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スポーツ記者 稲垣康介 03


薄れる? サッカーW杯への恋心


今年は日本サッカー界が長年、恋い焦がれながら成就できなかった夢がかなって、20周年になります。1998年ワールドカップ(W杯)フランス大会のアジア地区第3代表決定戦で、日本代表はイランとの激闘を制し、悲願の初出場を射止めました。97年11月16日。「ジョホールバルの歓喜」です。

W杯アジア最終予選 日本ーイラン 決勝ゴールを決めた岡野に抱き付いてW杯フランス大会出場を喜ぶ岡田武史監督(右手前)ら日本代表チーム=1997年11月、マレーシア・ジョホールバルのラーキン競技場で

以来、日本は5大会連続で本大会に出場しています。W杯に対するピュアなあこがれは薄れている気がします。恋愛に例えると、イメージしやすいかもしれません。長年、片思いだった彼女と相思相愛になり、結婚。20年という歳月が経過したら、倦怠期が訪れることもあるでしょう。あくまで一般論です。


そんななか、9年後の大会から、予選突破がさらに容易になることが決まりました。国際サッカー連盟(FIFA)が5月9日にバーレーンのマナマで開いた理事会で、現行の32から48チームに出場枠が広がる26年W杯の大陸連盟別出場枠を決め、アジアは現行の4.5(0.5は大陸間プレーオフ)から大幅増の8枠が確約されました。


アジア以外では欧州が3増の16、アフリカは4増の9、南米は1.5増の6、北中米カリブ海は2.5増の6、オセアニアは0.5増の1。過去の成績から考えれば、アジアは優遇された印象があります。14年ブラジル大会で、日本を含むアジア勢4チームは1勝もできず、すべて1次リーグ敗退に終わりました。

2014年ブラジル大会で試合敗退後、観客席に向かい一礼する日本の選手たち=2014年6月

「優遇」の背景に、アジアの経済力での貢献が透けてみえます。FIFAは2年前、幹部の汚職で腐敗体質が露呈し、スポンサー探しに苦慮していました。そんな中、中国の家電大手、不動産やレジャー産業を手がける複合企業、カタールの航空会社がW杯などのスポンサー契約を結びました。クラブW杯のスポンサーには中国の通販最大手が名乗りを上げました。アジアの資金力と市場の成長性がFIFAには魅力的なのでしょう。


そもそも、W杯の門戸が広がることに、欧州からは「弱小国も出るようになると、大差がつくような試合が増え、大会の質が落ちる」との批判がありました。日本のコアなサッカー好きからも反対論が聞かれます。

「48への増枠は水増し」「アジアが8枠に増えたら、アジア予選を突破できるかどうかのハラハラドキドキを味わえない」。たしかに、放映権を持つテレビ朝日が掲げる「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」というキャッチフレーズのリアル感は消えます。必ずしも勝たなくていい試合が増えたら視聴率が落ちるかもしれません。


アジア枠増、アジアの国々の反応は?


11日にマナマで開かれたFIFA総会で、アジア各国の代表に直撃アンケートをしてみました。


アジアの8枠確約をどう思いますか?

FIFA総会には加盟する211カ国・地域のサッカー関係者が集った=稲垣康介撮影

全員、大賛成でした。イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなど、来年のW杯ロシア大会の切符を日本と最終予選B組で争うライバルのようなアジアの実力国にとってはW杯が近づきます。


FIFA理事である日本サッカー協会の田嶋幸三会長にも聞きました。8枠確約は「満額回答」じゃないですか?


田嶋会長は率直に答えてくれました。「たしかに、FIFAランキングの上位48チームに(アジア枠の国は)三つしかないのだから十分です。日本だって44位ですから。そして、日本としてはW杯に出続けることが大切だから、決定は歓迎です」


その後に、こう続けました。「日本だって、初出場したのは出場枠が24から32チームに増えた98年フランス大会で、そこから右肩上がりで今がある。まだ出場を果たしていないアジアの国にもそのようになってもらいたい」


増枠の恩恵を受け、そして2002年日韓大会を経て、今の地位を築いた日本のように、今回の増枠がアジアサッカー界の起爆剤になるのは確かでしょう。

マナマでは日本とオマーンの両サッカー協会の交流協定の調印式が行われた=稲垣康介撮影

私自身は正直、今回の48チームへの拡大に賛成ではありません。1チームあたりの1次リーグの試合数が3から2に減ったり、1次リーグ最終戦の全試合同時刻キックオフの原則が崩れたりなど、弊害が多いからです。


何より、歴代のFIFA会長がそうだったように、昨年就任したインファンティノ会長も2年後の再選をめざし、会長選挙の「有権者」である各国協会から支持をもらうために、W杯の増枠を公約に掲げたに違いないと勘ぐってしまうのです。


でも、今回、マナマでアジア各国の協会の人たちに話を聞いて、少し気持ちが揺らぎました。初出場を夢見るアジアのサッカー関係者のピュアな思いは、まさに青春時代の片思いと一緒。今でこそ常連国になった日本のファンにしても、初出場がかなう1997年以前は、同じ気持ちだったはずですし、一度、ひのき舞台を踏んだことが、その後の成長を加速したのも事実です。


ただ、中東バーレーンから欧州のレベルの高いサッカーに触れる日常に戻ると、W杯という最高峰の祭典の質を保つには、アジア枠を少し返上すべきじゃないか、という気持ちが頭をもたげてくるのですが。



(次回は6月2日に掲載する予定です)





いながき・こうすけ


朝日新聞欧州総局(ロンドン)駐在のスポーツ担当編集委員。欧州で暮らすのは2001年から4年間のロンドン、アテネ駐在以来。著書に『ダウン・ザ・ライン 錦織圭』(朝日新聞出版)。世界のあらゆる情報が瞬時にインターネットで入手できる時代だからこそ、取材現場の臨場感が伝わるコラムをお届けできたらと思っています。


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