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家事をロボットに頼るという選択

LifeStyle 更新日: 公開日:
photo:Kodera Hiroyuki

■テクノロジーの進化で楽に?

機械に任せ、家事をなくそうとする試みも長らく続いてきた。今年10月、千葉・幕張メッセで開かれた電気製品の見本市で、ついに世界初という全自動洗濯物折りたたみ機「ランドロイド」の試作品が登場した。

冷蔵庫のような装置の投入口にTシャツを入れると、内蔵カメラが衣類の種類や大きさを識別、ロボットアームが折りたたむ。数分後、きれいにたたまれたTシャツが取り出し口から現れると、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。

ベンチャー企業「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ」(東京)がパナソニックと大和ハウス工業と共同で開発を進めており、2017年には「高級家電並みの価格」で一般向けに発売するという。20年には洗濯や乾燥、折りたたみに加え、収納までを自動で行う住宅造り付けタイプの発売を目指す。

「人類は一生のうち9000時間を洗濯物を折りたたむのに費やしている。その分を機械に任せれば、自由な時間が生まれる」と広報担当者はアピールする。

そもそも家族総出で行うものだった家事だが、産業化とテクノロジーの進化に伴いその中身は変化してきた。米国の科学技術史を研究するペンシルベニア大学名誉教授のルース・シュウォーツ・コーワンによると、英国や米国で「housework(家事)」という単語が使われるようになったのは19世紀。産業革命が始まって「仕事場」と「家」が分離されるようになったころだ。男性が外で働くようになった一方で、家事はおもに女性の役割となった。

■「お母さんは忙しくなるばかり」

20世紀に入ると、テクノロジーの進化により電気洗濯機や掃除機など、家事を省力化するための家電製品が次々に登場。第2次世界大戦後には一般に普及した。生活家電研究家の大西正幸は、日本では、進駐軍が果たした役割も大きかったと指摘する。「軍住宅用の家電製品の発注を受けたメーカーは大きな刺激を受けた。その後、女性たちの負担軽減に道を開いた」

ただ、テクノロジーによって家事が楽になったかどうかは、議論が分かれる。コーワンは1983年の著書『お母さんは忙しくなるばかり』で、上下水道やガスなど社会インフラの普及が男性を家事から解放した一方、電化製品が登場しても女性の負担は減らなかったと指摘した。

例えば洗濯機の出現で、子どもや使用人の手を借りずに洗濯ができるようになり、かえって主婦の労働は増えたという。「あれから30年たったが、状況は同じだし、これからも変わらないだろう」

コーワンによると、大切なのは主体的に家事をやることだという。「例えば、洗濯機や洗剤のメーカーは客に毎日洗濯してほしいと願っているだろうが、実際にその選択をしているのは、あなただ。本当に毎日タオルを洗う必要があるのか。自ら考え決めることで、家事の負担は変わると思いますよ」

(左古将規、田玉恵美)
(文中敬称略)

■我が家の執事はロボット

年を取ると、体を動かすのがおっくうになり、物忘れも進みがちだ。高齢化社会の到来を前に、「ロボットに家事を手伝ってもらおう」という研究が、米国の大学で進む。

カーネギーメロン大学が開発しているのは「執事ロボット」。身長は車いすに座った人と同じぐらいで、カメラで目の前の物を認識し、両腕についた3本の指で物をつかんで運ぶ。冷蔵庫から取り出したパック入りの食品を電子レンジに入れ、温めて取り出す実験にも成功した。

人の代わりに家事をする執事ロボット photo:Sako Masanori

実用化のめどは立っていないが、開発した准教授のシッダールタ・シュリニヴァーサはこう言う。「素早く正確に動いて、健常者にも満足してもらえるようなロボットをつくるには、まだ時間がかかる。でも高齢者や障害者の場合、床に落ちた物を拾ってもらうだけで助かる場合もある。彼らを対象にしたロボットは、比較的早く実現できるはずだ」

ピッツバーグ大学は「キューイング・キッチン」を開発している。合図(キュー)を出してくれる台所、という意味だ。流しの脇に置かれたパソコンの画面から作りたい料理を選ぶと、画面と音声が作り方を順番に指示する。「緑色に光った戸棚から、鍋を取り出してください」「透明ガラスになった戸棚から、パスタを取り出してください」といった具合だ。

脳の機能や認知に障害が出ると、料理の作り方が分からなくなったり、どこに鍋を片づけたか思い出せなくなったりする。そんなときに台所が合図を出せば、家事の手順を思い出すことができる。

「家事には個々人のペースがある。手順を押しつけるのではなく、うまく後押ししたい」と開発研究員のジン・ワンは話す。
(左古将規)
(文中敬称略)

■菌との闘いが家事をつくる

テクノロジーの進化は、年々高まる清潔志向にも拍車をかけた。「布団に掃除機をかける」という新しい習慣が日本に入ってきたのは、2012年。韓国発のベンチャー企業「レイコップ・ジャパン」社長のリ・ソンジン(45)が、羽田空港から都心へ向かうモノレールの中で見た風景に端を発する。

「アパートやマンションのベランダに、たくさんの布団が干してあった。こんなに布団の快適さにこだわる国なら、必ず売れると思いました」

もとはソウルの大学病院に勤務する内科医だったが「アレルギー患者を診察するうちに、予防の大切さに気づいた」。病院を辞めて07年、4人の技術者らと韓国で起業した。紫外線ランプで除菌できて、短時間でハウスダストも取り除けると話題になり、日本ではこの3年間で350万台を売った。今や日本での販売が8割を占め、本社も東京に移した。

「新しい習慣を日本に定着させることができた。余計な家事が増えたって? 健康のほうが大切ではないですか」

昔に比べれば、家の中の目に見える汚れは減っていると、花王ホームケア事業グループブランドマネジャーの竹内賢一は指摘する。台所ひとつとっても、揚げ物を作る機会が減り、換気扇やコンロ、水回りも汚れが落ちやすい仕様になった。

にもかかわらず、掃除ケア用品市場は戦後一貫して成長しているという。なぜか。掃除する相手が目に見える汚れではなく、目に見えない菌やウイルス、花粉、においなどに変わったからだ。

米国に本社を置くP&Gによると「抗菌は日本独特のニーズ」だという。同社が日本で1998年に発売した「ファブリーズ」は、寝具や家具、衣類を元からスプレーで消臭・除菌するという家事を定着させた。

英ダイソンは10月下旬、世界に先駆けて日本で新型ロボット掃除機の発表会を開いた。人の髪の毛よりも細い0.5ミクロンの微細な粒子を捕らえる点などが売りだという。

来日した技術者のマイク・オールドレッドに聞いてみた。将来的にはもっと細かいゴミ、たとえば0.01ミクロンのたばこの煙なんかも逃さないようにするんですか? 

「そうだね。僕たちの仕事に終わりはないんだ」
(田玉恵美)
(文中敬称略)