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壁がつくる世界

学校は壁の向こうに~800人が越境通学

メキシコから米国へ

国境の壁の脇から子供たちが続々と姿を見せた。その数、約800人。メキシコと接する米南部コロンブスの毎朝の風景だ。米国でも異例の大規模越境通学には、壁とともに暮らす現実があった。(GLOBE記者 村山祐介)


「Abema x GLOBE」壁特集より



「早く、急いで!」



係員が声を張り上げると、米国の入国管理施設から水筒を手にした男の子たちがダッシュしてきた。最終便が出る時刻だ。子供たちはいったん整列して、順に黄色いスクールバスに乗り込んだ。




全員がメキシコ側プエルト・パロマスに住みながらも米国籍を持っており、パスポートや出生証明証を手に毎朝、国境を越える。児童は近くの小学校に、中高生は約60キロ離れた公立校にバスで通う。



国境の壁沿いには見送る親たちの姿があった。親はメキシコ国籍のため、米国側に入るのは容易ではない。子供が通う学校を訪ねたことがない人がほとんどという。




どうしてこういう状況がうまれたのか。



コロンブスのあるニューメキシコ州は、医療インフラが整っていないメキシコ側の妊婦を出産時、州内の病院に受け入れてきた。そして、米国では親の国籍にかかわらず、米国で生まれた子には米国籍が与えられる。つまり、出産時は比較的簡単に米国に入国でき、生まれた子は米国籍が得られるというわけだ。



プエルト・パロマスの薬局店員ユデリア・フロレス(40)もその一人。十数年前、産気づいても医師が見つからず、米国の税関に駆け込み、救急車で搬送された米国の病院で出産した。米国籍を得た高1と幼稚園の息子2人を越境通学させている。「親戚も友人もほとんどが子供を米国に通わせている」という。


薬局店員ユデリア・フロレス


また、米国から強制送還されたメキシコ人の家庭の子供も多い。



ニューメキシコ州の憲法は、ヒスパニック系児童が「公立校入学を決して拒まれてはならない」とうたい、「完全な平等を永久に享受」できるよう明記している。スクールバスの無料送迎で米国の教育を受けられることがソーシャル・メディアで広がり、強制送還された家族連れがプエルト・パロマスに集まるようになった。コロンブス小学校の校長アルマンド・チャベス(40)は「突然のメキシコ生活になじめず、カルチャーショックを受ける子の安全な避難所になっている」と話す。



人口約1600人の田舎町で、唯一の小学校の児童約620人の6割超が「越境組」。入学時はほとんどがスペイン語しか話せない--。いったい、どうやって授業を進めているのだろう。



小学1年のクラスをのぞくと、床に座った児童19人を前に、先生が「boy」と書かれた紙を見せていた。

「Is that a boy?」

先生が前列の女児を指さすと、「No!」と元気な声が上がった。「Who is she?」と問うと、「A girl!」の答えとともに笑いが起きた。


「two」と書かれた紙をみせると、子供たちはピースサインをした


この週の授業はすべて英語で行い、スペイン語は使わない。翌週は、スペイン語だけで授業を行う。週替わりで2言語を使い分け、語彙を両方の言語で教えることで「橋渡し」するのだという。チャベスは「まず母国語で学習内容を理解してもらったうえで、第2言語につなげるようにしています。先生はとても、とても、とても大変なのですが」と説明する。


校長のアルマンド・チャベス


公立なので、授業料やスクールバスなどは無料だ。米国籍とはいえ、米国に納税していないメキシコの親元から通う児童の教育費を、公費で負担することには批判の声もある。



だが、チャベスは「これは将来への投資」と反論する。「大半はいずれ米国に移住します。教育しなければ、その後の人生はどうなりますか。教育を受ければ、お金を稼ぐことが出来る。それが税金となって国にも戻ってくるんです」


(敬称略)


GLOBE10月号と「Abema x GLOBE」の壁特集の全編はこちらから




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