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アメリカが日本を守ってくれる?日米安保条約第5条の〝本当〟/軍事社会学者 北村淳 #1



北朝鮮が弾道ミサイルの発射の頻度を増加させている。それに対して、トランプ政権は軍事攻撃をも含めてあらゆるオプションを実施する用意がある旨を表明している。そして、韓国で実施中の米韓合同軍事演習でも金正恩政権排除作戦の訓練を実施したり、朝鮮半島方面に空母打撃群を向かわせたり、と目に見える形での軍事的威嚇を強めている。


もちろん、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃した場合には、ほぼ確実に北朝鮮軍による報復攻撃がなされ、韓国や日本の数え切れないほどの一般市民も巻き添えにしてしまうことになるため、トランプ政権といえども、そう簡単に北朝鮮攻撃の決断は下せない状況である。とはいうものの、北朝鮮に対する軍事攻撃がテーブルに上がっているということで、アメリカ軍当局では否が応でも緊張が高まっており、真剣な議論が飛び交っている。


ところが、現時点においてアメリカよりも日本の方が北朝鮮による軍事的脅威に直接さらされているにもかかわらず、日本政府当局者の言動や日本の論調の多くからは、アメリカ軍当局者たちの間に広がっている緊張感が感じられない。


この緊張感の欠落は、おそらく「万が一にも北朝鮮が日本を攻撃するような事態に立ち至っても、日米安保条約がある以上、アメリカがなんとかしてくれるに違いない」といった具合の安心感が、多くの政府首脳や政治家たちの内心深くに根を下ろしているからに違いない。


このような日米安保条約あるいは日米同盟に頼り切っている姿勢は、中国による軍事的脅威に対してより如実に表れている。中国は南シナ海での人工島の建設や、東シナ海での軍機や公船による日本領域接近や侵入といった、支配権の獲得の動きを活発化させている。


安倍政権はことあるごとに「日米同盟の強化」を唱えているが、最近、その日米同盟のアメリカ側の担い手である米軍関係戦略家たちなどの間から「日本の人々に日米安保条約を誤解されていると、日本にとってもアメリカにとっても不幸な結果になる」と言う声が上がっていることに、注意を払わなければならない。


日本政府による尖閣諸島の国有化以降、飛躍的に高まった中国艦船による尖閣諸島周辺海域への接近行動が活発化するのに応じて、日本政府はアメリカ政府高官や国防当局者たちに「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲であり、有事に際してはアメリカは条約の規定に従い適切に対処する」といった「尖閣諸島と安保5条に関するアメリカの基本姿勢」(以下『基本姿勢』と称する)を語らせることを、ある意味では外交目的にしているように見受けられる。


オバマ政権下ではヒラリー・クリントン国務長官、パネッタ国防長官、ヘーゲル国防長官、ケリー国務長官、カーター国防長官など政府高官たちが〝基本姿勢〟を繰り返し公言した。そして2014年にオバマ大統領が訪日した際には、はじめて大統領自身の口からも『基本姿勢』が語られた。


そして、トランプ政権が発足すると、ティラーソン国務長官もマティス国防長官も『基本姿勢』を公言し、安倍首相とトランプ大統領の会談に際して発表された日米共同声明には、「両首脳は、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認した。両首脳は、同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」という文言が盛り込まれた。


このようにアメリカ政府高官が『基本姿勢』を口にすると、日本政府もメディアの多くも「尖閣諸島は安保条約の適用範囲内にあり、アメリカが防衛義務を負うことをアメリカ側が確認した」といった趣旨の論評を国民に向けて繰り返している。尖閣諸島に中国軍が侵攻してきたり、尖閣諸島が中国により占領されたりした場合には、あたかも、アメリカ軍が救援軍を派遣して尖閣を防衛あるいは奪還してくれる、といわんばかりのニュアンスだ。「尖閣有事の際にはアメリカが守ってくれる」と胸をなで下ろしている状態、これはとんでもない身勝手な解釈である。


当たり前のことしか口にしていないアメリカ


そもそも、オバマ政権にせよトランプ政権(現在までのところ)にせよ、「第三国間の領土問題には介入しない」というアメリカ外交の伝統的鉄則を変更してはいない。すなわち、アメリカ政府は「尖閣諸島の領有権が日本に帰属しているのか否か」に関しては一切触れてはいない。アメリカ側は、このような基本姿勢の上に「現状では、尖閣諸島は日本の施政下にあると理解している」という立場をとっているのだ。


そして日米安保条約第5条には「各締約国は、日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和および安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定および手続きに従って、共通の危険に対処することを宣言する」とある。したがって、アメリカ政府が尖閣諸島を日本の施政下にあると理解している限りは、当然ながら尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲と言うことになる。


日米安保条約が適用される以上は、もし中国が尖閣諸島に侵攻してきた場合には「アメリカは日米安保条約第5条の規定に則して対処する」のは、日米安保条約が存在する限り、極めて当たり前のことである。


アメリカ側が繰り返し繰り返し明言しているのは、尖閣有事の際には「アメリカ合衆国憲法や法令などに従って適切に対処する」という基本原則を確認しているのであって、「自衛隊と共に中国侵攻軍を撃退するため、アメリカ軍を派遣する」といったような具体的対処方針を口にしたことは一度もない。



(次ページへ続く)

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