフライトディレクタ、ジーン・K・アイゼンハット米空軍大佐と臨んだ『ドリーム』試写トークイベント=飯塚晋一撮影


シネマニア・リポート Cinemania Report [#62] 藤えりか


「映画を通して世界の問題を考える」を掲げて「シネマニア・リポート」を連載している私だが、映画は現実をも動かすのだ、と改めて感じ入った。米航空宇宙局(NASA)の宇宙開発に貢献した知られざる黒人女性たちを描いた米映画『ドリーム』(原題: Hidden Figures)(2016年)の29日公開を前に、今作の「その後」をまさに体現すると言える、日米で宇宙分野に従事する方々と語る機会を得た。


『ドリーム』は米ソ宇宙開発競争が激しさを増す東西冷戦下、1960年代の米国が舞台。人工衛星スプートニク打ち上げ、ガガーリンの有人宇宙飛行と、宇宙分野での「人類初」をソ連に相次ぎ先んじられて焦る米政府は、南部バージニア州のNASAラングレー研究所にはっぱをかける。だが有人宇宙飛行に必須の軌道計算がなかなかうまくいかず、白人の男性研究者たちは頭を抱える。そこで優秀な黒人女性たちが集まる「西計算グループ」から、数学の天才キャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン、47)が黒人女性として初めて、アル・ハリソン(ケヴィン・コスナー、62)率いる宇宙特別研究本部へ抜擢される。だが白人同僚からは計算に必要なデータも共有してもらえず、トイレも白人専用しかなく、コーヒーポットも共用できない。それでも、IBMのコンピュター導入以前の時期にあって、複雑な計算や解析を手書きで成し遂げ、宇宙飛行士ジョン・グレン(グレン・パウエル、28)やハリソンらに認められてゆく。その傍ら、管理職への昇進を希望しながら黒人ゆえに認められない西計算グループのリーダー格ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー、47)や、エンジニアを志すも肌の色ゆえに道を閉ざされてきたメアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ、31)も、それぞれ道を切り開いてゆく。

『ドリーム』より ⓒ 2016 Twentieth Century Fox

超優秀な彼女たちの物語に対しておこがましいが、自分のこれまでと重ねながら私は今作に見入った。懸命に作った書類に名前を入れてもらえなかったり、情報を共有してもらえなかったり、前例がないと言われたり。しかも、それが一応はルールや常識だったりする。女性に限って語るのも今やナンセンスではあるが、ジェンダーギャップ指数が世界で111位の日本の女性たちが、多くの場面で共感を覚えるのではないだろうか。


私が最も心にグッときたセリフがある。エンジニアをめざしたメアリーの「私たちが成功しそうになると、ゴールをずらされる(Every time we have a chance to get ahead, they move the finish line.)」。膝を打ちまくって痛くなったほどだ。


それでも彼女たちは、実力でもってゴールをものにした。繰り返し言うが、舞台はバージニア州。最近も白人至上主義者が集まり、彼らに抗議する人たちと衝突、死傷者が出たシャーロッツビルのある南部の州だ。公民権法以前のこの地域が、非白人の女性にとってどんなに厳しい環境であったか。

『ドリーム』より ⓒ 2016 Twentieth Century Fox

米国で昨年末に公開されると、全米での興行収入は2週連続で首位、11週連続でトップ10入りの大ヒット。アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演女優賞の3部門にノミネートされ、授賞式には現在99歳のキャサリンが今作のキャストとともに車椅子で登場し、スタンディングオベーションを受けた。これを機に非白人女性たちへのSTEM(科学・技術・工学・数学)教育を盛り上げようと、全米で無料チャリティー上映も相次いだ。在日アメリカ大使館によると世界80カ国以上のアメリカ大使館が、現地で上映したいとの要望を本国に寄せた。


その一環として日本では9月15日、東京の有楽町朝日ホールで今作の試写トークイベントが開かれた。配給の20世紀フォックス映画が主催、在日アメリカ大使館とNASA、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が協賛し、科学や数学などを学ぶ日本の学生たちが招かれる中、私が司会を務めた。登壇したのはアフリカ系米国人と日系米国人、そして日本人。1960年代の南部にいればジム・クロウ法のもと、白人のトイレを使わせてもらえなかったであろう面々だ(同じ非白人でも当時のアジア系の扱いは場合によって違ったりするものの)。

『ドリーム』試写トークイベントの冒頭、スピーチする在日アメリカ大使館のサマンサ・ユレット安全保障政策担当書記官=飯塚晋一撮影

冒頭のあいさつに立ったのはアメリカ大使館の政治部で安全保障政策を担当するサマンサ・ユレット書記官。米国務省に外交官として入省、ベトナム・ホーチミンやシンガポールを経て東京に赴任、平和維持活動や対テロ、サイバーセキュリティー問題などを担当している。ユレット書記官は、原題が「隠された人物、あるいは図式・データ」を意味するHidden Figuresであることに触れ、「これは1960年代の女性や有色人種の闘いを表している。女性、そしてアフリカ系米国人は陰に隠れていなくてはならない、人目についてはならない、声を上げてはならない、かつそれを守らなくてはならないと思われてきた」と語り、拍手を浴びた。



(次ページへ続く)

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