RSS

Webオリジナル

香港にも広がる「忖度」~『十年』

伍嘉良監督=本人提供



シネマニア・リポート Cinemania Report [#54] 藤えりか



「忖度」が社会を覆っているのは日本だけではなかった。中国返還後の香港映画界が勢いをなくした背景に、経済的にも強大になった中国への配慮による自己規制の広がりがあるという。中国の統制強化で個人の自由が抑圧される将来の香港社会を予想した香港映画『十年』(原題: 十年/英題: Ten Years)(2015年)が22日公開された。製作・監督した伍嘉良(ン・ガーリョン、36)にスカイプでインタビューした。

『十年』より『エキストラ』 © Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

『十年』は26~38歳の若手監督5人がそれぞれ脚本を書いて撮った、5つの短編から成るオムニバス作品だ。製作費わずか約50万香港ドル(約720万円)、たった1館からの上映スタートだったが、口コミで人気が広がって動員を増やし、興行収入は600万香港ドルに達したという。2016年には、香港のアカデミー賞にあたる「金像賞」の作品賞を受賞した。


だが、その授賞式の様子は中国では報道もされなかった。作品自体の上映も認められていないという。


5編のあらすじを聞けば、それもそのはず、とうなずける。

『十年』より『焼身自殺者』 © Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

冒頭の『エキストラ』は、政党が支持回復のためでっち上げた暗殺騒動に巻き込まれた移民らを描き、続く『冬のセミ』は消えゆく身の回りのものを標本にしてゆく男女を、世紀末感を漂わせてつづる。『方言』では、地元の広東語ではなく北京などで使われる「普通語」を強制させられ、仕事も居場所もなくしていくタクシー運転手らの悲哀が紡ぎ出される。『焼身自殺者』は、英国総領事館前で焼身自殺が起きるなか、独立運動に身を投じる若者たちやその弾圧をドキュメンタリー風に描く。最終話の『地元産の卵』では食料品店の店主が、香港で唯一残る養鶏場から仕入れた卵に「地元産」と掲げて少年団にとがめられる。「よくない言葉リスト」を手に街中を監視する彼らは、禁書を扱う書店に卵を投げつける。香港社会に検閲が進んだ末路として、伍監督が脚本・監督を務めた。


「私は中国のブラックリストには載っただろうね。だから中国本土にはその後、行かないようにしている」。伍監督はスカイプのビデオ通話画面の向こうで笑った。「ただ、中国本土の複数の友人からは、この映画を不法にネットからダウンロードして見ている人がたくさんいると聞いているよ」


筆者は2016年、「雨傘運動」の元リーダー、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)にインタビュー。黄らが座り込みをした香港政府本部の前で待ち合わせると、運動の象徴だった雨傘がなお飾られていた=藤えりか撮影

香港は1997年の中国返還に際し、「一国二制度」によって向こう50年間は「高度な自治」が保障されることとなったが、中国が政治的にも経済的にも強大になるにつれ、制度の揺らぎを危ぶむ声が広がっている。2014年には普通選挙を求める若者による「雨傘運動」が起きたが、要求は退けられた。返還20年を迎えた7月1日には、就任後初めて香港を訪れた中国の習近平国家主席が、愛国教育などを通じて「一国意識」を高めるよう香港政府に促し、反発する市民らが抗議のデモ行進をした。



(次ページへ続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

Popular article | 人気記事

さらに記事を見る
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示