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国境を越える電力

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リトアニア、覚悟の電力システム脱出作戦

ロシアの飛び地が火種に




リトグリッドの中央給電指令所。下の青い線で示されたポーランドとの国際連系線で「脱ロシア」の道が開けた=村山祐介撮影


ロシアからエネルギーの自立を勝ち取ったリトアニアは、「エネルギー独立戦争」の仕上げとして、ロシアが管理する電力システムからの「脱出」に突き進んでいる。


首都ビリニュスにある国営送電会社リトグリッド本社。中央給電指令所の壁一面に示された送電図には、送電線で結ばれたロシアとベラルーシの国旗がいくつも描かれていた。広報部長ビリヤ・ライライテ(46)は怒気を込めた。「チェルノブイリ原発事故(1986年)のときも、巨大な水力発電所で大事故(2009年)があったときも2週間、何の情報もくれない。我々は情報を隠すような相手に依存しているんです」


15年に完成した2本の連系線で欧州からの電力調達に道が開け、電力のロシア依存度は2割まで下がった。だが技術的にはいまなお、ロシアの「手中」にある。旧ソ連が築いた「IPS/UPS」と呼ばれるロシアが管理する電力システムに属しているためだ。

リトグリッド社長ダイビス・ビルビッカス=村山祐介撮影

域内では周波数がそろった状態に保たれており、モスクワで中央管理されている。強い相互依存関係にあるため、どこかで停電が起きれば連鎖しかねない「運命共同体」だ。だがリトアニアは運営では蚊帳の外におかれ、送電網整備の計画すら知らされていないという。リトグリッド社長ダイビス・ビルビッカス(39)は「モスクワで何かあれば瞬時に影響を受けてしまう。法律や経済、規制だけでなく、電力システムも欧州との一体化を目指す」と語る。計画の資料では、バルト3国とロシアなどとの国境に「送電線切断」を意味する5カ所の赤いハサミが示されていた。

計画の資料では、バルト3国の周辺に「送電線切断」を意味する5カ所の赤いハサミが示されていた。左下がカリーニングラード



手は打ってきた。バルト3国の首脳が足並みをそろえて2007年、欧州大陸の電力システムへの早期編入を目指す方針を確認。14年には欧州委員会の戦略的な支援事業に位置づけられた。変電所の建設などの事業費は4億3500万ユーロ(約520億円)から10億7100万ユーロ(約1270億円)を見込み、25年をめどに実現させたい考えだ。


「脱出」に成功した先例もある。1995年にポーランドとチェコ、スロバキア、ハンガリーの東欧4カ国、そして2004年にもルーマニアとブルガリアが、ロシアから欧州大陸の電力システムに移り、電力システムの欧州地図はオセロゲームのように塗り替わった。13年の事業化調査では、バルト3国の移行も「技術的には可能。法的、規制上も大きな障害はない」と結論付けられた。


だが、ことはそう簡単ではない。


移行には欧州とロシアの交渉が必要だが、旧ソ連崩壊後の混乱でロシアが弱体化していた時代と状況が異なるうえ、リトアニアとポーランドの間には、ロシアが海軍の重要拠点を置く飛び地カリーニングラードがある。リトアニアが欧州大陸側に入れば、カリーニングラードはロシアの電力システムから切り離されて孤立してしまう。ロシア側にも多額の設備投資が必要になるとみられている。ロシア海軍は15年、カリーニングラードで実弾を使った軍事演習を繰り返し、連系線の工事船に何度も退去を要求して強く牽制した。


地域情勢もきな臭さを増している。

クリミア併合でロシアと欧米の緊張が高まる中、北大西洋条約機構(NATO)は昨年7月、バルト3国とポーランドに最大4千人規模の増派を決定。ロシアは10月、カリーニングラードに核弾頭搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンダル」を配備した。


それでも、リトアニアは引く気配を見せない。エネルギー相ジギマンタス・バイチュナス(35)は「ロシアへの最後の依存も断ち切りたい」と語る。バルト3国の送電会社は今年1月、3国の電力システムをロシアから完全に切り離す試験運用の準備を始めたと発表。来年には「脱出テスト」に踏み切る方針だ。

(村山祐介)


<リトグリッド> リトアニア政府が97・5%出資する国営送電会社。15年の収入は約1億ユーロ(約120億円)。従業員は230人。


リトアニア、覚悟の電力システム脱出作戦

(撮影:村山祐介)


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