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[No.177]堤 大介/Tsutsumi Daisuke

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6月の日曜夕方、東京・表参道ヒルズの地下に続く階段で若者たちが列をなした。堤大介(41)が最新作の短編アニメ『ムーム』をひっさげ帰国、アジアの短編映画を集めた映画祭に登壇したのだ。若い女性が「(堤のスタジオ)トンコハウスで働くにはどうしたらいいですか」と尋ねると、堤は「ピクサーじゃなくトンコハウスなのがうれしいですね」と笑顔で返した。


2年前、堤は名門ピクサー・アニメーション・スタジオを去り、日系4世の同僚ロバート・コンドウ(36)と独立した。


コンピューターグラフィックス(CG)全盛の米国にあって、堤が得意としてきたのはぬくもりに満ちた手描きの光だ。その画風が評価され、ピクサーで大ヒット作『トイ・ストーリー3』などに携わる。監督第1作の『ダム・キーパー』はアカデミー短編アニメ賞にノミネートされた。


順風満帆に見える堤だが、紡ぎ出すのは「報われないヒーロー」の物語だ。『ダム・キーパー』の主人公ブタくんは街を公害から守る仕事を亡き父から人知れず受け継ぐ一方、学校でいじめられる。


「もともとの自分は内向的。性格的にはブタくんにすごく近いですね」


少年時代は野球に熱中。18歳で渡米するまで、絵の勉強などしたこともなかった。5歳で両親が離婚。ジャーナリストの父、故ばばこういちの記憶はあまりない。母は元文化放送アナウンサーで詩人の堤江実(76)。当時は紙製品輸入販売の会社を営みながら、後にジャーナリストとなる長女・未果と彼を育てた。



18歳で「日本を出たら?」

サイン会などでは参加者一人ひとりと丁寧に会話する。「どんなに列が長くても、彼は熱心に時間をかける」とコンドウは言う
photo:Semba Satoru

江実は多忙で夜遅くなることも多かった。「海外出張の時、留守を預けたお手伝いさんに2人がいじめられたことがあったらしいんです。彼らは私に気をつかって何も言わなかった」。息子の堤にはけがが絶えなかった。「今思えば、精神的に満たされず、注意をひきたかったんじゃないか」と江実は言う。


堤いわく「究極の放任主義」の母からは、18歳で家を出るよう促された。江実は言う。「日本を出たら? とは言ったかな。個性ある大人たちが住空間を共にするのは無理がある、自分の好きな空間に住むべきだと思ったんです」 英語をほとんど話せないままニューヨークへ。コミュニティーカレッジで英語ができなくてもとれる絵の授業に通い、高齢の同級生たちから「才能あるねぇ」と口々にほめられた。「それで調子に乗ったんです」。絵の授業を増やすため美術部長に立候補し、学校側と掛け合った。行動力が認められ、地元の人向けの奨学金を外国人ながら得ることができた。


だが、編入した美大で現実にぶつかる。幼い時から絵の英才教育を受けてきた同級生も多く、「僕が一番下手だった」。高名な画家のデッサンの授業では「きみ才能ないから、次から来ないでくれ」と何度も言われるが、めげずに通い続けた。重い油絵の道具箱を持ち歩き、いつでも、どこでも描いた。大学で取れる最大数の授業をとり、夜は別の絵の学校に通った。1997年、ディズニーの学生向けワークショップに応募し、補欠枠で滑り込む。名だたる描き手たちに直接薫陶を受け、「アニメーションでやっていきたい」という気持ちが芽生える。


教育ゲーム製作会社に就職した後も友人の身分証を借りて美大に潜り込み、絵の腕を磨き続けた。その後、念願のアニメスタジオに転職し『アイス・エイジ』などを手がけ、ピクサーの監督、リー・アンクリッチ(48)の目にとまる。「一緒に仕事をしよう」とメールが届き、2007年、同社初の「光と色専門のアートディレクター」に起用された。『トイ・ストーリー3』で、主役のおもちゃたちが安心できる場所に木漏れ日を、悪役おもちゃには陰をおくタッチは評判を呼んだ。


背景担当アートディレクターとして堤を迎えたコンドウは「彼はすごい働き者として業界で知られていたから、少し恐れた」と言う。堤は堤でコンドウの絵に憧れ、「ジェラシーを感じていた」。お互い、絵を描けば誰よりも先に見せ、批評し合い、いつしか影響し合うようになる。

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