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壁がつくる世界

私が壁を越えたワケ

移民たちの証言①

322体。米国とメキシコの国境で昨年度に見つかった遺体の数だ。国境警備隊にマフィア、猛毒のガラガラヘビやピューマが待つ砂漠や川に、なぜ身を投じるのか。移民たちが、壁を越えた理由を明かした。(GLOBE記者 村山祐介)




●コンビニ店員 オマール・カストロ(31)@メキシコ・ノガレス

「Abema x GLOBE」壁特集より



1カ月前、3人でノガレス郊外のササベで車止めの柵を越えました。強制送還されるまで5年間働いていた米ノースカロライナに戻るためです。


日中は物陰で休んで、日没後の午後7時から2時間おきに休憩して、午前4時まで。そしてまた隠れる。そうやって砂漠を4日間、歩き続けました。


ツーソンの南に待機する車に乗って、いったん隠れ家で他のグループと合流してから、フロリダ経由でノースカロライナに向かう手はずでした。ガイドには手付金として2500ドル(約28万円)を払っていました。さらに、到着したら成功報酬で3000ドルを払う約束でした。でも、車に着く前に見つかって、強制送還されてしまったんです。


その翌週、今度はティフアナで試みました。高さ6メートルのフェンスを、二つのはしごを組み合わせて上りました。下りるときは、ゴムの靴底を柵に挟んで落ちないようにするんです。


でも、3時間後にまた捕まりました。強制送還されるとき、「累犯だから、3カ月以内にまた捕まったら刑務所行きだぞ」と脅されました。


でもやっぱり、米国の方がいいんです。


ノースカロライナでは、コンビニに住み込みで働いていました。週400ドルももらえて、部屋も食事もありました。奥さんは本当の母親みたいにしてくれて、居心地もとてもよかった。


メキシコだと、午前7時から午後7時まで働いても週35ドルにしかなりません。近所の人はマフィアのみかじめ料を拒んで殺されました。危険すぎて住める場所じゃありません。


3カ月、この町で働いた後で、もう一回米国に向かいます。壁ができても、越えるなり、くぐるなり、方法を考えるだけです。


●農場作業員 セルジオ・カターニョ(55)@メキシコ・ティフアナ



何度も壁を越えてみました。最初はビーチでした。午後10時ごろ、海に霧の塊みたいのが降りてきたので、いまだと思って、浜辺の柵を飛び越えました。歩き始めた途端に逮捕されてしまいましたが。


山を越えたこともあります。郊外にフェンスがないところがあるんです。午後7時ごろに国境を越えて、6時間ほど隠れながら歩きましたが、やっぱり捕まってしまいました。


12年前に米国に入ったときはもっと簡単でした。低いフェンスだけでしたし、鉄条網も鶏用の針金くらい。歩いて通れる場所もありました。私は夜に国境を越えましたが、日中に行く人もいましたし、隠れることすらしませんでした。今はフェンスだけじゃなくて、警備隊員の数も多い。厳しいです。


メキシコでは中西部に小さな土地を持っていて、トウモロコシや豆をつくり、家畜を育てて暮らしてきました。米国に行ってからは、ロサンゼルスのサンタモニカの農園で馬の世話をしました。3~4倍、いやもっと収入の差があるので、米国に比べたらメキシコでの生活は価値がないと思ってしまうんです。


米国で2年働いて、いったん家族の元に戻ってしばらく畑仕事をしていましたが、いまはお金が欲しい。米国で働きたいんです。カリフォルニア州は不法入国の刑罰が軽いから、逮捕されてもどうってことありません。翌日には強制送還されます。


ビーチは山や砂漠ほど危険じゃないし、5~6回目でうまくいった人も多い。私もうまくいくまでここでやるつもりです。


●農場作業員 セルビン・バスケス(30)@メキシコ・ノガレス



米フェニックスに住む地元の友人から、「プール建設の仕事があるから来なよ」と電話をもらったのがきっかけでした。別の友人と2人で(国境そばのメキシコ北部の町)アルタルから砂漠を歩き始めて、国境の壁を初めて越えました。5日間歩き続けた後に逮捕されました。


怖かったです。強い日差しの下でのどが渇いて、水が尽きてからも2日間、歩き続けたんです。道も分からず、どこにいるのかも分からなくなりました。たくさんの遺体を見ました。一組の男女が死んでいるのも見つけました。


国境警備隊の姿をみつけて出頭しました。あのままなら、自分たちも死んでいたかもしれません。


1カ月、拘置所にいて強制送還されました。でも、返してもらった私のバックには携帯電話と身分証がありませんでした。家族の連絡先はすべて携帯の中で、覚えていません。だからお金を送ってくれるよう連絡もできないのです。


役所は故郷のチアパスまでのバスチケットをくれるのですが、5日間もかかります。道中の食事にお金が必要です。もう、どうしていいのかわかりません。


(敬称略)


GLOBE10月号と「Abema x GLOBE」の壁特集の全編はこちらから

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