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豊かさのニューノーマル

「まだ東京で消耗してるの?」イケダハヤトさんが次に狙うものは

「まだ東京で消耗してるの?」。東京から高知へ2014年に移り住んだブロガーのイケダハヤトさん(31)は、そう挑発した。いまは「いずれは町を買収する」と、さらにテンションを上げている。何が彼を駆り立てているのか。彼の「地元」、高知県本山町でインタビューした。(GLOBE記者 西村宏治)

イケダハヤトさん=西村宏治撮影



――ブログや著書で「まだ東京で消耗してるの?」と主張した当初は、反発も大きかったと思います。あれから3年たち、どう感じていますか。

今でも覚えているのは、当時「都落ち」と言われたんですよね。「その言葉すげーな、いつの感覚だよ」とびっくりしたんです。ぼくはキャリアアップというか、東京の次に地方で新しいことやりたいなと思ったんですけど。


ところが先日、東京に行ったら、渋谷ヒカリエ(※商業施設)で地方創生のイベントをやってるんですよ。ぼくらの知り合いの商品も飾ってあって、渋谷の若者がそれに触れているのを見て、変わったなと思いましたね。


モードの最先端が地方にある、とみんなが気づき始めたのが、この3年の大きな変化。それと並行して、移住があたりまえになってきたんだと思っています。


――ただ、単に「地方」と言ってもひとくくりにはできないんですよね。

それは、その通りです。本山町でも、集落ごとに文化がまったく違いますから。ここは大石集落というんですが、ウェルカム度が高いんですね。だから地方と一口に言っても、いろんなレイヤーがあったり、中の文化も違うので、そこを見誤るときついですよね。


しかも時代も違う。たとえば、この集落はここ10年で劇的に変わっています。おそらく20年前にここに住んでいた人は、いまの暮らしをまったくイメージできないんじゃないかな。だから同じように「地方」を語っていても、話がずれてくることが多いんです。

イケダハヤトさんが住むあたりは、山間の限界集落だ=高知県本山町、西村宏治撮影


――それでもこれだけ東京以外の地方の人気が高まっています。地方は、どうしておもしろいんでしょうか。

それより、東京がつまらないんじゃないですか。おもしろいことがあまりできないというか。


たくさん人がいるので、自分たちがあえてやる必要のあることが、あまりないんですよ。おもしろいことをやろうと思っても、すでに誰かがやってるみたいな無力感もあります。


生活も厳しいですよね。2012年に子どもが産まれて、この生活はムリだなと思いました。当時、多摩センターに住んでましたが、土日に行けるところがない。ベビーカーを押して電車に乗っても、子どもが泣き出すと隣の駅までしか行けない、みたいな。車を持つのはコスト高いし。地方に来て、休日はだいぶ楽しくなりました。それは人生において非常に重要なことです。


――価値観が、キャリアで自己実現を求める方向から、家族を大切にする方向に変わった感じもありますか。

当然、変わってますよね。20代~30代前半にとって、「モーレツサラリーマンなんてかっこわるいよ」というのは共通認識でしょう。会社なんて人生の一部。「9~17時以外の自分を大切にしていこう」なんて、本来はあたり前の話ですからね。


ここ数年の変化だと、DINKS(子どものいない共働き夫婦)はまだいいんですけど、子どもを産むと地方移住を当たり前に考えるようになってきていると思います。子どもが産まれた知り合いからも、移住の相談を受けるようになりましたね。


仕事の面だって東京は厳しいでしょう。ぼくらみたいなブロガーも厳しい。プレイヤーは多いし。たとえば新しい店ができるとみんな行って、みんな同じラーメン食べて、みんなブログで書く、テレビもやる、みたいな。でもそれでは全然おもしろくないですよね。ここだとメディアも入り込んでいないし、やりがいありますよね。


――でもイケダさん自身はブログのテーマを仮想通貨に切り替えて、「まだ仮想通貨持ってないの?」としましたよね。地方の情報、やっぱり必要とされていないのでは?

いや、地方の情報ってまだ欲しがられてるとは思いますが、高知の話でいくと、結構ブロガーが増えたんです。それに、地方移住についてはさすがに語り尽くした、というのもあるし。日常的なことはちょいちょい書いて発信してますけど、もう新しくないですからね。日々楽しく暮らしてますけど、当たり前になっちゃいましたね。


――東京を離れていることについてキャリア的な不安は?

