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日本は世界で最もクリエイティブ

People 更新日: 公開日:
photo:Takahashi Yukari

「デザイナーは語る」の7回目は、デザイン思考を普及するのに大きな役割を果たしたデザイン会社IDEOの共同経営者トム・ケリーさん。日本人よもっと自信を持て、との力強いメッセージです。

――日本を世界で最もクリエーティブな(創造性のある)国だと評価されています

私がそう考えているのではなく、世界がそう信じています。2012年に米IT企業が米、英、独、仏、日の計5000人に行った調査では日本以外の国の回答者は日本が一番創造力に富んだ国だと答えました。ところが、そう答えた人の割合は日本人が一番低かったんです。日本人は1位に米国をあげていました。アップルのスティーブ・ジョブズは誰もが知っていますが、共同創業者でエンジニアのスティーブ・ウォズニアックの力は計り知れないほど大きかった。日本には、そのウォズニアックたちがいる。日本人には、創造性に対する自信が必要です。

――IDEOの東京オフィスは昨年末、日本のベンチャーキャピタルと合同でD4VDesign for Ventures)を立ち上げました。デザイン思考を活用したベンチャー支援を行うんですね。

デザイン思考は、Humancentered approach(人間中心のアプローチ)です。人の潜在的ニーズを探るなかで気づいたことに基づき、作り手自身の意志として新たなモノを生み出していくのです。ビジネススクールでは分析的思考の方法を教えてくれますが、競争相手はみな身につけていて差がつかない。デザイン思考が出てきてからは、頭一つ抜けるために、習得しようと興味を持つ人が増えてきました。私はIDEOに加わる前、会計やコンサルタントの仕事をしていました。クリエーティブなことは全くしていなかったのですが、デザイン思考にさらされて、理解し、練習した。デザイナーだけができる考え方ではなくて、練習や支援は必要ですが、誰もが扱えるツールなのです。

IDEOやD4Vのミッションは変化を促す触媒になることです。日本では多くの人が大企業に勤めることを考えます。なぜなら戦後70年間、大企業が強い経済を作ってきたから。でも将来的には、起業家たちの時代になると思っています。

イノベーションの発展には、Sカーブと呼ばれるものがあります。途中、進歩は遅いように見えますが、突然速くなります。いま日本の起業家たちは変曲点にいます。だからD4Vが出来たタイミングはとてもいい。今年、私は数百もの起業家たちに会うことになります。その中からいくつかの創造力に富む会社、リーダーシップのあるチームに投資する。彼らを助けることで、突然多くの起業家たちが成功し始めるでしょう。シリコンバレーで多くの変曲点を見てきました。日本でも可能だと思っています。

――30年前と比べ、エレクトロニクスにおける日本の存在感は小さくなったように感じます。

20世紀、日本はエレクトロニクスで世界一でした。でも過去は過去です。どうしたらソニーが再びすばらしい会社の1つになれるか。それはウォークマンを作ることではない。今やSNSVR(バーチャルリアリティー)、AI(人工知能)がある。巨大な機会です。それらを使って、ふいに成功する会社が現れる。それがソニーである必要はなく、ベンチャー企業の1つかもしれない。私はとても楽観的です。日本人は世界で一番よく働く人たちです。カフェの店員であれタクシー運転手であれ、そのサービスはいつもすばらしい。驚くべき辛抱強さと配慮、それこそが創造力だと思うんです。デザイン思考が日本の驚異的な技術力と結びつけば、日本は世界一になる道を見つけることができると思います。

――IDEOはデザイン思考で、社会課題の解決にも取り組んでいます。

まだ商品のデザインもやっており、最近では、アップルウォッチのカメラを作りました。一方、ペルーの教育システムを作るなど、複雑な社会課題解決にも取り組んでいます。世の中の課題は、1つの領域の英知だけでは解決できない。インタラクションデザイナーはビジネスデザイナー、人類学者などの研究者と協力する。多領域のスタッフがいるチームで取り組むこと、これが巨大な課題を突破するために必要です。

IDEOのサンフランシスコオフィスに並んだ、スイス製の台所用品。IDEOが開発に携わったアイスクリーム・スクープは、盛りつけた後にこびりついたアイスをなめやすい形になっている。 photo:Takahashi Yukari

――IDEOは高齢者向けの製品や住宅、社会のデザインに力を入れています。日本の高齢化社会に特に着目しています。

日本で高齢化する人口は大きなチャンスであり、我々はとても興味を持っています。IDEOがどう高齢社会をデザインするか。アメリカのオフィスにはバーバラ・ベスキンドという92歳の女性デザイナーがいます。IDEOの高齢化社会への取り組みをテレビ番組で知り、自ら手紙で応募してきてくれました。視力は弱いのですが、心はとてもシャープでみんなに愛されています。当事者の視点で貴重なアドバイスをしてくれ、ホワイトハウスにも呼ばれるなどすっかり有名になりました。

例えば高齢者向けのビーチや水泳の商品を作るとしましょう。そのためには私は日本に行きます。高齢者は多くのスキルや知恵を持つ一方で、目的意識を必要としています。例えば、生け花学校の生徒は高齢者が多い。一方で、ホテルではフラワーアレンジメントに高いお金をかけている。高齢者のスキルを、そこに生かせないか。IDEOがバーバラから多くを学んだように、もし高齢者の技術や視点を他人に生かす道を見つけることができれば、大きなビジネスの機会が生まれます。高齢化は起業家たちが追い求める1つのテーマです。この分野で起業するのに、日本以上によい場所はないと思います。

――今年は日本でも変化が期待できますか。

もちろん。すでに多くのことが動いています。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、準備は始まっています。人々のなか、ビジネスのなかにグローバルになろう、新しいことをしようという意識が生まれています。何千人ものアスリートと何万もの旅行者が日本を訪れます。日本の言葉が分からない、文化が分からない彼らを助け、彼らにいかに「よい体験」をしてもらうかは、日本をあげた挑戦です。日本にとってワクワクする時になると信じています。

Tom Kelley

1955年、米オハイオ州生まれ。兄デイヴィッドと米デザインコンサルティング会社IDEOを経営。2009年から東京大学ischoolのエグゼクティブ・フェロー。兄との共著に『クリエイティブ マインドセット』(日経BP社)など。