タレントの眞鍋かをりさんが、こどもに望むことはただ一つ、「幸せになる力」をつけてあげること――。
3人きょうだいの長女として生まれた真鍋さん。こどもの頃の「自分はちゃんとしてみんなのお世話をする」という価値観は、裏を返すと「周囲の人に素直に甘えられない」自分となり、子育てでもそれで苦しんだそうです。眞鍋さんを通じて、みなさんも一緒に社会で支え合う子育てについて考えてみませんか。
愛されている実感を持てるように
――眞鍋さんはこどもの頃、ご両親やご家族とどのような関係、環境の中で育ってきましたか? 当時と比べて、こどもを取り巻く環境の変化についてどのように感じていますか?
昔も今も、家族はみんな仲が良くて。私は田舎育ちなので、こどもは野放しというか(笑)、のびのびしていましたね。昔は夜7時ぐらいまで帰ってこなくても、親も気にせずこどもを遊ばせていたような時代でしたよね。今だったらあり得ない。その分リスクもあったとは思いますが、今のこどもはやることも多いし、こどもにかけるアテンション(注視)が大きくなった分、こどもが抱えるストレスも大きくなってきたのかなと思います。
――5歳の娘さんの子育て真っ最中の眞鍋さんですが、子育てをする中で大切にされていることはどんなことでしょうか?
「望むことは、幸せになってもらうことだけ」と思うようにしています。自分の人生じゃないのに、あれもやらせたい、これもやらせたい、と親がコントロールする権利は一切ないなって思うんです。こうなってほしいと思うことはありますが、一番は幸せになる力を育てること。そのためには愛情がすべての基本で、愛情さえあればどんな力にでも変えていける。だからなるべくこどもが愛されている実感を持てるように、「毎日楽しいね」「あなたがいるからみんな幸せなんだよ」といった言葉をかけるようにしています。
人に頼ることが苦手で苦しみました
――幸せになる力とは、具体的には?
「自分を認められること」じゃないかと思うんです。いろんな業界の成功した人、トップの人を見てきましたが、どれだけ成功していても自分のことを自分で認められない限りは、幸せそうではないですよね。
――眞鍋さんにも「自分を認められない時期」があったんですか?
私は長女で、7歳下の妹がいて、弟もいます。長女あるあるだと思うんですが、下の子たちより自分がちゃんとしてみんなのお世話をする、ということに自分の価値を見出してしまったんですね、こどもの頃に。それで「できない自分」だとダメだと思われるんじゃないかという恐れがあって、人に素直に甘えられない。子育てでもそれで苦しみ、自分を認める力って大事なんだなと気づきました。
――子育ての中で、人に甘えられない、頼れないことの弊害は具体的にどんなところにありましたか?
仕事では、人に甘えられなくても、何とか自分でやってやる、って乗り越えてきたんです。でも娘を産んですぐに、子育ては自分の力だけではどうにもならないのだと思い知りました。夫も両親も戦力になってくれたし、素直に甘えていれば良かったんですけど、それが「負け」だと思ってしまって。家族は「預けて寝なよ」と言ってくれたんですが、耳に入らないんですよね。ボロボロになったときに助産師さんから「お母さんは無理しないで人に甘えるのが仕事ですよ」って言われたんです。プロに言われてやっと納得して、周りに任せてみたら、何も問題なくて。こどもにも笑った顔を見せてあげられるし、親も任せると喜んでくれます。それでみんなハッピー、自分もハッピーなんだなと気がつきました。
誰かとつながることで気持ちが切り替わった
――子育て中の親の「孤立」は、社会問題としてもよく報じられます。
都会だと特に、それぞれの家で完結していますから、孤立は増えていると思います。私自身はこのコロナの状況で、人とのつながりがなくなることでこんなにもストレスがたまるものなんだなと思いました。独りで考えていると悪いほうにばかり考えが進んでしまいます。追い詰められている人の考え方が悪いのではなく、状況が負のスパイラルになってしまうだけ。そこから抜け出すのは1人では無理です。誰かとつながることで気持ちが切り替わったり、助け出してもらったりできる。大変だったねと言ってもらうだけで気が楽にもなります。
――孤立を防ぐためにはどうしたらいいでしょうか?
個人個人に対して「こうしましょう」と言っても難しいと思うんです。社会がそういう仕組みを作らないといけない。もちろん簡単ではなく、政治家の方々に頑張っていただく必要があるんですけど、でも「社会の雰囲気を変える」ことなら私たちにもできます。虐待の悲しい事件があってから、世論の高まりもあって、政府が積極的に動いてくれました。今までなかったシステムが加わったり、実際にその予算が増えたり。ムードを作ることなら、誰でも参加できることだと思うんです。
社会のムードを変えることは誰にでもできます
――眞鍋さんはこれまでも「社会的養護啓発プログラム こどもギフト」などに関わり、社会的養護を必要とするこどもたちへの支援活動もされてきました。どんな思いでこれまで活動を続けてこられたのでしょうか?
2018年3月、当時5歳だった船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待死した事件をきっかけに、タレント5人で「#こどものいのちはこどものもの」というチームを結成し、児童虐待をなくすための活動を始めました。その中で、虐待を受けたこどもたちが暮らす児童養護施設も訪ね、園長先生にお話を聞きました。最初は私、「ひどい親」のところにいるぐらいなら乳児院や児童養護施設で育ったほうが幸せじゃないかと思っていたんです。でも、こどもに必要なのは衣食住だけじゃない。芯になる愛情をきちんと受ける権利がどの子にもあるんですよね。現実の社会はあまりにもそれが不平等。その不平等を現状のまま終わらせないことは、みんなの義務ではないかと思っています。
――今回、眞鍋さんには里親啓発の動画のナレーターを務めていただきました。どうすればもっと里親について関心を持ってもらえるようになると思いますか?
里親自体が日常の中でもっと自然に受け入れられるようになればいいなと思います。以前、たまたま見た海外ドラマは、カップルが里親としてこどもを迎え入れるための面接に通うシーンから始まっていました。それが里親のドラマではなく、サスペンスドラマなんです。へえ、と思いましたね。そのように日常生活の中に里親という形も溶け込んでいる社会が理想。そういう感覚的なことは時代とともに変わりますし、これから変えていくことが可能だと思うんです。
「うちは里親にはなれないけど」と扉を閉じないで
――現在里親をされている方、関心がある方、里親についてまったく知らない方、それぞれの立場の読者にメッセージをいただけたらと思います。
里親さんに話を聞かせてもらったことがあります。ご苦労も多く、日々試行錯誤していると思いました。里親さんたちが安心できる社会のムードを広げられるように、私も何か少しでもできたらと思います。そして多くの読者の方と同じで、私自身こうして関わるまでは里親制度について知らないことばかりでした。初めは自分が里親になれるわけでもないのに啓発に関わっていいんだろうかという戸惑いもありましたが、そうじゃないんだとわかりました。
もちろん、実際に里親に関心を持って参加する人が広がっていけば一番ですが、「うちは里親にはなれないけど」という家庭でも、「こういうものなんだな」と知って、偏見を持たずに地域や日常の中で自然なこととして受け入れる。それが必要とされることなんですよね。里親のことを知って理解する、それが一番大事な最初の一歩かもしれないと思います。
まなべ・かをり/1980年、愛媛県西条市生まれ。横浜国立大学在学中からタレント活動を始める。バラエティに加え、報道・情報番組のコメンテーター、CMや執筆などマルチに活躍。子育てに関する活動にも積極的に関わっている。