ぼくはどこ行っても食ってける自信はありました。そうなるようにしていましたし、みなさん、そんな感じでやってるんじゃないですか。ポータブルなスキルを持っていると、どこに行っても強いというのはありますから。

棚田の稲がまぶしく輝く

――じゃあ、イケダさんみたいな人はいいけど、そうじゃない人は地方に行けない。

いま地方は面白い求人も増えてきているので、感度の高い人は取りにきていると思いますよ。ぼくの周辺だと、地域おこしや教育、林業とか。あとはぼくらみたいなデジタル系のノマドワーカー的な人たちですね。


ただ、仕事の話は難しいところがあって、じゃあポンと雇ってくれる正社員雇用があるかというと、そうじゃないです。小さい仕事をつなげて、自分たちの仕事もやって、自分の道をつくっていく必要があります。役場の仕事もやりつつ、小商いもやって、それからブログも書いて稼ぐとか。林業と、ほかの仕事とか、自分で積極的に仕事を「寄せ集めてくる」スキルは必要です。


――これまでも書いてますよね。「待ってるだけ」の人は地方で暮らすのは難しいと。

そうですね。


――そして、じゃあ待ってるだけの人は、東京でなら生きていけるのかという疑問になる。

それが難しいんじゃないですか、っていうことですよ。東京と地方とどっちが楽か、ということでもないでしょう。


東京だって、これから厳しくなりますよ。グローバリゼーションでどんどん外国の人も入ってくるだろうし、競争も厳しくなるでしょうし。どっちにしても仕事は自分でつくっていかないといけない、というのははっきりしているんじゃないですか。


――イケダさんの場合、会社員時代にリストラを目の当たりにされているわけですが、東京で大企業に入ってっていう道は……。

ぼくは反・終身雇用のほうに偏ってるかもしれませんけど、ブログへの反応とか見てても、さすがにもう誰も終身雇用なんて考えていないんじゃないですか。今どき「大企業入って定年退職めざします」とか大丈夫ですか?って思いますし、その感覚は、相当共有されてきたと思いますよ。とくに20代~30代前半。転職は当然で、自分の居場所は自分でつくらなくちゃいけない意識は強いと思います。

イケダハヤトさん=西村宏治撮影

――それでも東京で働いているひとたちが、経済を支えている部分はあると思うんですが。

どれぐらいのひとが、本当に価値を生んでいるのか、ですよね。満員電車で通勤していて生産性は高いのか、疑問を抱くことがありますけどね。


――逆に地方では、価値を生んでいる感覚は得やすい。

労働して世の中に貢献するのを実感する意味では、地方の方が価値をつくりやすいということは、あると思います。労働どころか、子どもがいるだけでも喜んでくれる人がいる。そういう事業や仕事が、金銭的価値にすぐになるかどうかは別ですけど、やりがいを得やすいとは思いますね。


たとえばぼくはここで、科学館をつくりたいと思っています。雨の日に遊ぶところがないので。それは、ここの人たちには大きな価値を生むでしょう。あとはたとえば、小さい手仕事の商品をマーケットで売るみたいなことがありますよね。一つひとつの利益は小さいですが、そういう活動は、住んでいる人には意味があります。


大企業をつくって100人雇用するのもいいけど、一人ひとりがサステイナブルなビジネスを構築していく。なんらかの価値をつむぎだしてマーケットに出す、ということを増やしていくべきなんでしょうね。そうしないと、地域がおもしろくなくなっていく気がします。


ただ、将来的に言うと、自分たちの事業や仕事に価値を見いだしてくれるネットワークを持っていると、事業が金銭化しやすくなるんじゃないかと思います。評価経済という言葉もありますよね。


――価値観の共有という意味では、すでにクラウドファンディングで同じ価値観の人から幅広くお金を集めやすくなっていますよね。

それに加えていま、仮想通貨でできることがどんどん広がっています。だから同じ価値観のネットワークをつくって、それを回すためにICO(仮想通貨による資金調達)をしてビジネスにしていくとか。そういう意味では、日本円にはならないかもしれないけど、金銭化しやすくなるイメージなんでしょうね。


