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壁がつくる世界

自動小銃の「武装自警団」 密入国者を排除

「壁の世界」の住人たち①

武装集団と無人偵察機、人道支援と避難所、そして年間300を超す遺体……。戦地の話ではなく、壁が米国とメキシコの国境につくった世界の一端です。そんな「壁の世界」の住人たちの姿をお伝えします。まずは「武装自警団」から。(GLOBE記者 村山祐介)


「Abema x GLOBE」壁特集より



木陰に止めた四輪駆動車から、全身を迷彩服で包んだ男性2人が姿を見せた。手に自動小銃、腰には拳銃、胸には防弾チョッキ。「静かにしろ」。声をかけた私を人さし指で制したジョンと名乗る男性(56)は「高台から監視して、密入国を阻止する。夜通しの任務になるだろう」と小声で答え、サボテンだらけの山を登り始めた。




彼らは兵士でも警官でもない。米南部アリゾナ州アリバカにある「アリゾナ・ボーダー・レコン」というボランティア団体のメンバーだ。山頂から密入国ルートを見張り、見つけたら行く手を阻んで国境警備隊に引き渡したり、通報したりする。代表ティム・フォーリー(58)によると、メンバーは200人以上で、9割が軍や警察の出身者。2010年の創設以来、100人以上を引き渡したという。


フォーリー(左)と「ジョン」


フォーリーらの拠点は国境の壁から約20キロ離れた牧場にあるキャンピングカーだ。自宅を兼ねた車内にはパソコンや十数台の無線機、監視カメラがあった。フォーリーが私費20万ドル(約2300万円)投じた。




監視カメラの録画映像を見ると、迷彩服を着て、大きな麻袋を背負った男数人が隊列を組んで足早に歩く様子が映っていた。「プロの麻薬の運び屋だ。麻袋は合計で180キロくらい。マリフアナだったら末端価格で3万2000ドル(約360万円)にはなるだろう」




この地域は隣接する国境警備隊の管区の境目にあたるため、監視が手薄で、200以上の密輸ルートがあるという。「無線機を手にした男が話しているのは、山上の見張り役だ。100メートル先に道路があるから、警備隊の車両がないか確認しているんだろう。2時間半で5つの集団が通ったこともある。警備隊が動かないから、俺たちが退治を始めたんだ」



こうした「武装自警団」の活動は00年代、9・11同時テロ後の国防意識の高まりとともに盛り上がり、反移民運動の象徴的存在として注目された、ただその後、関係者による殺人などの不祥事が相次いで急速にしぼんだ。フォーリーは「我々は参加希望者を身辺調査したうえで、交戦規則にも署名してもらう。発砲したことは一度もない」と規律の違いを強調する。




しかし、いくら武器所持が認められた米国とはいえ、武装した民間人が独自に取り締まることに問題はないのか。そう問うと、フォーリーは余裕の口ぶりで答えた。

「犯罪者であっても、意に反して別の場所に連れて行ったら誘拐罪になりかねない。だから人道支援を『お手本』にさせてもらった。制止した後で、水とお菓子を渡す。警備隊が到着するまでの間、『人命を保護してあげる』というわけだ」



密入国阻止に私財まで投じるフォーリーだが、「トランプの壁」については冷ややかな視線を送る。

「無駄にはならないが、誰も監視しなければ、密入国者ははしごをもってくるだけ。壁はもっと政治的なものだろう」


(敬称略)


「プロの運び屋」の実態はこちらの記事で。

国境警備隊とマフィアの「攻防戦」はこちらの記事で。

GLOBE10月号と「Abema x GLOBE」の壁特集の全編はこちらから

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