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豊かさのニューノーマル(紙面)

[Part2]ローカルという選択――日本

築130年超の古民家を再生して生まれた「シェアビレッジ」 photo : Nishimura Koji


イケダハヤトさん photo : Nishimura Koji:

「地方移住は、もうアタリマエになってきましたね。このあたりも子育て世代の移住者が増えてきましたし」


高知市から車で約1時間半。秋空に輝く棚田を望む小さな集落の集会所で、ブロガーのイケダハヤト(31)は、なにを今さら聞くのかという風だった。


イケダが東京から高知県に移ったのは3年前。それから「まだ東京で消耗してるの?」とブログの読者を挑発してきた。


会社員時代、大規模なリストラを目の当たりにしたイケダは「今の20~30代前半には、『東京で大企業に入れば、一生安泰』みたいな牧歌的な考えは、さすがにないでしょう」と言う。


むしろ、東京より地方にチャンスがあると考える人たちが目立ってきている。


「危機感が強い地方では、変化を起こしやすいんです」と言うのは、岩手県遠野市などで地域おこしを担うネクストコモンズ・ラボ代表の林篤志(32)だ。


林は、地縁や血縁のつきあいが薄れ、会社にも頼れなくなったいま、新たなよりどころが必要だと考えた。そこで全国各地で価値観を共有する人が集まるコミュニティーづくりを進め、それを基盤とした新しい社会のシステムを地方からつくろうとしている。


「10年前なら、無理だったかもしれません。でも今はスマートフォンとソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で簡単に人がつながれるし、仮想通貨でお金の流れもデザインできる。地方からできることが広がっているんです」


秋田・五城目町に若手起業家が移り住む


日本の地方が直面する課題を、世界的な視線で捉えようという動きもある。


「10月は台湾から、経営者の団体が視察に来ました。いろいろ注目され、驚くほどです」。秋田市から車で約1時間。秋田県五城目町の役場を訪ねると、まちづくり課長の澤田石清樹(56)がそう教えてくれた。


秋田県は、高齢化率が全国トップ。五城目町も約1万人の町民の4割以上が65歳以上で、人口は2040年までに半減する見込みだ。ところが、そんな町に若手の起業家が移り住み、積極的なまちづくりに乗り出して注目を集めている。


転機は13年。廃校した小学校をシェアオフィスにしたことだった。できた当初は閑古鳥。そこに入居者第1号として東京から来たのが、教育事業を手がけるベンチャー「ハバタク」の創業者、丑田(うしだ)俊輔(33)だった。


「なぜ、わざわざ東京から?」といぶかる声もあったが、丑田は町を別の角度から見ていた。「人口減と高齢化は、世界の課題。それと折り合いつつどう町を残すのかも、世界的な挑戦なんです」


仕掛けたのは、発想の転換だ。たとえば人が減れば、家や土地が余る。それは「別の道に使える資産が増える」と捉えることもできる、というのだ。


「この町にも、もっと可能性があると思えている」


15年に始めた「シェアビレッジ」では、築130年超の古民家を活用。年会費を納めると宿泊などを体験できる仕組みをつくり、年間約2000人が訪れる施設に再生した。そのノウハウは、香川県の古民家にも応用されている。


この秋には、町の中心部の空き店舗を、子どもが遊んだり大人が学んだりできる学習施設に仕立てた。名前は「ただのあそび場」。事業を担うハバタク社員の柴田祐希(24)は「東京の企業と提携し、新しい子ども向けの探究型の学習プログラムも展開していきます」と話す。

秋田・五城目町にある「ただのあそび場」で遊ぶ子どもたち photo : Nishimura Koji

柴田はこの夏に大学を卒業したばかり。海外留学を経験し、東京での就職も考えていたが、最後に選んだのは五城目だった。「面白いひとが集まり、新しいことに挑戦している実感があるんです」


そんな雰囲気は地元にも広がりつつある。町で300年以上続く造り酒屋を営む渡辺康衛(38)は「以前は『地方には仕事がない』と言われれば、そうだと思うしかなかった。でも今は彼らが挑戦しているおかげで、この町にも、もっと可能性があると思えている」と言う。


秋田で集落の高齢化などを調べてきた国際教養大学教授の熊谷嘉隆(57)は、高齢化と人口減に対応するには、地域に残る資産や、高齢者の知恵や経験をどう生かすか、といった点が大事になると言う。


「五城目で起きていることは、それをうまく示した例。今は成長している台湾やマレーシア、タイなども将来の問題として日本の高齢化に注目している。秋田で、世界に貢献できる対策が生み出されつつあるのかもしれません」


(西村宏治)


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・地方は活性化するか否か。秋田から発信を続ける漫画家の思いとは。

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(文中敬称略)


(「行き詰まりを打破するには」に続く)



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