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「安全地帯から出ていこう!」NYTコラムニストが大学卒業生に贈る言葉

"Leave Your Safe Spaces:The 2017 Commencement Address at Hampden-Sydney College"

5月17日付 ニューヨーク・タイムズ紙

思い思いの装飾が施された卒業式の式帽
photo:Reuters


米国では大学のcommencement address (卒業式の演説)が時に注目を集める。ゲストスピーカーに著名人が招かれることが多く、マスコミの話題にのぼりやすいからだ。今回私が取り上げたいのは、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ブレット・スティーブンスがハンプデンシドニー・カレッジというバージニア州の男子校で行った演説だ。今回の見出しにうたわれたメッセージは、この人物が語ると説得力がある。


実はスティーブンスの前職は保守系ウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説室副委員長。日本の被爆70年にあたる2015年8月、原爆投下を正当化するコラムを書いて物議を醸し、ニューヨーク・タイムズに移籍後の今年4月には地球温暖化の原因が人間の仕業かどうかについて疑う余地があると書いて、リベラル色の強いタイムズの読者からoutcry (抗議)が殺到した。


その筆者が出て行こうと促すsafe space (安全地帯)とは、like-minded (同じ考えを持った)人が集まり、自分と異なる意見に遭遇することがないような場所のこと。彼の主張によると、いまの米国は、heterodox (異説の)、あるいはunsettling (不安にさせる)考えは歓迎されず、controversial (物議を醸す)問題は、議論をshut down (止める)傾向が強くなっている。自分と反対の意見を持つ人を、knavish ignoramus (ならず者で無学な人)としてdenounce (非難する)人すらいる。


自身が身を置くマスメディアに対する人々の態度を見ればそれは明らかだというのはうなずける。保守派はFox News、リベラル派はMSNBCを視聴し、新聞を開けば自分と同じ論調の記者のコラムを選んで読んでは自分はやっぱり正しいと納得し、異なる意見のコラムはすっ飛ばすか、with smirking disdain (軽蔑の思いでニヤニヤしながら)読むのが関の山だ。


筆者が懸念しているのは、「自分の考えは間違っているかもしれない」「別の見方はないのだろうか」というまともな態度がいまの米国人から失われつつあることだ。そこで三権分立で知られるchecks and balances (権力の専制を防ぐための抑制と均衡のシステム)が健全な国家運営に必要であるように、個人も偏りをチェックするシステムが必要だと訴える。つまり、安全地帯から出て、違った考えの人の話にも耳を傾け、是々非々で友好関係を作ることだ。その結果、自分が変わるかもしれないし、相手が変わるかもしれないだろう。


ウォール・ストリート・ジャーナルを辞めてニューヨーク・タイムズに移ったのは、まさに安全地帯からの離脱を自ら求めてのことだったと筆者は振り返っている。


(5月17日付 ニューヨーク・タイムズ紙から)


Rochelle Kopp(ロッシェル・カップ)

人事管理と異文化理解が専門のコンサルタント。シカゴ大経営大学院修了。日本語が堪能。本コラムに加筆した『見出しとリードで読み解く英語ニュース』(語研)など著書多数。


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