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国境を越える電力

デンマークの「風力立国」への道

市民が吹かせた風 「ポスト京都」主催で花開く



緩やかな弧を描いて並ぶ風力タービンの向こうに、かすみかかった街並みがぼんやり浮かぶ。首都コペンハーゲン沖約3キロにあるミドルグルンデン洋上風力発電所は、デンマークの「風力立国」の歩みを象徴するランドマークになってきた。


20基の出力は計4万キロワットで、2001年の稼働当時は世界最大だった。「大規模洋上風力発電所というコンセプトを実証した特別な場所だ」。エンジン音が響く甲板で、洋上風力の世界最大手ドンエナジーの風力部門のマネジャー、ライフ・ウィンター(46)は語った。

ミドルグルンデン洋上風力発電所=村山祐介撮影

いまでは風力が国内電力需要の4割超を担うデンマーク。その歩みは1970年代の石油危機にさかのぼる。


エネルギーの9割を輸入原油に頼っていたため苦境に陥り、エネルギーの自立を果たす切り札として原発建設が浮上した。だが、放射性廃棄物処分の道筋が見えないことなどから反対運動が広がり、議会は85年、中止を決めた。北海で本格化した原油や天然ガスの開発とともに、土地が平らで風がよく吹く「地の利」を生かせる風力発電に活路を求めた。91年、世界で初めての洋上風力発電所ビンデビー(約5千キロワット)が稼働した。


だが、発電量が少ないうえ、風が吹かなければ止まってしまう。ビジネスとしての採算性が疑問視されていたそんな黎明期に、強い「追い風」を送ったのは一般の市民だった。


酪農業の資金調達で慣れ親しんだ「協同組合方式」で広く出資金を集め、当初は地元住民らによる所有が風力タービンの9割近くを占めた。住民が事業に参画することで、景観や騒音が問題となりがちな用地選びもスムーズに進んだ。


その手法を大規模な洋上風力発電所に持ち込んだミドルグルンデンは、環境意識の高まりに加え、売電収益で配当が得られて税制優遇も受けられるという実益も相まって人気となり、8千人以上の出資が集まった。組合とドンエナジーの前身企業が10基ずつ所有し、タービン製造や据え付け工事、送電網まですべて地元企業が手掛けることで、技術やノウハウの土台をつくった。


風を受け止める羽根の大きさが、技術の進歩を物語る。

ドンエナジーのオフィスには歴代の風力タービンを示すパネルがあった=村山祐介撮影

91年のビンデビー(写真一番左)は直径35メートルだったが、2001年のミドルグルンデン(左から2番目)は倍以上の76メートル。13年のアンホルト(右から3番目)は120メートルで、1基当たりの出力はビンデビーの8倍になった。すべて手掛けたドンエナジーは、洋上風力の発電容量で世界の26%を握る最大手に育った。


その決断が昨年末、ニュースになった。

社名のドン(Danish Oil and Natural Gas=DONG)に象徴される事業の大黒柱、北海の石油と天然ガスの開発事業を売却するというのだ。いったいどういうことなのだろう。


コペンハーゲン郊外の同社風力部門のオフィスを訪ねた。

「『あの時』、グリーンへの転換がますます重要になるのは明らかだったが、多くの人がそれを本当に理解したのは3~4年後だった。その間に先手を打てたことが我々の大きな優位性になった」

陽光が差し込む北欧らしいガラス張りのビルの個室で、上級副社長兼最高戦略責任者マーティン・ノイベルト(43)は振り返った。

ドンエナジーの上級副社長兼最高戦略責任者マーティン・ノイベルト=村山祐介撮影

「あの時」とは、地球温暖化対策のポスト京都議定書を話し合った国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が地元コペンハーゲンで開かれた09年のことだ。


欧州で地球温暖化対策への意識が一気に高まった。ドンエナジーがドイツで進めていた大規模石炭火力発電所計画への地元の反対がどんどん強くなり、COP期間中に計画の撤回を余儀なくされた。一方、英政府は洋上風力発電所への政策支援を打ち出した。「欧州で再生可能エネルギーへの転換が大きな、大きな原動力になると分かった」。国内で培ってきた洋上風力に狙いを定め、経営資源を集中させた。


当時60人ほどだった洋上風力事業を独立した部門にし、火力発電などから技術者を集めた。陣容はいま2千人を超し、投資の8割を注ぎ込む。タービンや据え付け、ケーブルの企業と包括提携し、複数の大型案件をこなせるサプライチェーンを確立した。欧州だけでなく、米国や台湾にも進出。日本も視野に入れる。


一方、石油ガス事業は、14年夏まで1バレル=100ドル水準だった原油価格が50ドル前後で推移する「新しい現実」に直面した。国際的なメジャーがひしめくなか、この分野では小粒なドンエナジーが主導権を発揮する余地はない。ノイベルトは「資本や経営資源を分散させるより、グリーンでクリーンな洋上風力に集中する方が理にかなう」と語る。


石油ガス事業は年内に売却する方向で、今年2月には23年までに発電に石炭を一切使わないことも発表した。石油に天然ガス、そして石炭。次々に「脱化石燃料」を進めるドンエナジーだが、「デンマーク石油天然ガス」の頭文字でできた社名をどうするかは、まだ決まっていない。(村山祐介)



デンマークの「風力立国」への道

(撮影:村山祐介)


<ドンエナジー> デンマークのエネルギー企業6社が合併して06年に発足した。洋上風力と石油ガス開発、国内火力発電・熱供給が主な事業で、15年の収入は約1兆1600億円。従業員約6700人。政府が50.1%の株式を持つ。

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