RSS

トランプがきた

米主導の世界秩序の行方、流動的に/ポピュリズム、制御難しい

国際政治学者 ジョン・アイケンベリーに聞く


「米国第一」を掲げ、同盟国に負担増を求めたり、自由貿易を見直そうとするトランプ大統領の誕生は、世界にも大きな衝撃を与えました。米国が主導してきた戦後の世界秩序のあり方は、変わっていくのか。米国を代表する国際政治学者の一人で、プリンストン大教授のジョン・アイケンベリーに聞いたインタビューの詳報を掲載します。(聞き手はGLOBE副編集長・大島隆)






――トランプ大統領の誕生は、世界にとってどういう意味を持つと思いますか。

「トランプの勝利は世界のシステムにとって深い衝撃だ。自由主義的な世界秩序を守ることについて、過去70年で初めて、米国が指導的な役割を果たすのかどうか、疑問が投げかけられている。もちろん、我々はトランプが何をするか、まだわからないが、『アメリカ・ファースト』というスローガンには、孤立主義的な意味合いがあります」

「米国が果たしてきた役割の重要性について、トランプは理解していないと思います。もちろん、(与党の)共和党議員の大半は自由貿易を支持しているし、トランプが貿易や安全保障のシステムを解体しようとしても制約があります。それでも、米国や欧州、日本が戦後、何世代にもわたる努力で築き上げてきた成果を尊重しようとしないというのは、憂慮すべき事です」


――トランプは外交政策で、どんなアプローチを取ると思いますか。

「トランプの姿勢は、勢力圏的な考え方に傾いています。ロシアや中国に対して、『(自分たちが求める)一定の振る舞いをしている限りは共存し、地域の最高実力者になることを許す』というシグナルを送ることは、容易に想像がつきます。特にロシアに関しては、プーチンが勢力圏をウクライナやバルト三国、ジョージアなどに広げようとしていることに対して、強く押し返すことに消極的です。ロシアによる近隣諸国の主権や自由の侵害は、我々の問題でもあるという伝統的な考え方を、トランプは持っていないようです」

「自分が求めることをやるなら、地域の支配を容認するようなやり方が考えられます。たとえば中国に対して、北朝鮮問題で米国を助けるなら、南シナ海で中国の要求を受け入れるといったやり方です。彼は原則を重んじるリーダーというよりも、取引重視型のリーダーといえるでしょう」


――米大統領選挙だけでなく、英国の欧州連合離脱決定や欧州各国でのポピュリズム政党の台頭なども同時に起きています。これは偶然なのか、それとも世界全体で何かが起きていると考えますか。

「これらの多くの国々で、自由民主主義の機能が低下する一方、(社会の)二極化が進み、中間層や労働者層の経済発展は鈍化しています。多くの人々が、生活が良くなる見通しが持てないでいます。一方で、移民や貿易を巡って懸念も出ています。米国では、移民や多文化主義を懸念する白人のアメリカ人による『アイデンティティー・ポリティクス』の再来もあります。こうした変化は何十年もかけて起きている根深いもので、世界的な現象になる恐れがあります」


――自由主義的な世界秩序という観点からすれば、我々は戦後70年間の前進から別の方角、あるいは後退に向かっているのでしょうか。

「私たちは、非常に流動的な、どちらの方向にも行きうる転換点にいる。世界秩序や民主主義、自由主義的な世界秩序の未来に、根本的な問いかけが投げかけられています。しかし私は、開放的で、緩やかなルールに基づく協力的な国際秩序が、米国や欧州、日本や韓国の長期的な利益に結びついていると考えます。ナショナリズムや孤立主義は、問題へのリアクションであって、解決策ではありません」

「協力や自由な国際主義の原則を再確認するためには、各国指導者の多くの努力が必要となります。第2次世界大戦後の『基本の物語』を守るのです。平和を創造し、経済を戦争から復興させ、国連や貿易機構を創設したこと、民主主義の団結、冷戦の勝利などです」

「一方、独裁的なポピュリストたちは彼らの世界の中で、『自由民主主義は機能不全に陥っており、多文化主義は危険だ』という全く異なる『物語』を描いています。彼らに対する政治的な優位を取り戻すためには、イデオロギーと政治の闘争が必要になるのです」


――世界でのポピュリズムの台頭をどうみていますか。

「ポピュリズムは反自由民主主義的なものになり得る、危険なものです。ポピュリストのリーダーは民衆の名の下に、しばしば報道を威圧したり、法を破ったり、伝統的な規範を踏みにじったりします。ポピュリズムは非常にコントロールすることが難しいのです。ナショナリズムや反動政治と結びつく傾向があります。ポピュリズムは民衆に力を与えるように見えるがゆえに、強力です。しかし、私たちの民主主義は法の支配と立憲主義、チェックアンドバランス、政党同士が妥協する機能を元に成り立っています。ポピュリズムはこの点で、代議政治と民主的な機構を破壊する恐れがあるのです。ポピュリズムは人々の声を伝えるように聞こえるがゆえに、権威主義に直接つながる恐れがます。そして権威主義は、ファシズムにつながるのです」


――これは「パックス・アメリカーナ(米国の力による平和)」の終わりの始まりだという識者もいます。世界のパワーバランスは変わっていくと思いますか。

「この選挙が『パックス・アメリカーナ』の終わりの始まりだとは思いませんが、われわれは戦後70年間なかったような岐路に立っているとは思います。米国が主導してきたリベラルな世界秩序は、まだ生命力を保っています。しかし、これを守るためには多くの努力が必要となります」

「もしも米国が、過去70年間その外交の特質であった指導的な役割から急速に後退し、『アメリカ第一』で、NATO加盟国の防衛義務やアジアへの(核の傘を含む)拡大抑止を果たさないというサインを送れば、世界の秩序は地域ごとの勢力圏に変わっていくでしょう」


John Ikenberry 1954年生まれ。米プリンストン大ウッドロー・ウィルソン公共政策大学院教授。邦訳された著書に「リベラルな秩序か帝国か」「アフター・ヴィクトリー」など。


この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示