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「もう一度クリスマスを祝福する」との発言で、トランプは文化戦争の新たな前線を開いた

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“‘Celebrating Merry Christmas again: Trump opens new front in the culture wars

2017121日付 ワシントン・ポスト紙

 私が小学生の時、学校に私以外にユダヤ教徒はほとんどいなかった。そしてクリスマスになると、公立なのに学校でクリスマスの飾り物があったり、クリスマスの歌を歌ったりなど、明らかにキリスト教関連のものがたくさんあった。その時、私はとても違和感かつ疎外感を抱いた。アメリカ建国時から大切にされてきた価値観の一つにseparation of church and state(政教分離)があるので、厳密に言えばそのようなことがあってはならない。が、実際アメリカ人の約70%はキリスト教徒なので、現実としてクリスマスを祝う雰囲気がいまだ多く存在する。

しかし近年、多様な宗教的背景を持つ移民が増え、かつ多様性を尊重する意識が高まっているので、クリスマスばかりを祝うことにならないよう、多くの人が気を付けるようになってきた。その意識の表れとして、例えば季節のあいさつとして、Merry Christmasの代わりに、Happy Holidaysと言う人が増えている。Holidaysだと、私にとって祭日のハヌカが含まれる表現になるので、個人的にはうれしいが、そう思わない人もいるらしい。

記事では、好ましく思わない人々としてreligious right(宗教右派)や保守系テレビ局フォックスニュース関係者の一部を挙げ、彼らはwar on Christmas(クリスマスに関する戦争)が起きていると信じているという。さらに、political correctness(政治的な正しさ、人種や宗教の偏見を含まず中立であろうとすること)を理由に、多くの人がクリスマスのことを口にしないようにしているのではないかと心配しているというのだ。

それはノンセンスだとこの記事が引用する保守派コラムニストは言う。しかしその裏に、隠れた怒りがあるともそのコラムニストは指摘する。宗教右派の間には、自分たちの価値観が無視されていると感じる人が多いというのだ。彼らは定期的に教会に行くし、flag-waving(愛国心を誇示)し、税金もしっかり払い、既婚でちゃんとパートナーにコミットしているという特徴がある。一方、自分の信じていることが頻繁にtrashed(激しく非難されている)と感じている。これが、ここ数十年にアメリカで起きているculture wars(文化戦争)の典型的なものである。

そしてトランプ大統領は自分の政治的な目的のために、この人々の怒りをtapped into(利用した)と記事は主張する。約1年前に大統領候補として行ったstump speech(街頭演説)で「Merry Christmasを言いましょう」と言ったことが始まりだ。彼はregular churchgoer(教会に行く習慣がある人)ではないのに、そう発言することで選挙に不可欠だったevangelical support(キリスト教福音主義者らの支持)を得たのだ。今年は大統領として初めての12月を迎え、過去最低のapproval ratings(支持率)を記録したことを受け、自分のコア支持者にアピールして支持をshore up(補強)しようとしているという。

問題なのは、トランプ大統領はクリスマスを祝福している人のためだけの大統領ではなく、全てのアメリカ人のための大統領であるということだ。なので、メリークリスマスというrhetorical garnish(美辞麗句)をことさら強調するのは一国のリーダーとして本当に適切かどうか、私の疑問は大きくなる一方である。


(ワシントン・ポスト紙の記事はこちら )