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[第202回]元大統領が描く兵の肖像@ニューヨーク

宮家あゆみ ライター、翻訳者



photo: Semba Satoru

『Portraits of Courage』は、第43代米国大統領ジョージ・W・ブッシュによる画集。米国同時多発テロ以降、イラクやアフガニスタンで戦った98人の兵士たちを描いた油彩画が収められている。ほとんどが肖像画で、それぞれの絵には描かれた人物の人となり、戦争体験、愛国心や国家への貢献、社会復帰への苦難などが、ブッシュ氏本人の言葉で記されている。元大統領が画集を出版するということで発売前から予約注文が殺到。発売と同時にベストセラーリストの1位となった。


現在70歳のブッシュ氏のイメージと彼の芸術的才能が結びつかない人も多いだろう。妻のローラ・ブッシュ氏も前文で、結婚当初、夫が大統領になるのは想像できても画集の出版など夢にも思わなかったと記している。


ブッシュ氏が絵画の勉強を始めたのは66歳の時。大統領退任後、自分のこの先の人生に何かが足りないと感じていたが、英元首相ウィンストン・チャーチルが絵画の趣味を持っていたことを知り、自分もやってみようと思い立った。最初は自分自身やペットを描いていた。翌年にはロシアのプーチン大統領や英国のブレア元首相、日本の小泉元総理など世界の指導者たちの肖像画による個展を開催。その後、より大きなキャンバスを使うようになり、原色の絵の具を混ぜて色を作り出す方法や、インパストという厚塗りの画法などを短期間に学んでいった。


今回の画集のテーマは「ブッシュ氏が個人的に知っているが他の人は知らない人々のポートレート」。ブッシュ氏が慈善活動を通じて知り合い、親しくなった兵士たちを写真をもとに描いている。


わずか数年の間に驚くほど画風が洗練された、肖像画からはブッシュ氏の純真さや誠実さ、モデルになった人物に対する彼の共感と敬意が伝わってくる、などニューヨークタイムズ紙をはじめ多くのメディアで好意的に受けとめられている。一方で、そもそも誰が彼らを戦地に送り出したのか、贖罪のつもりなのかという手厳しい意見もある。一時は史上最悪の大統領とも言われたブッシュ氏も、現大統領と比較すれば、いまや善人に見えるという声もある。本の収益は、ブッシュ氏が運営する、心身に傷を負った退役軍人を支援する非営利組織に寄付される。戦地から帰還した兵士たちに対する社会の認識を高める一助になっている点で評価されるべき本であることはまちがいない。



(次ページへ続く)

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