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白人たちはなぜ貧困化したのか 松井博 #02



近年アメリカでは、白人中年男性の自殺が目立って増えています。原因は白人の地位の低下です。プライドもお金も、そして精神の安住さえない。それが現在アメリカの中西部や南部の田舎に住む、少なからぬ白人たちの立ち位置なのです。

ラストベルトと呼ばれるかつての工業地帯では、廃墟となった工場跡地などが目につく=オハイオ州マホニング郡、2016年

こういった傾向が色濃く見られるラストベルト(錆び付いた工業地帯)と呼ばれる中西部は、かつては豊かな一大工業地帯でした。学歴などなくても誰もが豊かに暮らせたのです。僕がこの地域にホームステイしたのは1980年代の前半でしたが、そのあまりの豊かさには度肝を抜かれました。どの家の庭もスプリンクラーで水がまかれ、高校生がマイカーで通学していました。その頃日本ではまだ下水道の普及率が40パーセントにも満たず、道端には空き缶が転がっていたのです。



パソコンから始まった変化

しかし、IT革命はそんなアメリカの豊かだった中西部を残酷なまでに変えてしまいました。最初のきっかけは80年代に始まったパソコンのビジネス利用です。ワードやエクセルを使うのが当たり前になり、ホワイトカラーの生産性が劇的に向上しました。


そしてその頃から、田舎からの人材流出が始まったのです。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズの成功が話題になり、能力のある者たちは彼らに続けと都会へ出ていってしまいました。西海岸と東海岸に優秀な人材が集まり、地方に残った、どちらかといえば学歴が低く保守的な人々との差が少しずつ開き始めました。

90年代に入るとインターネットが普及し、コミュニケーションのスピードが飛躍的に上がりました。そして、変化は国内に留まらなくなっていったのです。コンピューターを駆使して緻密なスケジュールを組めるようになったり、製品の設計内容をどこにでも瞬時に送れるようになった結果、世界各地から必要な部材を中国の工場に同じ日に一点の間違いなく搬入し、即日に製造して送り返すなどといった離れ業が可能になったのです。工場の国外移転が一気に加速しました。僕が勤めていたアップルも90年代には米国内の生産拠点で1万5000人ほど雇用していましたが、2004年にはすべて閉鎖し、中国に移転してしまったのです。自動車メーカーがメキシコへと工場を移したのもこの頃です。製造業における人員削減は著しく、1980年から2010年の間に就業者数は1890万人から1220万人へと670万人も減ってしまったのです。


(次ページへ続く)
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