その文脈で言うと、これも批判がくると思いますがあえて刺激的な言い方をすると、ぼくも「町を買収する」ぐらいのことを考えたいですね。地方の衰退は続いていて、町という自治体のパワーは相対的に落ちてくると思います。いま、このあたりでも政治家になりたい人なんていませんよ。近くの大川村では、もう直接民主主義になってしまいました。


世界的にも、個人や企業の方が、国よりも影響力が大きいということはすでに起きています。

棚田が広がる美しい光景

――確かに、アップルやグーグルは巨大な村というか、国のようです。

大企業がそういうことをやる未来は、目の前に見えてきました。さらに、これはまだSFみたいな話ですが、ビットコイン界隈の人たちはいま、国の統治権を買収して、フリーソサエティ(自由な社会)、つまり完全なリバタリアンの国をつくろうとしています。


同じようなことで、地方の衰退を考えると、たとえば20年後には、個人とか企業が上位に立つ自治体が出てくるのではないかとみています。そこで、ぼくも町を持って、でも町長になるとかいうことではなく、企業みたいなニュアンスで町をつくっていくとか、再分配の仕組みやルールをつくっていくということを考えられたらエキサイティングですよね。地方からよりよい社会づくりを考えるということです。


――そのとき民主主義はどうなっていくイメージですか。

どうなっていくんでしょうか。いずれにしても、政治の仕組みも新しくなっていくんじゃないか。そうなると、国がやっていたことをぼくらがやっていかなくちゃいけない。逆にそういうふうに回さないと、地域がもたなくなるという危機感が出てくるんじゃないでしょうか。


――そして仮想通貨の世界が広がることで、できることも広がる。

仮想通貨が大きいのは、再分配のルールをつくれるんです。お金の流れまでデザインできるんですよ。たとえばぼくがデザインしてみたいと思っているコインは、保有者が死んだら、ほかのコインの所有者に配分されるようなコインです。つまり相続税100%と同じようなコインです。もちろん制度上の問題はいろいろありますけど、技術的にはすでにそういうデザインが可能になっている。


つまり個人や企業ができる範囲が広がっているんです。コインを発行できて、ルールをつくれて、再分配のしくみもつくれる。特に再分配の仕組みは、思想そのものです。年齢ごとに分配の比率を変えてもいいし、たくさん使うところにたくさんお金を流してもいいし、あんまり使わないところにお金を流してもいい。


いま、世界ではコミュニティーベースで「保険」を自分たちでデザインしようという動きが出てきました。自分たちだけの私的保険ですね。お金をプールしておいて、メンバーの誰かになにかあったら、使う。そうでなければ、ある程度たまったら分配する、みたいな。これも法律はさておき、技術的には可能です。


――デジタル版の「無尽」ですね。

そうですね。すると、社会保険みたいなこともできます。つまり同じ価値観の人たちが集まることで、そこにコミュニティーができて、その上に仮想通貨が乗っていく。


もちろん、法定通貨はこれから先も重要でしょう。仮想通貨の影響力は限定的かもしれません。それでも、広がっていくことは間違いないと思います。


――つまり、所属するコミュニティーを個々が選ぶ時代になる。これまではそれが国や地域、学校、企業だったわけですが、これからはネットや仮想通貨を通じて、もう少し違う形のコミュニティーになるということですか。

メタップスの佐藤航陽さん(※若手起業家)は「経済を選べる時代になる」という言い方をしていますが、そういう風になってくる、とぼくもみています。自分が属する経済的なコミュニティーを自分で選ぶわけです。


そのときに、ぼくが住んでいるこのコミュニティーできちんとお金が回る、そういう経済ができあがっていればいい。そのためには資金も仲間も必要ですから、いまからもっともっと集めておかなくてはいけないですよね。やることがたくさんあります。ワクワクしますね。




イケダハヤト

ブロガー。1986年生まれ、横浜市出身。大手メーカー勤務などを経て、ブロガーとして独立。2014年に高知県に移住。著書に『まだ東京で消耗してるの? 環境を変えるだけで人生はうまくいく』(2016年、幻冬舎新書)。

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