RSS

人工知能を愛せますか?

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

「AI失業」にどう立ち向かうか

人工知能(AI)の進化によって人間の仕事が奪われる、という指摘があります。その先に待っているのはどんな未来か。今の職業の約半分がAIに取って代わられる可能性があるという調査結果を発表した英オックスフォード大准教授のマイケル・オズボーンさんと、「AI時代」の経済の仕組みについて提言している駒沢大講師の井上智洋さんに聞きました。(構成 GLOBE記者・左古将規)


●「仕事の『機械化』は加速している」

英オックスフォード大准教授 マイケル・オズボーンさん

撮影・後藤絵里


人工知能の進化によって、これまで人間の頭脳がこなしてきた仕事を、機械に任せることができるようになります。私は2013年の論文で「米国の労働者の47%が10年後か20年後には仕事を失う恐れがある」と指摘しましたが、変化はさらに加速しています。


私は2013年の時点で、レストランの接客を機械に任せることは難しいだろうと考えていました。巧みな会話で客にデザートをお勧めするのは、機械には難しいだろうと考えたからです。ところが今、一部のレストランではタブレットで注文をできます。米国にはタブレットを導入したことでデザートの注文が2割増えたというレストランチェーンもあります。ウェーターを呼び止めて注文するのはおっくうでも、タブレットなら気楽に注文できる、という人もいるのです。


テクノロジーの進化で仕事がなくなるという現象は過去にもありました。20世紀の初めには米国人の40%が農家でしたが、20世紀の終わりには2%にまで減りました。それでも失業率はほぼ同じです。農業以外の新しい仕事が生まれたからです。


でも今後も同じだとは限りません。技術が進化するスピードが速すぎるからです。今のまま教育制度が変わらなければ、新しい仕事を見つけられず、取り残される人たちが出てくるかもしれません。良い教育を受けられた人とそうでない人で、格差が開く可能性があります。


ただ、技術の進化は悪いことばかりではありません。私が東京に行ってもスマートフォンでおいしいレストランを見つけられるのは、人工知能の技術のおかげです。退屈な仕事を機械に任せることで、人間が本来楽しむべき創造的で社交的な仕事に集中できるようになる、とも言えます。


技術の進化は止められませんし、止めるべきでもないと思います。急速な変化に対応するためにどのような教育制度や再配分の仕組みが必要か、さまざまな解決策を考える必要があるでしょう。


Michael Osborne オックスフォード大学工学部准教授。専門は機械学習。2013年の論文「雇用の未来」が話題に。



●「ベーシックインカムが必要だ」

駒沢大経済学部講師 井上智洋さん

撮影・左古将規


今、AIがすごい、AIブームだ、と言われています。でもまだ我々の暮らす社会が様変わりするところまでは行っていません。大きく変わるのはこれからです。


まず変わり始めているのは、「情報の世界だけで完結している産業」です。たとえば金融。物理的なモノを扱うわけではなく、数値だけを扱うので、「AI化」が進みやすい分野です。顕著なのは証券会社のトレーダーでしょう。0.01秒で取引するのは人間には無理。証券アナリストの仕事もAIが得意と言われ始めています。金融は今後、劇的な変化を遂げていくでしょう。


次に「スマートマシン」の登場によって、「物理的にモノを動かす産業」にもAIが広がっていくでしょう。日本でも2020年くらいには自動運転車が試験的に走り始めるのではないかと言われています。ドローンによる配送も登場するかもしれません。この段階に来ると、風景が変わります。一般の人たちも社会の「AI化」を実感できるようになるでしょう。


さらに、言葉をきちんと理解するAIが登場すれば、接客などのコミュニケーションを必要とする仕事もAIが担えるようになります。2025年くらいにも実現する可能性があると考えています。その先の2030年ごろ、人間のようにさまざまな知的課題を解決できる「汎用AI」が登場すれば、多くの人が根こそぎ失業してしまう可能性があります。


テクノロジーの進化のせいで仕事を失う「技術的失業」は、過去からずっとありました。アメリカでドナルド・トランプ氏が支持を集めた背景にも「中間層の破壊」がありました。コールセンターや経理などの事務労働に従事していた中間層の人たちが、IT化の波を受けて仕事を失ったのです。事務労働の仕事を失った中間層の人たちは、より賃金の低い肉体労働に流れて、アメリカ全体の所得の中央値は下がりました。そうして鬱憤をためた人たちが、トランプ氏を支持したと言われています。彼らの真の敵は移民ではなくITなのです。


今後、自動運転車のような「スマートマシン」が普及すれば、肉体労働の仕事も減っていくでしょう。事務労働の仕事を失ってタクシー運転手になろうと思っても、その仕事ももうなくなるのです。さらに「汎用AI」が登場すれば、より高度な頭脳労働の仕事も減っていきます。仕事が根こそぎ失われる可能性があるのです。


「技術的失業」はこれまで、一時的なものだと考えられていました。テクノロジーが進化して職を失っても、また次の仕事に転職すればよかったのです。でもこれからは、転職先に仕事があるかどうかが問題になります。


そうなるとまず、マクロ経済政策が重要になります。金融政策で世の中に出回るお金の量を増やして、景気を良くしないといけない。


それからセーフティーネットです。あまりにも多くの人が失業すれば、今の生活保護制度では機能しなくなる可能性があります。誰を助けるべきかどうか、選別する作業に手間がかかって、本当に助けを必要としている人がこぼれ落ちてしまうことも考えられます。


私は、すべての人に無条件に最低限の生活費を一律に支給する「ベーシックインカム」を導入すべきだと考えています。


財源は所得税でも法人税でも、資産課税でもいい。お金持ちが海外に逃げないように、グローバルな課税制度も必要になるかもしれません。


AIが発達すれば、社会全体の生産性は上がり、豊かになります。でも多くの仕事がAIに奪われるなら、資本家の取り分だけが大きくなって、労働者はむしろ貧しくなってしまう。それでは未来は暗くなるばかりです。AIの進化が生み出す豊かさをみんなで享受するために、ベーシックインカムのような再分配制度が必要です。


いのうえ・ともひろ 駒沢大経済学部講師。専門はマクロ経済学。著書に『人工知能と経済の未来―2030年雇用大崩壊』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)。



 

<前へ

1 2 3 4 5 6 7

次へ>

Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長から