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人工知能を愛せますか?

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ビジネスの仕組みに変化が必要

エリック・ブリニョルフソン・マサチューセッツ工科大学教授に聞く

AI時代の到来に、私たちは、どう向き合っていけばいいのだろうか。技術進歩がもたらす経済・雇用の変化について、積極的な発言を続ける米マサチューセッツ工科大スローンスクール経営学教授のエリック・ブリニョルフソン氏に、近未来の仕事の形と課題解決の処方せんを聞きました。(聞き手・田中郁也)

撮影・田中郁也


――人工知能(AI)の現状と、社会への影響をどうみていますか。


これまで機械にはできなかったことの多くが、AI技術の進化で可能になろうとしています。今後数十年は、私たちの経済にとって、最大かつ非常に刺激的な挑戦の時代となるでしょう。もっとも大きな影響を及ぶのが雇用環境です。これまでの仕事の多くが機械にとって代わられるなか、この新しい技術を活用しながら、どうやって雇用を確保し、ビジネスの仕組みを変えていけばいいかを、考えていかねばなりません。


――AI技術の進化で、とくに注目しているのはどこですか。


最も驚くべきブレークスルーは、深層学習の技術です。画像認識、音声認識、自然言語処理など、多くの分野で、この技術が非常に効果的であることがわかってきました。その結果、機械はいまや人間と同様の仕事を、多くの分野でできるようになりつつあります。


これは非常に大きな変化です。ほんの10年前まで、機械にはできなかったことを、できるようになったのです。「ポランニーの矛盾」と言われた状況を覆したのが、この深層学習技術ともいえます。


――ポランニーの矛盾とは?


我々は、説明できる以上のことを知っている。あるいは、我々は、知っていることすべてを説明できない。人間のもつ知の特質を、かつて経済史家のカール・ポランニーは、こう表現しました。そして、この暗黙知が、機械に仕事を教えるときの障害となりました。人間の知の多くが暗黙知ゆえに教えられない、という矛盾です。


――つまり、機械に教えたいと思っても、教えられなかった。


母親の顔、人の顔をどうやって見分けているか。どうやったら自転車をこげるか。それを機械に教えるのは非常に難しい。結局、私たちは、知っていることのごく一部しか、機械に教えることができなかったわけです。しかも非常に注意深く指示をして、コンピュータープログラムとして書き出さねばならなかった。


そこに深層学習が入ってきました。深層学習では、我々が手取り足取りで教えなくても、やるべき作業を機械が自分で学んでいきます。たとえば画像認識なら、非常に多くの顔の写真を、データとして与えるだけでいい。いま私たちは、第2の機械時代の第2波を迎えようとしているのです。


――第2の機械時代の、第2波ですか。


機械の時代は大きく3つに分けられます。まず、第1の機械時代は、蒸気機関や電気が発明され、普及した時代です。我々の仕事のなかで、力仕事が機械に取って代わられていきました。


第2の機械時代は、頭脳労働の代替です。第1の波は、コンピューター化の波。たとえば、計算のような仕事です。ただし、機械に代替させるには、なにをどうやったらいいか、書き込まなければいけなかった。教えられないことも多かった。しかし、AI化という第2波では、われわれがいちいち教えるのでなく、機械が機械自身で学んでいくことが可能になったのです。


――第1波とは、全く異なる局面に到達したわけですね。


非常に広範で、非常にインパクトのあるうねりです。わたしたちの経済にとって、そして、私たちの働き方、我々の社会にとって、それはまさに始まったばかりです。


――新しい時代にむけた備えとして、なにが必要ですか?


まず、教育と職業訓練を再構築することです。創造性、チームワーク、人と人とを結びつける技能など、機械にはうまくできないことに、もっと重点をおくのです。一方で、記憶すること、指示通り行うこと、ルーティーンワークなど、機械でもできることに重きをおく必要はありません。こうした教育の再構築を、初等教育から大学まで、さらに大学卒業後の教育・訓練のあり方も視野にいれて進めていかねばなりません。


二つ目に重要なのは、起業家精神をもっと活発にしていくことです。新しい商品やサービスを生み出し、経済の仕組みを変えていくには、新ビジネスを創出する起業家が欠かせません。経済の停滞がつづくなか、新しい雇用が生み出せなくなっています。新技術を活用して、消費者に新しい価値を提供し、同時に新しい雇用を生み出す。そんな起業家が数多くでてくるような教育をしていくことも求められています。起業家が会社を興しやすくするために、規制を変えていくことも必要でしょう。


――どんな分野での起業が必要なのでしょうか。


幅広い分野にわたりますが、とくに、技術がもたらす豊かさをシェアするためのビジネスが大切でしょう。多くの人が参加でき、富を幅広く分配できるビジネスモデルの創出です。


たとえばアイオアヘルスという医療ベンチャー会社は、医師を手助けする「ヘルスコーチ」という職業をつくりだしました。この薬を飲んで、こんな運動をして、こんな食事をとりなさい、など、医師は患者に様々な処方やアドバイスをするけれど、患者はそれを聞き流してしまう。そんなことがよくあります。アイオアヘルスでは、こうした患者への処方や指示を、ヘルスコーチが共有し、患者がちゃんと実行しているか、見守り、手助けしています。ヘルスコーチは、医学の学位をもっている必要はない、医師や看護師である必要もない。人と接する技をみがいて、患者を励まし、元気づける。この結果、医師と看護師だけで患者と向きあっていたときよりも、医療費は少なくてすむようになったのです。


これは、新しいエコシステムの創出といえるでしょう。人と接する技術をいかした職種を設け、全体の医療費を下げることで、追加雇用の費用も捻出する。新しい職業を生み出せたのです。こうした豊かさをシェアするイノベーションが必要です。かつてならトップ1%にしか向かわなかった富を、雇用を創出し、分配するのです。


――新たな分配の仕組みづくりですね。


何十年、何世紀もの間、技術の進化は、わたしたちのだれにも恩恵をもたらし、全体の生活水準が引き上げました。とくに中流階級の所得は、生産性の上昇とほぼ比例して、増えてきました。


しかし、20年ほど前から、大きな変化が生じました。「グレード・デカップリング(巨大な分断)」です。生産性の向上は続いているのに、中間層の所得がのびなくなった。生産性の向上の恩恵が、普通の人々には向かわず、トップ1%の階層にだけ集中してしまう。そんな現象が起こってしまったのです。


――だからこそ、中間層が恩恵を得られるような雇用創出が必要だと。


その通りです。それにはビジネスモデルを考え出す起業家が必要なのです。富をつくり出すと同時に、その富を幅広い階層のために、富をつくり出すような仕組みを考える起業家が必要なのです。


それと同時に必要なのが、教育への一層の投資です。中間層の働き手が、より幅広く社会に、ビジネスに貢献できるような技術、技能をもてるようにしないといけない。起業家の育成、教育の再構築、この二つが、巨大な分断の新興を食い止め、中間層に生産性向上の恩恵をもたらすことになるでしょう。


Erik Brynjolfsson

マサチューセッツ工科大(MIT)スローンスクール経営学教授。著書に『機械との競争』『ザ・セカンド・マシン・エイジ』など。



 

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