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北朝鮮サバイバル

[Part1]北朝鮮、核・ミサイルに頼る論理




核やミサイルの開発によって、金一族による支配を維持する。それが体制の論理だ。



工事現場の横を自転車で通り過ぎる女性たち。日本海に面した咸興の郊外。photo:AP/Wong Maye-E

02、03面では北朝鮮という国を下から支える「人々」の姿を見た。ここでは「体制」の論理を描いてみる。



「体制の保証があり、軍事的脅威がなくなれば、核を保有する理由はない」


朝鮮労働党委員長の金正恩は、韓国特使団と会った3月5日、こう語った。


北朝鮮は核・ミサイル開発については、自分たちを敵とみなす米国に対する「自衛策」だと言い続けてきた。そんな北朝鮮がいま、南北会談や米朝会談に応じ、対話に乗り出している。


金正恩の発言について、北朝鮮の核問題を話し合う6者協議にかかわった韓国政府の元高官は、こうみる。


「Nothing new(目新しいものはない)。いつものフレーズだ」


ソウルの軍事関係筋は、北朝鮮が教訓としているのは、1950年に始まった朝鮮戦争で米軍に手ひどくやられたことだという。核開発を進める論理は、「米国への対抗策」というわけだ。


何度も約束を反故に


90年代に入ると、核をめぐる米朝交渉が始まる。こののち四半世紀にわたる米朝協議で、北朝鮮は何度も非核化を約束し、自ら反故にしてきた。


北朝鮮はこれまで、「米国による敵視政策」が何を意味するのか、米国が何をすれば「体制の保証」や「軍事的脅威の解消」につながるのか、その論理を外交の場で詳しく語ったことがない。


体制の保証では2007年秋、米大統領のブッシュが、北朝鮮が非核化すれば朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変えられるという考えを明らかにしたことがある。当時は6者協議が07年2月に合意したロードマップに沿い、北朝鮮は非核化への道を慎重に歩み始めていた。


ロードマップが掲げる非核化の段階のうち、北朝鮮は、核施設の運転の「停止」、核施設を簡単に復旧できないようにする「無能力化」には応じた。だが、実態についての申告になると、これを拒む。ロードマップは壊れた。


軍の意向が決め手


当時の米国務次官補、クリストファー・ヒルは、交渉相手だった北朝鮮の外務次官、金桂寛(キム・ゲグァン)が、完全な申告については「軍が許さないと繰り返した」と振り返る。


北朝鮮の関係筋に背景を尋ねた。当時、北朝鮮の外務省には核開発を話し合う「常務組」という省庁横断の会議があった。必ず外務省で開かれたが、「何も知らない外務省に、軍や国家安全保衛部(秘密警察)が、交渉に必要な知識だけを与える会議だった」と語る。


北朝鮮では90年代に旧ソ連からの支援が途絶え、災害が重なったことで経済が苦しくなった。総書記の金正日が体制を守るために選んだのが、軍が全てにおいて優先する「先軍政治」だ。


軍の論理が先んじる北朝鮮を、国際合意や外交の論理で説き伏せることは難しい。軍を説き伏せられるのは誰か。北朝鮮が「最高尊厳」と呼ぶ、指導者の金正恩しかいない。


「甘い罠」なのか?


米大統領のトランプは3月8日、金正恩からの「会談すれば、大きな成果が得られるだろう」というメッセージを韓国側から伝え聞くと、「良いだろう。会談しよう」と、その場で決めた。


金正恩は軍を優先するという論理を変えることができるのだろうか。

11年末に27歳の若さで権力を継承した彼にとって、国内で指導者として認められる正統性は「白頭山血統」と呼ばれる血筋しかない。北朝鮮は米朝首脳会談が合意をみた後も、核放棄について明確に触れていない。


北朝鮮の関係筋は「いくら最高指導者でも、朝鮮戦争の時から守ってきた『論理』をひっくり返そうとすれば、軍や官僚らの抵抗に遭いかねない」と語る。「核を捨てるふりをして、制裁や米軍の攻撃の脅威から逃れるつもりではないか」とみている。


米朝会談を長引かせれば、米国が交渉に疲れ、本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発中止だけで「ディール(取引)」し、体制は守れる──。非核化をほのめかした冒頭の金正恩の言葉は、そのための「甘い罠」なのかもしれない。


(牧野愛博)


(文中敬称略)


(「戦争は本当に起きるのか? 米朝の情勢は」に続く)



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