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給料の話

[Part1]こんなに時給高いの! コストコの戦略




仙台市のベッドタウン、宮城県富谷町の賃金相場に異変を起こしかねない出来事があった。4月末にオープンした米国発の会員制量販店「コストコ」が、アルバイトでも最低時給1200円で募集をかけたのだ。


5月下旬、近くのショッピングモールの掲示板に出ていた求人情報を確認してみた。販売の仕事だと時給730円から高くて850円。コストコの1200円は、この地域ではずば抜けている。


1月から開いた面接会には計1000人規模の応募者が集まり、約400人が採用されたという。


客からの電話での問い合わせに答える女性(23)の時給は1250円。以前はコールセンターの契約社員として5年間働いたが、時給1000円に届かなかった。「お給料が増えるとやる気も増します。次に欲しいものを考えるのも楽しみです」


コストコは、賃金相場の高い首都圏でも地方でも、国内の全25店で同じ賃金を支払う。年に2回、ライバル店の賃金を調べ、たった一つの店でも競合しそうになったら全店の賃金を上げるのだという。コストコホールセール・ジャパンの人事責任者、中川裕子は「他社が近づけないよう、さらなる高みを目指しています」と話す。6月1日から最低時給は1250円に引き上げられた。



「高い賃金がお金の節約に」


コストコは世界に約700店を展開し、計20万人の従業員を抱える世界2位の小売企業だ。国は違えど、賃金についての考え方は同じなのだという。


シアトル郊外の緑豊かな小都市イサカ。湖のほとりにコストコの本社ビル群が広がる。本社脇の店舗で、レジ打ちを担当するジョー・デュモビック(36)は働き始めて15年。時給は23ドル(約2500円)で、年収5万5000ドル(約600万円)ほどになる。その稼ぎで、妻を医学校に通わせた。「私は高校も出ていませんが、ミドルクラス(中間層)として十分な賃金をもらえて満足です」


米国のコストコは最低ラインの時給12ドル(約1300円)から普通は5年ほどで最高レベルの23ドルに達する。時給で働く従業員の平均は20ドルを超すという。


米労働省によると、米国の販売員の平均時給は12ドル台。最低賃金に近い水準で雇っているところも多く、半分は時給10.5ドル以下で働く。


コストコ上級副社長のジェームス・マーフィー(63)に、なぜ相場よりも高い賃金を払うのか問うと、「単なる仕事ではなく、家族を養い、自分を高めるためのキャリアを提供したいからだ」と答えた。


ただし、理由はほかにもある。



米国の小売業は離職率が高い。1年で従業員の半分近くが辞める企業もある。しかし、相場よりも圧倒的に高い賃金ならほとんど離職はない。その結果、ムダな採用コストもかからず、従業員は仕事に熟練して生産性が上がっていくのだと、マーフィーは説明した。彼自身、約30年前に売り場のカート押しからスタートした。「高い賃金は、長期的にはお金の節約になるのです。うちの好調な業績が、それを証明しています」



高めの賃金を払って業績伸ばす


そう言われてみれば、レジ打ち担当のデュモビックの仕事ぶりは確かなものだった。客と和やかに会話しつつ、商品をレジに通す動作は素早くムダがない。米国で買い物をすると、店員の投げやりな態度にイヤな思いをすることもあるが、彼の対応なら客は「もう来たくない」とは思わないだろう。


よく引き合いに出されるのは、世界最大の小売企業、ウォルマートだ。従業員の中には政府の食料補助が必要な人もおり、「税金での補てんを前提にしたビジネスモデルだ」との批判を浴びてきた。最低賃金引き上げの機運に押され、ウォルマートは今年、最低時給を経験に応じて9ドルか10ドルに引き上げることになった。


負けじとコストコはこの春、賃金を9年ぶりに引き上げると発表した。「あくまでも優秀な人材の奪い合いに勝ち抜いていく。それが私たちの哲学なのです」とマーフィーは言う。


コストコは、少ない品目をまとめて仕入れて効率的に売る、富裕層の多い地域に重点的に出店するなど、ウォルマートとは単純に比較できない面もある。ただ、小売業は低賃金で当たり前という「神話」は崩れた。


米国ではほかにも自然派スーパーの「トレーダー・ジョーズ」や、コンビニの「クイックトリップ」など、高めの賃金を払っても業績を伸ばす小売業が存在感を増している。


(江渕崇)

(文中敬称略)

次ページへ続く


コストコの戦略

世界2位の小売企業コストコ。小売業界の相場を大幅に超える賃金を払うコストコの企業戦略とはなにか。シアトルを訪ねました(撮影:江渕崇、機材提供BS朝日「いま世界は」)



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