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壁がつくる世界

欧州の難民危機で、もうけているのは誰か

EUの背後に防衛産業?

欧州の難民危機で、誰か得をしたのだろうか。あえて言えば、外国人排斥を掲げる政治家らと並んで、防衛産業が挙げられるだろう。不法入国に対し、欧州連合(EU)が国境警備を強化している背景には、防衛産業の意向も影響していると指摘する研究者らもいる。 (GLOBE記者 浅倉拓也)

ポーランド国内で9月に開かれた防衛産業の展示会では、生体認証装置を使った国境管理システムが展示されていた

・武器輸出は、難民の大半を生んでいる中東や北アフリカへ、とりわけ拡大している。2011年から15年の  中東への武器輸出は、前の5年間から61%増加した

・加盟国の国境警備に対するEUの出資は、04年から20年の主要なものだけで4・5億ユーロに上る

・EUは新しい加盟国に、国境警備の強化を条件として求め、それが新たな市場を生んでいる


オランダのNGO「ストップ・ワープンハンドル(止めよう武器輸出)」のマーク・アカマンは、昨年夏に「Border War」と題したリポートを発表し、こうした事実を詳細に報告した。リポートの副題は、「欧州の難民悲劇から利益を得る武器商人たち」。広く使われている難民危機(Refugee Crisis)ではなく、難民悲劇(Refugee Tragedy)という言葉を、アカマンはあえて使っている。

「この問題は本来、難民の悲劇と言うべきです。それが、(欧州にとっての)危機とされ、人道問題というより、むしろ安全保障問題としてとらえられていることにも、防衛産業の影響があるのでしょう」。アカマンはこう話した。

オランダ・アムステルダムで取材に応じるマーク・アカマン

難民危機でEU加盟各国は、難民の受け入れをめぐっては対応が割れたが、不法入国対策を強化することでは一致した。EUの国境警備機関である「FRONTEX」の機能や権限を強化し、欧州の玄関口となる国の国境警備を支援するだけでなく、難民の出身地や中継地となっている北アフリカやトルコと協力し、欧州への密航ルートを絶とうとしている。

アカマンによると、こうしたEUの対応の結果、国境警備のためのハイテク監視機器やシステム、ヘリコプターや警備艇といった防衛関連製品の、新たな市場が生まれている。

防衛産業の展示会では、国境監視にも使われる無人航空機などが注目を集めている

「防衛産業はここから利益を得るだけでなく、こうしたEUの政策立案そのものにも影響を与えているのです」。アカマンは、こう指摘する。EU機関が集中するベルギーのブリュッセルには、欧州の防衛関連企業でつくる業界団体がオフィスを構え、大手各社もロビイストを置いており、様々な機会をとらえEU官僚と会合を重ねている。リポートでは、公表されている資料を分析し、防衛産業とEUがどのような接点を持っているかや、防衛産業各社がロビー活動にどれだけ費やしているかを明らかにした。

「もちろん、業界がEUの政策にどう影響を与えたか、はっきり目にみえるかたちで示すことは難しいですが、業界団体の提言が結果的にEUの政策になっている例もあります」とアカマンは言う。例えば、難民危機の後、FRONTEXは、従来の「欧州対外国境管理協力機関」から「欧州国境沿岸警備機関」というかたちに変わったが、これは業界団体が「EUレベルの国境警備機関を」とかねて提案していたのが、実現したかっこうだという。


こうした指摘をしているのは、決してアカマンだけではない。ブリュッセルを拠点とするニュースサイト「EUオブザーバー」の記者で、難民危機の前からEUの国境政策と防衛産業の関係について調査報道をしてきたニコラ・ニールセンにも聞いた。

ニールセンは、EUの政策や法案を議論する各種委員会に、防衛産業大手のトップらが名を連ねていることに着目。こうした委員会での議論が、EUの政策の土台になっているとみている。「もちろん企業が政策に対して意見を言うのは構わない。だけど問題は、彼らは直接的な利害がからんでいるということです。それに、学識経験者や人権団体などの代表も、議論に加わるべきです」と言う。

EUオブザーバー記者のニコラ・ニールセン

「欧州にとって防衛産業は、経済成長や雇用の面でとても重要な存在です。EUや加盟国は欧州の防衛産業を世界的なプレーヤーに育てたい。難民危機が(安全保障上の問題として)過大視され、最大級の政治問題になった背景には、こうした事情も関係していると思います」と、ニールセンは言う。「数十万の難民が来たからといって、人口5億のヨーロッパ大陸を破壊することはありません」     (敬称略)


「Abema X GLOBE」特集から



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