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[第14回]思い出せない本を探す



photo illustration: John Gall
The New York Times

ここ数カ月、私の周りの人たちは、情報を回避するという入念な儀礼で日々の生活をいっぱいにしている。ほとんどどんなことでも、ニュースを読むよりはましだというように。ジョギングを始める人、凝った夕食を作り出す人。私の母はアンデスにハイキングに行った。私はというと、赤の他人の思い出話を読みふけっている。内容は記憶があいまいで、文法的に間違っている文章も多いけどやめられない。心地いい中毒感があるのだ。


仕入れ先は「大好きなのにはっきり思い出せない本と人をもう一度つなぐ」ためのウェブサイト「スタンプ・ザ・ブックセラー」。クリーブランドに近い一軒の本屋が運営していて、題名を思い出せない本の内容についてつづられた依頼文から毎週10本までが掲載される。夢日記的なものや医療専門掲示板並みに差し迫ったもの、どの依頼も説明的だが、切迫しており、不可解だ。宇宙から来て漂うボールを少年が救う話、「薄気味悪い変わり者」の少女が他人から借りた髪留めで足の爪の手入れをする話。金の指輪をベルトにする小人、レディーという名前かもしれないイモリ……。


もう20年以上も続くこのサービスは「生き別れていた宝物の本、約50パーセントの確率で見つかります」とうたう。子供の頃読んでいた本をわが子にも読ませようと張り切る新米パパ、ママからの依頼もある。私のように、精神分析学的に説明できる理由など何もなく、突然「グーグルできない(un-Google-able)」本のタイトルを知らずにはいられなくなる人もいる。


悩める大人たちは、一回4ドルの依頼料で心が楽になれるかもしれない。「解決される保証はありません」と明記されているとおり、誰からも回答がなく迷宮入りする依頼もあれば、大勢をインスパイアする依頼もある。ごく私的な欲求不満が集合的な満足へと昇華し、突飛でありえないような思い出話も本当にあったのだと確認される。




(次ページへ続く)

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