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熱い社会に温かいことば@ソウル

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:

イ・キジュのエッセー『ことばの温度』は、昨夏の刊行当初はあまり注目を集めなかったが、秋以降じわじわと順位を上げ、2月末から1位の座を守り続けている。
ソウル経済新聞の記者を経て、作家デビューした。版元は、著者自身が立ち上げた「1人出版社(社員4人以下の小規模出版社のこと)」だ。
イは「季節の変わり目には、母の鏡台にそっと、日傘や保湿クリームを置く」という、心優しい息子でもある。
活字中毒を自認する。バスや電車、コーヒーショップで、人々のおしゃべりにじっと耳を傾ける。ことばをすくいとり、日常を軽妙に切り取り、自分のことばで消化してゆく。
こんな作家がそばにいたら、だれもがうかつな物言いはできないだろう。「ことばや文章には、それぞれ温度がある」と、著者は言う。
昨秋以降、韓国ではトゲや毒のあることばが蔓延した。嘘ばかり並べ立てる政治家。テレビの画面に向かって、怒声をあげる人々。国民を怒らせた人々に、ぜひ読んでもらいたい部分があった。
「他人をだませば罰を受けるが、自分自身をだませば、もっと暗くて重い罰が待っている。後悔という厳罰が」
ふと、これまで自分の発したことばの温度は、何度くらいだったろうかと考える。燃え盛るほどのことばで、相手にやけどを負わせたことはなかったか。氷のように冷たいことばを、吐いたことはなかったか。
ことばは人を勇気づけることも、人を殺すこともある。何気ない一言が、相手の心に深く残ることもある。だから慎重にことばを選んで、善いことばだけを使いたい。

これが国家なのか

大統領選挙の前には候補者の著作が売れるのが慣例だが、今回のリストには関連書が一冊も入らなかった。大統領退陣を叫ぶデモに参加した人々は、本よりニュースを見る方に熱心なのか。どうもこれまでの選挙とは、雰囲気が異なっている。
そんな中で、混乱の政局を鋭く突く論客として活躍するユ・シミンの『国家とはなにか』が2位。1980年代に民主化運動を主導した著者は、その後政治家となり、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権を支えた。2013年に政界を引退し、作家として数多くのベストセラーを出している。
帯には「これが国家なのか」というフレーズが。国の将来を憂える人々が、手に取ったのだろう。
本書は2011年に発刊したものに手を加え、今年1月に出た改訂版。
大統領や権力の中枢が国民をあざむいたら、いったいなにを信じればいいのか。国家とは、正義とはなにか。戸惑う人々への、指針の役割を果たしている。
古今東西の思想を引いて、民族や国家主義、愛国心などについて、わかりやすく説いた。朝鮮戦争以来、60年余りも、南北は敵対関係にある。独裁政権や強い国家主義が主流を占めたのは、まさにこのためだ。
その間、民主化闘争は繰り返された。そして現職大統領を弾劾に導いたとき、この国は民主主義国家だと、誰もが再認識した。
しかし「民主主義が、最善の人物を指導者に選ぶものだと誤解すれば、大統領選挙は毎回、失望するために新しい指導者を選出する、悲劇的イベントに転落するだろう」と警告する。
衆愚政治をあおるメディアや、財閥解体をあきらめた進歩政党も、鋭く批判した。
「国民を手段ではなく目的として対し、人間として尊重してくれる国家こそが、立派な国家だ。そんな国に住みたいなら、市民はもっと政治に関心を持ち、能動的に参与すべきだ」
新大統領を選ぶ選挙は5月9日に行われる。はたして韓国民は、どんな未来を選択するのか。

心ある道を歩む

『鳥は飛びながらふり返らない』は、閉塞した社会から飛び出し、放浪する詩人リュ・シファの散文集だ。
「人生は観光ではなく、旅だ。旅は、苦難と語源を一つにする」
インドの占星術師が「行くな」と予言する方角に向かい、「着るな」と言う色を着てみせる人。出版社が「売れるはずがない」と断った翻訳書や詩集を、次々とベストセラーにした人でもある。
「人生は筆写本ではない。一人一人が綴る本だ」
自由に、心楽しく、自発的に、そしてゆっくりと、人生を歩む。そのすべての瞬間こそが、目的地だと説く。
詩人の旅は、どん底の苦しみから始まったことを知った。しがらみをふりはらって飛び立つ勇気のない者にとっては、この人の生きざまがまさに、一筋の光だ。



韓国のベストセラー
4月第1週 インターネット教保文庫集計(総合)
※『 』内の書名は邦題(出版社)


1. 언어의 온도 ことばの温度
이기주  イ・キジュ
さりげなく交わされることばにも温度差がある。心あたたまるエッセイ

2. 국가란 무엇인가  国家とはなにか
유시민 ユ・シミン
著者は混乱の政局を鋭く突く論客。国家とは、民族とは。迷える国民が手に取った

3. 자존감 수업   自尊心授業
윤홍균 ユン・ホンギュン
自分に自信を持ち、自分を愛することを説いた精神科医のエッセイ

4. 기린의 날개 『麒麟の翼』(講談社文庫)
히가시노 게이고  東野圭吾
ドラマや映画は韓国で公開されていないが、熱烈ファンはネットで見ている

5. 센서티브 センシティブ The Highly Sensitive People
일자 샌드 イルーザ・サンド
デンマークの心理治療士による、高い感受性を持ち傷つきやすい人への指針

6. 클라우스 슈밥의 제4차 산업혁명 『第四次産業革命―ダボス会議が予測する未来』(日本経済新聞出版社)
클라우스 슈밥 クラウス・シュワブ
スイスの経済学者が説く、これからの暮らしの変化と世界経済の動向

7. 새는 날아가면서 뒤돌아보지 않는다 鳥は飛びながらふり返らない
류시화 リュ・シファ
人気詩人による新作の散文集。生への根源的な問いと答えがここにある

8. 해커스 CJ 종합적성검사 CAT CJAT  ハッカースCJ総合適性検査 CAT CJAT
해커스 취업교육연구소 ハッカース就業教育研究会
大企業の就職試験に備えた問題集が、未曽有の就職難の時代に売れている

9. 원피스 84 『ワンピース 84巻』(集英社)
오다 에이치로 尾田栄一郎
世界中で大人気の日本のマンガ。もちろん韓国でも、アニメもマンガも人気がある。

10. 에고라는 적 『エゴを抑える技術』(パンローリング)
라이언 홀리데이  ライアン・ホリデイ
成功の裏につきまとう、エゴによる失敗。人生の勝敗を分ける道を説く