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北朝鮮サバイバル

[Part4]真っ赤なコート、若い女性か【中朝国境ルポ】

まだ雪が残る道を自転車で行く北朝鮮の女性。photo:Asahi Shimbun

高層マンション、遊園地、自動車道……。「意外」と言っては失礼だろうか。中国の丹東から、鴨緑江の対岸にある平安北道の新義州を眺めてみると、開発が進んでいるように見える。


北朝鮮では住宅は国から支給されるのが原則で、マンションの部屋を与えられるのは軍人や科学者など国家に功績があった人々。だが最近では「居住権」が売り買いされ、マンションの建設や売買をめぐる「ビジネス」が盛んだ。


そんな新義州の街も、夜になると闇に包まれる。住宅の明かりは数えるほど。私は、中朝間を行き来する北朝鮮の当局関係者に話を聞いた。「明かりのほとんどは駅などの公共施設。電気代が高いので、住宅では中国から発電機を輸入してつけているんだ」と彼は言った。


では経済が停滞しているかというと、そうでもないらしい。経済は成長している。それを示すエピソードがある。北朝鮮が中国から輸入する乗用車が増えている。昨年は2720万ドル(約28億円)。今年1月から経済制裁による禁輸措置が始まったが、直前の昨年末には新車が続々と新義州に渡った。


新義州は中朝貿易の拠点で経済活動が盛んだが、ほかの場所はどうだろう。鴨緑江の上流に向け、車を走らせた。時の流れをさかのぼるかのようだ。開発が遅れている。


丹東から北東に車で5時間。中国の集安の対岸にあるのが、北朝鮮の慈江道満浦。工業の街だ。私が満浦の川沿いを眺めていたのは夕暮れ時。職場から帰るのか人々が行き交う。自転車が多い。若い男女の2人乗りの姿も見える。


黒や灰色。地味な服装が多いな……。そう思っていると、視界の右の方から目にも鮮やかな赤色が飛び込んできた。自転車に乗った人。若い女性のようだ。


トラックがきた。屋根から煙。ガソリンが不足する北朝鮮でよく使われる木炭自動車のようだ。坂道で速度が落ち、息を切らせるように登っていった。


さらに北東に車で5時間。吉林省の臨江に着くと、北朝鮮の女性たち5、6人が、凍った鴨緑江の川面に開けた穴の周りで洗濯をしているのが見えた。衣服を水につけて棒で叩く乾いた音がした。


さらに車を進めると、鉄条網の向こうに舗装されていない道が見える。人々は歩き、牛で荷車を引いていた。わずかな平地に平屋建ての集落が点在する中で、時折見えるコンクリート造りの兵舎と見張り小屋だけが、ひときわ立派だった。


のどかに見える国境の街だが、中国人商人から話を聞くと、北朝鮮では昨年に干ばつがあって食糧不足が深刻という。ある商人は「路上で子供の遺体を見た。毎年のことだが、今年は多い」と語った。


それでも北朝鮮の人々はたくましい。あの洗濯の女性たちは寒くつらい作業でも、よく笑った。中国の人の話では、北朝鮮の農民は人民元を稼ぐために闇に紛れて国境を越え、肉や野菜を売りに来るのだそうだ。


中国の街は発展を自慢するようにネオンが輝く。対岸の北朝鮮の人たちには、それを「うらやましい」と言える自由もない。洗濯の女性たちの笑顔は、苦しさを忘れるための生存術なのかもしれない。


(平賀拓哉)


(「北朝鮮、核・ミサイルに頼る論理」に続く)※4月2日公開予定です。



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