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人間ダ・ヴィンチに迫る

[第219回]宮家あゆみ ライター・翻訳者

Photo: Nishida Hiroki

『レオナルド・ダ・ヴィンチ』は、イタリアルネサンスの頂点に位置する巨匠の伝記。著者のウォルター・アイザックソンは、スティーブ・ジョブズやアインシュタインなどの伝記で知られるベストセラー作家。ダ・ヴィンチが残した7200ページ以上のノートや、科学技術を駆使した絵画の解析、修復作業などの情報に基づき書かれた、壮大なスケールの伝記となっている。


ダ・ヴィンチが科学の先駆者でもあったことは広く知られている。ノートに記された膨大な数の地図、新兵器、幾何学、解剖学、地質学、植物学、天文学に関わるデッサン図、日記や覚書からは、科学に対する彼の旺盛な好奇心が窺える。裕福な家庭の非嫡出子で、正規の教育を受けたことはない。絵画以外はすべて独学だった。完璧主義者で、未完成の作品が多かった。前払い金を受け取っていても、納得のいかない作品は完成させなかった。


この本は、ダ・ヴィンチに関して誰も知らなかった新事実が記されているわけではない。本書の一番の魅力は、彼の人間的な側面が生き生きと描き出されているところにある。栄誉よりも自分の興味を優先させてしまうので、書き溜めた解剖学や物理学に関する膨大なメモやスケッチも、出版には至らなかった。物事を仕上げられない自分に絶望もした。自分に厳しい一方で人との競争には興味がなく、他人には寛大だった。それでも正反対の性格のミケランジェロとは確執もあった。ミラノでは同性愛者であることも隠さず、絵画「洗礼者聖ヨハネ」のモデルとされる長年のパートナーのサライには華やかな衣装を買い与え、自身もピンクや紫色のローブを身に纏った。王室の野外劇を演出し、芸術家や学者たちとも盛んに交流した。


発刊前から映画化が決定し、俳優レオナルド・ディカプリオがダ・ヴィンチ役を演じることでも話題を呼んだ。作年11月の絵画オークションで芸術作品としては史上最高額で落札された絵画「救世主」が、本当に彼の作品なのかどうかの論争にも触れられている。


結論の章には、現代人がダ・ヴィンチから学ぶべき20の事柄もリストアップされている。作品の解説とともに大量の写真が盛り込まれているのも魅力だ。多くの人に支持されるのも頷ける。



(次ページへ続く)

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