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党政治の腐敗を暴く 『人民的名義』北京で読まれてます

[第206回] 泉京鹿 翻訳家

photo: Nishida Hiroki

「今日、現金を初めて見ました」

北京の大型書店のレジで、支払いに現金を出して笑われたのは昨春のこと。日本でもお馴染みの中国のデビットカード「銀聯カード(ユニオン・ペイ)」、さらには「支付宝(アリペイ)」「微信支付(ウィーチャット・ペイ)」といったスマートフォンのオンライン決済が普及し、中国人は現金を持ち歩かなくなっている。コンビニやスーパーでの少額の買い物もスマートフォンで「ピッ」と済ませる。


そんな今、『人民的名義』の冒頭、汚職官僚の邸宅の壁一面に2億元余りの紙幣の札束がびっしりと詰まった異様な光景は、新鮮でさえある。今春大ヒットした同名のテレビドラマでは、冷蔵庫の中、ベッドの上も札束だらけ。鮮烈なビジュアルが驚きと笑いを誘う。


中央の検察院反腐敗捜査員・侯亮平は、北京で検挙したこの官僚の供述を糸口に故郷H省の腐敗に切り込む。だが、捜査協力をしていた省検察院の陳海は、事故を装った暗殺未遂で昏睡状態に。新任のH省トップ・沙書記により、侯は同省に派遣される。


捜査を進めるうち、侯と陳海の恩師で法学者から政界へ転身した高書記、高の教え子の祁公安庁長官、H省京州市の李書記らの間で錯綜する利権や愛憎が浮上する。水面下で展開される熾烈な権力闘争、腐敗の巨悪の後ろ盾は、H省の経済発展が評価され中央に出世した大物政治家・趙書記だった。


中央と地方の行政機関、複雑な肩書(書記だらけ!)の上下関係など外国人には把握しにくい中国共産党組織、人事理解に格好のテキストだ。銀行幹部、地元政府高官らの汚職に起因する工場の立ち退きに抵抗する労働者たち。彼らと警察との衝突が、インターネット中継で世界に拡散されるエピソードは、現実と重なる。汚職高官が海外逃亡する際の偽名パスポート、携帯電話のGPS追跡やその対抗策、町中、ホテルの室内まで至るところに張り巡らされた監視カメラ網……追われる側、追う側双方の偽装技術、ITを駆使した攻防にも中国社会の今がてんこ盛り。そんな汚職の手口や捜査技術のディテール、習近平政権が進めてきた反腐敗運動、権力闘争の内幕を彷彿とさせるリアリティに、中国全土が熱狂した。



(次ページへ続く)

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