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北朝鮮サバイバル

日本不在のまま動く朝鮮半島 

神戸大学大学院・木村幹教授に聞く


めまぐるしく情勢が動く朝鮮半島。核・ミサイル開発を推し進めた昨年とは打って変わって、北朝鮮は今年に入り、融和ムードを強調し始めた。日本が「最大限の圧力」をかけるために手を携えていたはずの米国・トランプ大統領は金正恩氏との首脳会談にあっさり応じた。一方、日本はこの間、蚊帳の外に置かれたまま。韓国と米国が対話に進むなか、日本にできることはあるのだろうか。日韓関係の専門家で神戸大学大学院国際協力研究科の木村幹教授に聞いた。(GLOBE編集部・宋光祐)

平昌五輪・女子回転の会場で応援する北朝鮮の応援団=林敏行撮影

――南北、米朝首脳会談が相次いで開催される見通しです。今の局面では、日本が単独でできることはないように思えます。

そんなことはない。約10年間、北朝鮮との関係は切れたままなので結び直すのは難しいが、朝鮮総連などとの関係を積極的に使えば、2002年に実現した小泉純一郎首相の訪朝のようなことも実現できる。圧力をかけながら対話しても構わないはずだ。


北朝鮮側には、「本当の北朝鮮外交」なんてものはない。あるとすれば自分たちの体制を守ること。北の体制が変わらないことと外交が柔軟化することは全く別の問題。核・ミサイル開発も断念はしなくても何らかの合意はするかもしれない。本来の意味での社会主義、統制経済はもはや存在せず、経済改革を始めるかもしれない。変化の可能性は常に見ておかないといけない。


――安倍首相は、北朝鮮との対話を探るトランプ大統領に対し最大限の圧力継続を促しています。

日本が北朝鮮との対話に乗り出す際に一番問題になるのは、安倍首相自らがこれまで言ってきた経済制裁で北朝鮮をつぶせるという話。日本の世論は、経済制裁で北朝鮮をつぶせる、北は崩壊寸前だと信じてしまっている。しかし、実際は難しい。


もう一つは、他国に対しては言わないのに、北朝鮮に関してだけは、「あんな邪悪な体制を支援するのはけしからん」と言いたがる傾向。例えば、独裁政権であることが問題だ、というなら、サウジアラビアも独裁だし、アフリカや南米にもつきあえない国が出てくる。今の日本の世論はこの二点にがんじがらめになっている。また、拉致問題の目的は、被害者を取り戻すことであるはずなのに、その前提が北朝鮮をつぶすことになっている。


日本がやらないといけないのは、日本だけの経済制裁では、北朝鮮にほとんど影響を与えられないという厳然たる事実を認めること。もっと言えば、日米の2カ国では北をつぶせない。中国が本気にならないとつぶせないわけだが、米国でさえも中国に本気で制裁をやらせる気なんてない。


日本は06、09年に対北朝鮮の輸出入を全面禁止しており、現在では貿易額はゼロ。つまり少なくとも物質面では、これ以上は単独でできる制裁はない。しかし、韓国銀行(中央銀行)によると、16年の北朝鮮の国内総生産(GDP)は前年比3.9%増と推計されている。昨年末に日本海側で北朝鮮からとみられる木造船の漂着が急増した際には、「食糧不足の国内向け」という見方があった。しかし、漂着船の多くはイカ釣り漁船で、この出来事から分かるのは、まだ使える石油があるということと、命がけで採るくらいイカが高い値段で売れるということ。北朝鮮は切羽詰まり飢餓に直面している、という見方はナンセンス。

神戸大学大学院の木村幹教授=宋光祐撮影

――そもそも日本が朝鮮半島に影響力を持っているという感覚は、日本単独なのでしょうか。それとも米国を通じてということでしょうか。

もともとは日本単独だと思う。小泉訪朝で拉致問題が表面化した02年まで、日本は北朝鮮にとって実際に主要な貿易相手国だった。01年には中国に次いで2位の貿易額を占めていた。当時はGDPも日本の方が中国よりずっと大きく、北朝鮮に対して確かに影響力があった。どこかの段階で北朝鮮に対して制裁をするべきだったとは思うが、北朝鮮側からすると、日本との貿易の割合が下がり、ほかの国が貿易の相手国になっただけに終わった。結果的に日本は北朝鮮に対する経済的影響力を失った。


日本は米国と連携して対応しようとしているが、今の北朝鮮問題は日米関係に過度に期待するのも危険だという分かりやすい事例でもある。日本は、米国にとってアジア第一の同盟国という地位が揺るがないと思っているが、経済分野では同じ地位はなくなっているし、軍事でもトランプ大統領が中国に譲歩する可能性はある。韓国はいつ米国が自分たちを見放すか分からないと思っているから、中国に近づいたり北朝鮮と対話したりする。国益があると考えれば自分たちの「古い敵」とも取引する。それが韓国の米国に対する見方。「日米は一体」という固定化した、日本の世界観の限界も理解すべきだ。

平昌五輪の開会式に出席した北朝鮮の金与正氏(中央上)。左は金永南氏。右端下は安倍晋三首相=2018年2月9日夜、平昌五輪スタジアム、白井伸洋撮影

――韓国の文在寅大統領が南北対話に大きく舵を切る一方、韓国世論は北朝鮮をどう見ているのでしょうか。

南と北は完全に別の国という考えになっている。南北分断は短くみても、1948年から続いており、すでに70年が経った。今の高齢者でも大半は北朝鮮に残されている親類なんて見たことがなく、南北統一と言われても、具体的に何かはよく分からない状態。若い人たちの方は、北朝鮮と仲良くやっていくことは望んでいるだろうが、統一は望んでいない。向こうは向こうで平和に生きていけばそれでいい、というのが多数派の感覚だと思う。


平昌五輪の時に話題になった北朝鮮の女性応援団、「美女軍団」が会場にいるところを現地で見たが、メディアが騒いでいるだけで、一般の韓国人はしらけた様子だった。もはや統一というよりはパラレルワールドが38度線の向こう側にあるという感じでしかないのでは。00年に南北首脳会談があり、しばらく交流したものの、何も変わらなかった。やっぱり違う国だよね、という感覚だと思う。


何も変わらなかったという点では、日韓関係も同じ。02年にワールドカップを共催したが、関係が良くなることはなかった。今は米国や中国も自分の国の経済にしか関心がなく、何かを積極的に変える意志はない。もはや外交や国際交流をすれば国際社会はもっと良くなるという夢は消え、世界の国々は孤立主義に向かっている。北朝鮮は元祖孤立主義の国。そういう意味では、金正恩にとって今は生きやすい世界かもしれない。


きむら・かん

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。今年2月の平昌五輪では、フィギュアスケートやカーリング、アイスホッケーを観戦。フィギュア会場で北朝鮮の選手と応援団を見た。



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