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変わる消費の形 (2) モノからコトへの近未来

ITが創る未来のカタチ 更新日: 公開日:

最近、「モノからコトへ」というバズワードをよく耳にします。消費の動向が、モノの購買から体験の消費に変わりつつあるという説です。しかし、そんなことが本当に起きているのでしょうか? 「若者の〇〇離れ」としきりに叫ばれていますが、若者が消費から離れているのではなく、お金が若者から離れただけではないのでしょうか?


今回は、アメリカ消費文化の象徴とも言える巨大モールの動向を追うことで、「モノからコトへ」は本当に起きているのか検証してみることにしました。

ショッピングの本流、巨大モール

アメリカで買い物といえば何と言ってもショッピングモールです。僕も若い頃、友達やホストファミリーと連れ立ってよく行ったものです。いつ行っても人であふれており、母の日や感謝祭、あるいはクリスマス前などは、どこかの観光地に来たのかと思うほどごった返していました。


しかし、そんな巨大モールに現在異変が起きています。アメリカは好景気の真っ只中であるというのに、倒産が相次いでいるのです。しかも、5年後の2022年までにはさらに25パーセント、およそ300軒のモールが倒産すると予測されています。一体どうしてこんなことが起きているのでしょうか? 


真っ先に考えられる原因は、そもそもモールが多すぎることです。1970年から2015年の間に米国のモールの数は、人口増加率の倍のペースで増えてきました。そして現在はおよそ1200軒ものモールが存在します。

米国における一人当たりの売り場面積はイギリスの5倍、ドイツの10倍とも言われ、要するに供給過多なのです。私の自宅の近所にも20分程度で行ける範囲に6、7軒あります。


しかしこれまでは、それでも潰れるところなどなかったのです。


Eコマースがモールを殺している?

2007年のリーマンショックまで、アメリカの消費を牽引していたのは何と言っても「モノの消費」でした。ところが2007年以降、お金の行き先が旅行や外食など、コトの消費へとシフトしているのです。アメリカの国内線は旅客を増やし続けており、昨年は人口の2.7倍に当たる8.23億人と過去最高を記録しました。また外食産業の売り上げは、小売の倍以上のペースで増えています。なお2016年には、家計における外食の出費が、食料品のそれを初めて上回りました。


ではなぜ2007年のリーマンショック以降、消費の動向が変わったのでしょうか?

Eコマースがモールを殺している?

2007年のもう一つのビックニュースと言えば、初代 iPhone の発売です。そしてその後爆発的に普及したスマートフォンは、Eコマースの躍進に大きく貢献しました。アマゾン一社だけとってみても、2007年の148億ドルから2016年の1359億ドルへと、9年間で売り上げがなんと9倍(!)も増えているのです。


そして、このEコマースによるダメージが特に目立つのが百貨店なのです。ネットショッピングが定着するにつれ、人々は消耗品や電気製品のみならず、衣類や時計といった、直接身に付けるものさえもネットで買うようになりました。またネットショッピングは限りなく手軽になり、今では真夜中に寝床の中からでもタップ一つで買い物ができてしまうのです。


また、スマホそのものが、あまりにも多くのモノを不要にしてしまいました。デジカメ、ビデオカメラ、ボイスレコーダー、カーナビ、ガラケー、ラジオ、ゲーム機、懐中電灯、計算機……上げていくとキリがありません。


これで百貨店の売り上げが落ちないはずがありません。アメリカを代表する百貨店メイシーズは、2017年内に100店舗閉鎖することを発表しましたし、シアーズやKマートなどもバタバタと閉店を急いでいます。

こういった大型百貨店はアメリカ中の大型モールで集客の中核を担っていますから、百貨店の凋落はそのままモールに大変なダメージを与えてしまうのです。例えばメイシーズの客層は、 カジュアル服のブランド、アメリカン・イーグルと被るため、メイシーズがモールから抜け落ちてしまうと、アメリカン・イーグルの客も激減してしまうのです。


そして現在多くのブランド店が、百貨店の凋落の煽りを喰らい閉鎖を余儀なくされています。エアロポステール、チコス、フィニッシュライン、メンズウェアハウス、チルドレンズプレイスなどなど……。また、ラジオシャックといった老舗の電機店も閉店に追い込まれてしまいました。


こうしてたくさんのお店が一度に抜けてしまうと、代わりになるテナントは早々見つかりません。するとモール自体があっという間に倒産に追い込まれてしまうのです。また、これといった産業がない地方都市で巨大モールが倒産すると、職を失った人々を吸収する工場労働がもはや存在しないため、そのまま地域経済の衰退に繋がってしまうのです。

モノからコトの行き先

スマホの普及以降、欲しいものは特にない……これはアメリカに限らず、先進国の住人に共通した感覚でしょう。それよりもまだ見ぬ風景を見に行ったり、気の合う友人や家族とレストランやカフェで楽しいひと時を過ごしたい… そんなところではないでしょうか?


私のうちの近所にも、雰囲気のいい喫茶店やレストランが次々とオープンし、どこも大にぎわいです。そしてその目と鼻の先には、シアーズとメイシーズの撤退を引き金に倒産したモールが、閉鎖したまま放置されているのです。

日本でもモノからコトへのシフトは確実に始まっています。持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らそうという考え方は大きな共感を呼んでいます。また、車の買い替えサイクルも、90年代の6年前後から現在は8年以上と、2年以上も伸びています。ただ、「モノからコト」に移りたくても、二極化が進んだせいでコトの消費に回すお金がないというのが実態ではないでしょうか?


日本ではまだモールが増え続けていますが、Eコマースのますますの発達、人口減少、シェアリングエコノミーの発達などを考えると、難しい局面を迎えるのはそれほど遠い将来のことではないでしょう。


アメリカでは今、モール再生事業が注目を浴びています。市役所や病院、警察や消防、それにレストランなどをモール内に呼び込み、「新たなダウンタウン」を生み出そうとする試みが始まっているのです。アメリカで起きることの多くは5年ほど後追いで日本でも起きますから、日本のモール経営者や地方自治体も、こうした動向を今のうちからよく研究しておくべきではないでしょうか?